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読者と作家のリセットマラソン  作者: 弓軸月子
第四章 守られて救う世界

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16 お目付け役の排除はいつだって大変である


「感謝しても構わないよ? 肉体的な時間だけにしておいたから! 実際の時間を返して貰っちゃうと色々と事が終わっちゃうからねぇ」


 歌う様に告げられた内容にジギは納得する。

 魔方陣を覚えるために丸二日は寝食せずに時間を使ったのだ。

 緩く起こる頭痛を振り払うように頭をひと振りして考える。

 それなりに寝食せずに動く手段は心得てはいるが、それはあくまで分かってやった場合であって、計算に入れずに肉体的に負荷がかかると言うのは想像を超えた。

 幸い一度食事を摂ったので食に関しての感覚は最小限だろうか。既に消化するほど時間も経っているので胃の不快感もない。

 眠気に関しては酷いもので、これは座っている状態の方が辛いと立ち上がり、他の二人を伺う。

 集中して魔方陣を覚えていたのだ。二人の肉体的負荷は最悪だろう。


「これはなにか食べた方が良いやつだわ……」


 スティはそんな事を言ってテーブルの上の軽食を眺めている。

 二日程度の徹夜であれば問題ないのかと思ったが、考えてみればスティに関しては頭の整理と言って眠ってはいたのだ。睡眠不足程度の感覚なのだろう、のろのろと神様に取り皿を要求してひと口大のサンドイッチやクッキーを盛り付け始める。

 茫然と虚空を眺めているクロストの前に置いて、一つ取って口に押し付けた。

 クロストはスティを一度睨んだが、大人しく口を開いて咀嚼する。

 考えて見ればクロストが自発的になにか食べているところを見ていないと、ジギもかなりぼんやりしながら二人のやり取りを見守った。


「最後に寝たのはいつ?」


「警告音が鳴った日の営業前」


「ええっと、三日半くらいかしら。それと魔方陣絡みはどれくらいなの?」


「スティと二時間位しか変わらないと思う。覚えた時二日はかかったよな?」


「じゃあ六日弱の徹夜? 食事は?」


「いや、リリーに国境付近から連れ戻された時に強制的に三十分くらい寝てる。その後栄養剤も飲まされたからそっちはまだ大丈夫じゃないか?」


「うん、最後に食事したのはいつ?」


「……スティに避難所を移る提案をした日にでた朝食を食べたと思う」


「……食べさせた気がするわ」


 グイっとサンドイッチを二切れ無理矢理口に詰めてため息を付いたスティは、自分もクッキーをひとかじりして立ち上がった。


「ジギさんは大丈夫ですか?」


「ああ、なんとかな」


 取り合えず食べるに同意だったのだろう、ジギもスコーンを摘まみ上げて口に放り込む。


「それで、神様? この後一体どうするつもりで?」


「君たちはなんて言うか、生命力があっていいね! たぁだ、ここであんまり時間の恩恵あげちゃうと罰にならないでしょ? 食べた分が栄養になるのは見逃してあげるから、一度解散しよっか?」


「一度解散?」


 初対面のジギが聞き返す。


「あぁ! ジギ君とはもう会わないかな!」


「どういうことでしょう?」


 困惑するジギに答えたのは神様ではなく、口内の物を飲み込み終えたクロストだった。


「ジギさんはここにはもう呼ばないってことでは?」


 クロストは睡眠不足による頭痛が酷く、今にも吐きそうで余裕がない。

 なにも考えずに食べるという意味では良い状態ではあるが、もう自分で何をしているのかも判然としなかった。


「クロスト君のそう言うところ、本当にいいよね! でもここで寝ないでね! クロスト君は寝たら起きないでしょ?」


 ハッとしてスティが聞く。


「再集合っていつですか?」


「次に世界の終わりの兆候が見られた時?」


「未確定なんですね?」


「未確定ではないかな。世界の危機なんて結構そこらじゅうで起きているものだよ。それじゃあ、またね」


 あっさりと神様は告げ、次の瞬間にはクロストの自宅へ戻っていた。




***




「大丈夫か?」


 戻ってすぐにジギは立ち上がってクロストの顔を覗き込んだ。

 視線は彷徨い、あきらかに大丈夫な状態ではない。


「もう少しならなんとか」


 そう答えるクロストには聞かずに、横のスティに訪ねる。


「寝たら起きないってどれくらいだ?」


 スティはこれまでの経験則から答えを出す。


「多分十時間は起きないと思います。運んでも、飲み物を飲ませても、食べさせても、衝撃を与えても起きないですよ?」


「ちょっと待って、寝てる間に飲み食いさせてるの? 衝撃って何?」


「実は今はもう眠っていて悪い夢を見ているところだから気にしなくていいわよ?」


「まだ起きてる」


 心なしか返答にも勢いがない。

 そこまでされても起きないと言うのはどういう事なんだろうかと、ジギは眉間に皺を寄せた。


「文字通り、死んだように眠るので、運ぶ時に多少ぶつけても落としても起きないんです」


 スティがジギに補足する。


「……まぁ、そういう人間もいない事も無いが、そうか、分かった。それなら眠ってからお嬢の所に移動してミュレータ―さんに気付薬を渡しておこう。それで何かあっても起こせる。俺も少し整えないとまずいんでな。リジウム、毛布の予備があればくれないか? 後で新品を返す」


 眠気覚ましにテーブルの上に置いてあった軽食を口に放り込みながらジギは手紙を書く。

 薬屋への現状報告だ。 


「予備の毛布、は、スティ、頼んでいい? ちょっと、限界、かも」


 一応話は聞いていたのだろう、クロストはそれだけ告げてカクリと眠りに落ちた。

 スティが慌てて支えるが支えきれない。

 ジギも慌てて手を貸して、普段スティが仮眠をとるために使用しているソファに運んだ。

 ついでとばかりにクロストの口に軽食を詰め込めば、もごもごと咀嚼して飲み込む。

 起きている時よりもスムーズなくらいである。

 水を飲ませるのだけは少々苦手で、スティから手順を聞いたジギが代行した。

 口を開かせて適量を水魔法で注ぐだけなのだが、スティはもうちょっとと欲張ってしまい、いつも大惨事になるのだ。もっともバレない様に掃除をする音や振動でも起きないので問題は感じていない。


 着替えと予備の毛布を準備して、クロストとスティは先に魔方陣で薬屋へ転送した。

 ジギは魔方陣を丸めて家具の配置を戻し、本と魔方陣を持って、最後に戸締りを確認してから歩いて戻る。

 その間にスティは、ロイドから気付薬を受け取って、試しに一度クロストを起こし、診察室を片付けて、クロストと毛布に包まって眠った。

 戻って来たジギに、冒険者の面々は率先して仕事の分配を申し出る。


「岩崩れで閉じ込められて二日ったった感じでしょう? 分かりますよ。集中して整えとかないとうっかり死にますよね!」


 とは、リーダーのリドの言だ。

 どういう状況だったんだと思ったが、他の面々まで深く頷いているので、なにか似たような事があったのだろう。ジギは頼らせてもらうと笑顔を見せ、何かあればすぐに起こしてくれと、玄関の隅で椅子に座り、腕を組んで眠った。




***




 スティは寝苦しさを感じて目を覚ました。

 仰向けに寝ていたクロストがスティ側に寝がえりをうったが、密着して眠っていたために半分乗りかかられてしまっている。

 コロコロと転がって抜け出し、反対側に回り込んで二度寝をしようと起き上がって気が付いた。

 魔道具は持ち込まずに診察室に入ったはずなのでもっと見えないはずなのだ。

 キラキラと光の粒子のようなものが道を作っている。

 こくりと息を飲んで、スティはすぐにクロストを起こした。


「ゴホゴホゴホッ」


 嗅がせる種類の気付薬にクロストはむせかえりながら目を覚ます。

 涙を浮かべながら恨みがましくスティを睨んだ後すぐに異変に気が付いた。

 クロストにしては良い寝起きである。


「いま、いつ?」


 短く発せられた質問にスティは緩く首を振った。


「私も起きたばかりで分からないの」


 クロストも起き上がって仕方がないとばかりに立ち上がる。

 足元がふらつきはしたが、頭はだいぶスッキリしていた。

 光を追って診察室を出、店舗と住居をつなぐ扉を開けて住居側の玄関に向かう。

 玄関扉の横で、椅子に座って腕を組んで眠るジギの腹辺りに光は集まっている。


「ジギ君とはもう会わない、ね」


 クロストは呟いて、洗い場で顔を洗い、手ぬぐいで押さえるように拭う。

 スティもそういえば寝起きだったと次いで顔を洗い、手持ちのハンカチがなかったのでクロストの手ぬぐいを奪い取った。


「ついでに洗って干しておこう」


 嫌そうに手ぬぐいを奪い返して水で濯ぎ、薬草用に吊り下げられた金具に引っかける。

 スティは玄関扉を開けて空を見上げて、今が深夜で魔方陣の巡回時間と言っていた頃ではないかと、クロストに告げた。


「……再集合、なのかしらね?」


 スティが呟くが、クロストは黙ってジギの服を脱がせて、懐に仕舞われていた本を取り出す。


「前にも言ったけど、世界が終わると君の新刊読めなくなって困る」


 スティは笑って頷いた。

 クロストにしては珍しく、そのまま床に腰を下ろして膝の上に本を置くので、スティも隣に腰を下ろして本に手を置く。


「いい?」


 今度はクロストが笑って頷く。

 スティはその笑顔に少し驚いたが、背中を押されたような気がして一気に本を開いた。

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