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読者と作家のリセットマラソン  作者: 弓軸月子
第四章 守られて救う世界

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14 無理をしない冒険者と振り回される一般人と無謀な重鎮


 休憩明け一つ目の魔方陣はスティが書き上げた。

 心配していた言語の問題も、出身国が混在する冒険者の集まりであり、キドニー語でも問題がなく、一度聖女に来てもらえれば安心だろうと言う程度の状況で死ぬこともなかった。

 二つ目はブレイン国側の集団であったがクロストの番だった為に問題なく書き上げた。

 やはり順調に難易度は落ちているのだろうと拍子抜けした三つ目。

 たまたま飛び込んで来た魔獣に無警戒だった治療師が殺されたためにスティは自害した。


「あら大変! クロスト交代するわね」


 あっさりと告げて迷いもしない早業だった。

 クロストは焦ったが、入れ替わった後に警戒を呼び掛けてから魔方陣に取り掛かったところ、魔獣はあっさりと倒せたのでタイミングの問題だったのだろう。

 四つ目はキドニーの集団で、勇者パーティ―の騎士であるサイが休憩しているところに出くわした。

 伝達手段は明言しなかったが、エステルから聞いていると言ったサイは、十分間邪魔が入らなければいいんだよな? と確認した後姿を消し、魔方陣が書き上がる頃に返り血まみれで戻って来た。

 一時間は魔獣は来ないと告げて、魔導士にお湯を作らせて浸かっていたので、別にリリーが行かなくても良いのではと思う程だった。

 たまたま休憩中に出くわしただけで脅威度で考えれば妥当なのかもしれないが、余った少しの時間を湯に浸かるサイの観察にあてるのはいかがなものかとクロストは思う。


(乙女の恥じらいは?)


 一応聞いたが、


(役職によって筋肉の付き方が違うっていうじゃない?)


と正当性を主張するので黙っておいた。

 五つ目もキドニーの集団。

 この中にはスティの兄のフォーの姿も見られた。

 クロストの番だったのは幸いである。

 兄が家族に告げずに救援が必要な場所で魔獣の解体を行っているなど考えても見なかったのだろう。

 魔方陣を書いている間も混乱し続けていたので、すべてが終わったらスティが顔を合わすより前に声をかけ、簡単にはなるが怒られる旨を伝えようと決めた。

 とはいえ、食肉加工場職員がいても問題ないような場所ではある。

 魔方陣自体は問題なく書けた。

 六つ目は激しく憤慨中のスティの番だが大丈夫だろうかと既に慣れた感覚で戻る。

 けれど、一瞬の三人の時間から、そのまま通常の時間に戻された。

 薬屋の居間兼台所である。


「あ!」


 声を上げたのはクロストだ。

 ジギが本を開いたままの形をしていた手をほんの少し動かしたのだろう、ボロリと紙が崩れる。


「え?」


 ジギもすぐに気が付いて動きを止めたが、スティが驚いて本が置いてある近くに手を置いて覗き込もうとした時、その振動で再びポロポロと崩れ始めた。


「わぁ! ごめんなさい!!」


 慌てて手を放したスティの腰がテーブルに当たり、本は更に破損を進める。


「あん? どうした?」


 気が散らないようにとテーブルから少し離れていたリリーが近付いてきてジギの肩を掴んで覗き込む。


「げっ」


 普段から扱いはぞんざいである。引くように掴まれた肩が振動を呼び、開かれた本の角度に沿ってポロポロと崩れていく。

 壁際に控えていたロイドが片手で目を覆った。


「空き箱回収してきた!」


 そこにバタバタとサイトがやってきて、どん、とテーブルに空き箱を乗せた。


「「「終わった!」」」


 クロストとスティとリリーの声が重なる。

 ジギは半眼になり、ロイドは視線すら向けなかったが、本は原型を留めないほどに粉々になった。

 一撃必殺だった。


 暫くの沈黙の後、持ち直したのはジギである。

 本の死に目に硬直しているクロストは無視して、取りあえず報告をとスティに告げて、魔方陣の状況を確認した。


「魔方陣書けたのも、そもそも拠点になってる場所みてぇだし、これでちょっと移動すりゃ全体を網羅出来るのかもしれねぇな。お役目ごめんてな?」


 リリーはそんな事を言って、そっと崩れた本に手を置いて目を伏せた。


「力を貸してくれてありがとう」


 スティは今回の件の被害が少なくなるように命がけで本を願ったのよね、と感慨深げに見ていた。

 クロストは神様相手に命で脅して本を入手したのに力を貸してくれてって? と困惑している。

 ジギは我儘の自覚はあるのかと目を細めた。

 ロイドは神様などいたとしても信用はしていないのでお礼など見当違いだろうと舌打ちをする。

 サイトはよく分からないけどここにいていいの? と涙目になった。

 結局呟かれた言葉は誰も拾わない。




***




 リリーとジギが設置した魔方陣を回って支援物資や状況確認をして、エステルに報告と相談をし、王宮でひと盛り上がりして、もう一度エステルに報告と相談をして、戻って来たのは深夜だった。


 残った冒険者の面々は、その間に薬を作るために出来る準備を済ませたり、交代で仮眠を取ったりと穏やかな時間を過ごして万全である。

 スティは頼まれるがままに少しの手伝いと、言われるがままに食事を摂り、風呂に入りとそれなりに落ち着いていた。本気の仮眠というのがなかなか難しく、今からなら少し寝られるかも、という感覚だった。

 クロストはもう色々と無理だったので、ひたすら掃除と、スティが書き散らしたメモを読んで過ごしていたために少々厳しい状況である。慣れてはいるのだがそろそろ目に見えて顔色が悪くなってきた。

 戻って来たリリーとジギも顔に疲労をにじませている。

 取りあえず再び薬の在庫を作ろうとしたリリーをロイドが止め、仮眠を取れと、寝室に押し込んで、ジギから簡単にこれからの活動内容を聞いて再び三時間の休憩を挟むことになった。

 夜間は活動的になる魔獣が多い。三時間後にもう一度すべての魔方陣を回って、それから明け方にもう一度。その後は様子を見ながらになるが、昼までは時間が作れるだろうという。

 クロストは、軽食と仮眠も取れれば取ってくれと最終防衛ラインで言われた事を思い出していた。

 スティにそんな話をすると、確かに休憩と言われるとトイレと水分補給と思うかもと頷いて、状況次第で急にどちらも取れなくなるなんて冒険者ってやっぱり凄いわよね、と、座面に足を乗せて床に転がって死んだように寝ているテトラを見る。冒険者パーティ―の紅一点で計算が得意な秀才ですらこうである。もっとも彼女は普段から眠そうな喋り方ではあるのだが、上をまたいで通り過ぎようが頭上で話していようがピクリともしないのはちょっと怖い。


「さてと、お前さん達どうする? 避難所へ戻るか?」


 本が使えなくなった今、二人がこの場にいる必要は特にない。

 諸々の調整の問題だろう、休憩は後回しにジギが担当してくれる様だ。

 クロストがぼんやりしているので、スティが返答する。


「クロストのお家では駄目ですか? 私も少し寝たいですし、クロストもここだと眠れないでしょう?」


 避難は魔獣が入り込む可能性があるためのもので、最終防衛ラインを知る二人にとって、家に帰る事に恐怖はない。加えて、何かが起きた時にまたどこかで入れ替わる可能性もあるのだ。

 避難所にいるよりは人目の届かない場所にいた方が良いだろうという判断だ。

 薬屋と本屋は歩いて移動できる距離である。


「は? なんで僕の家?」


「え? 私の家でもいいけど、ベッド一つしかないわよ? 人の布団で眠れるようになったの?」


「ならないけど。スティはスティの家に帰ればいいんじゃないの?」


「ちょっと言っている意味が分からないわ?」


 変わったと思っていた関係性はあまり変わらないらしい。

 ジギはどうでもいいとばかりに言った。


「送っていくから準備しろ。ロイド、戻ったら仮眠をとるからお嬢の行動時間、調整しといてくれ」


「かしこまりました」


 準備という準備もなかったが、食料がないのではありませんかと、ロイドが小分けにした軽食をいくつか袋にいれてクロストに持たせる。まともに何かを食べているところを見ていないので心配したのだろう。今なら食べられそうな気がすると、クロストは大人しく受け取った。

 別れの挨拶で少し迷う。さようなら、とも違うし、また後で、も違う。

 一日の終わりと考えればよいだろうか、スティは玄関先でドアを押さえてくれているロイドを振り返って言った。


「じゃあ、おやすみなさい」


「はい。お疲れさまでした。おやすみなさい」


 そのままロイドに見送られながら三人はリジウム冒険本書店へ向けて足を進めた。

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