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読者と作家のリセットマラソン  作者: 弓軸月子
第四章 守られて救う世界

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09 蚊帳の外から蚊に刺されそうだと大騒ぎ


 ジギがロイドを呼んでくると出かけて行き、リリーが薬の追加分用に薬草を摘んでいるから用があれば声をかけてくれと庭へ出て、一人で唸りながら頼まれた仕事をこなしていると、ロイドと所属する冒険者パーティ―がやって来た。


「スティさん、お疲れ様です。店主はどちらに?」


 ロイドは相変わらず殺し屋のような雰囲気で、しかも今日は血まみれで三割増しで近づきがたい。

 冒険者組合の依頼で勇者パーティーに同行していた為、ロイドだけを呼び戻す事が難しいと言う話を聞きはしたが、スティはその疲れ切った面々を見ながら、組合のルール以前に現場にいた人々から、あいつら逃げやがった、等と不名誉な噂をされやしないだろうかと心配になった。


「ロイド、リリーちゃんはお庭で薬草を摘んでいるわ。皆さんも、お疲れ様です」


 軽く挨拶をしたところで、スティの横を通り過ぎて台所の換気窓に向かってロイドが声を張り上げる。


「クソ聖女、交代で風呂入りつつでいんだろ? 魔石持って来たぜ」


「おー、おつかれ。いま中入る。」


 庭に声が通るようで、リリーの返事が小さく聞こえた。

 どうしてリリーに対してはこう口が悪いのだろうか。

 それでも今の短いやり取りで済んだのだろう、仲間に簡単に指示を出し始めた。


「テトラは先に風呂どうぞ。反対側の突き当りの扉です。リド、全員分の着替えを頼めますか? サイトは転送部屋で魔石と待機を。キシロは冒険者組合に伝達をお願いします」


 顔を見渡して思い出す。

 テトラは亀裂の向こう側にいた魔導士で紅一点。女性に先にお風呂をすすめる辺りメンバーはみんな紳士である。

 リドは中衛で剣を整備していた回復役の人物だろう。多分賢者だと思うが、見た目はかなり強そうだ。言われた途端に出て行った。

 サイトも中衛、剣を投げていた人で、剣士なのだろう、元々持っていた魔石の入った袋を叩いて頷いた。

 キシロは亀裂の向こう側の後衛で、運べと言われていた人だ。職がよく分からないが、言われてすぐに姿を消す辺りジギと雰囲気が似ているかもしれない。冒険者なので密偵や斥侯が当てはまるのだろうか、見える場所に武器は所持していなかった。

 スティは全員の顔を覚えていたので、生きて動いている事に改めて安堵した。


「リドとキシロどしたよ?」


 戻って来たリリーにロイドが行先を告げ、あっそ、と返事をして、追加で作る薬の種類を伝える。

 それから心配だから回復薬一箱分は先に置いてくると言って、先程の現場に向かった。

 付き添いはサイトで、これは少し意外に思う。首を傾げていたら、指示出し出来る人がいないとどうにもなりませんから、とロイドに冷ややかに言われたので、ロイドも行きたかったのかもしれない。

 自分が重くて運べなかった薬瓶入りの箱をひょいと持ち上げて歩く姿は心強い。


 最初に戻って来たのはリドで、テトラ着替え、と風呂場に突撃したので驚いた。

 何故かリドの悲鳴だけ聞こえて慌てて出てきたので、冒険者故という訳ではなさそうだ。

 次にキシロが戻って来て、万事つつがなく、と少しだけ休憩しているところに、リリーも戻って来た。

 本当に置いてきただけの様で、現場は完全に持ち直していたよ、と軽く声をかけて、待て待て、怪我をしたまま風呂に入るなと、順番に回復薬を飲ませて風呂に送り出した。

 あまりにも堂々と送り出すので風呂が広いのかと思ったロイドを除く男三人が、一人で入るにはゆったり目の風呂でもみくちゃになっていたが気にしてはいけない。暑苦しいと思ってはいけない。ついでに需要があるかしらとか思ってもいけない。


 全く手際は良くなっていないが、単純作業は最後の一箱。ようやく考え事をする余裕が出て来た。

 だからスティは普通に聞いた。


「そういえばジギさんは?」


「ワタシ達がいた場所で人員配置中です」


 さらりとロイドが言う。


「ああ、抜けた分の穴埋めが必要なのね」


 なるほどとスティが頷けば、風呂行ってくるとロイドは出て行った。

 交代でどかどかとリドとサイトが入って来た。

 キシロは転送部屋待機らしい。何のための待機なのかはスティには分からない。


「休憩がてら手伝うぞー」


 ニコニコと優しい笑顔でリドが言う。

 聞けばリドがこのグループのリーダーだった。


「あ、計算、は、得意、なの。私が、やる、わね?」


 スティがここまでまとめて来た紙束を集めてテトラが仕事を引き継いでくれた。

 計算が苦手なので助かった。


「終わってる分は転送部屋に運んじゃうね」


 サイトが箱を運び始めた。


「薬草の仕分け終わってるやつは調合室か?」


 既にリリーが調合室で薬を作り始めている。

 リドが丁寧に運び始めた。

 スティは手が空いたので皆さんにお茶でも、とお湯を沸かし始めただけで、戻って来たサイトに手付きが危ないと言う理由で交代され、ここまで一人で作業していたのなら少し休憩したらいいと、リドに椅子をすすめられ、テトラの隣に座って、物凄い勢いで計算されていくテトラの手元に己の至らなさを嘆いた。


 風呂上がりにロイドが覗いた時、スティはテトラと仲良く作業をしているように見えたため、そのまま調合室へ行ってリリーと言葉を交わした。

 転送部屋で待機していたキシロから二通の手紙を渡されたのだ。

 エステルからのものは、入れ替わりは憑依魔法として噂を流しておく、責任はこっちで被るから思う存分やりなさいとある。魔法陣を描き始めたら全力で守るようにとも付け加えたとあって、リリーは過保護だなぁと笑った。

 起動方法さえ秘匿してくれれば後はなんとでも、と言う注意書きにはちょっと冷や汗をかく。完全に隠したかと聞かれると弱い。さっきはコートも着ずに出てしまった。あれには手元に隠蔽魔法がかかっているのだ。次回からは最新の注意を払おう。

 ジギからの手紙は、思いの外到着が早く、図書館の備品に大判の紙が目に入ったので、失敬してクロストに転送用魔方陣を書かせたとあった。これで図書館から転送部屋へ行けるので、失敗しても時間いっぱいまでは挑戦できる。これから入れ替わりが可能か確かめるが、先程の様に緊急を要する場合はすぐに連絡を入れるので待機していて欲しい、とある。


「届いたのは?」


「今」


 こちらが気付かぬうちに時間停止しているらしいので、すぐに連絡が入るかもしれない。リリーは空いている椅子に乗せたままだったコートを回収するべく立ち上がる。


 スティは休憩なら書き散らかしてしまったものを片付けようと鞄から紙束を取り出していた。


 さっきはコート着て行かなかっただろうと、ロイドに怒られながら、リリーは台所へ向かう。


 スティは作業を中断させる時、切りの良いところまでよりも、中途半端な状態の方が再開が早い方だ。次の思考を考えるよりは思考を戻す感覚の方が早いということかもしれない。

 最初のメモから順番に重ねていき、最後のメモの、最後の一文。


『ああ、この子を巻き込んじゃいけない と彼は思う』


 急速回転する脳が当たり前に弾き出す。


 スティに入れ替わらせない。本を開けるのはジギ。クロストと二人で実験。場所はここが本の有効範囲外になる場所で人がいない場所。図書館だ。他は思い浮かばない。巡回車が使えるなら行って帰って一時間。時間も一致。もしも成功していれば既にどこかで魔法陣を書き上げているかもしれない。


「悪ぃ、コート出しっぱなしにしてた」


 入室してきたリリーに、スティはバサバサと紙束を放り投げて詰め寄った。

 瞬時にロイドの腕が間に入ったが、スティはその腕を柵の様に掴んで言う。


「図書館に行かせて!」


 それはもう超能力に近い。

 女の勘や第六感とか、なにかそう言うもので、スティには間違っているとは思えなかった。

 これか、とリリーは思う。

 けれど気持ちを汲んであげるのは難しかった。

 もう既に泣きそうな顔をしているのだ。

 こんな状態では現場で役に立つとは思えない。

 死だけを経験しに行かせる様なものだと、奥歯を噛む。

 クロストが失敗していれば当たり前にそれを選択するのだから矛盾しているとも思うが、現状で首を縦に振る事はできなかった。

 スティはリリーの迷いを見逃さない。

 だから事情が分かっておらず、異様に戻りが早かったリドに声をかける。


「リドさん、最短で王立図書館まで運んでいただけませんか?」


 入れ違いになる可能性もある。この発言にリリーが反応するかと思ったが、リドはさすがリーダーと言うべきか、あっさりと断った。


「巻き込むな、巻き込むな。あと人の手を借りなくちゃ実行できないならそれなりの理由と信頼関係を作らないと駄目だろ。しかもオレら依頼でここにいるから、依頼主に許可取らないと動けないぜ?」


 もちろん依頼主とはリリーのことである。

 ぐぬぬ、とスティは唸ってリリーをもう一度見た。

 あれ? とリリーは首を傾げる。

 もうスティに泣きそうな色はない。

 焦燥が怒りに変換されているのだろう、凶悪と称される微笑みを浮かべて、キレた。


「いい加減にして! 私の身にもなりなさいよ! 使えないわ足を引っ張るわで散々かもしれないけれど、それならきちんと説明して選択させなさい! 結界の外何て言葉があるけれど、結界の外の方が断然危ないじゃない! 守りたいなら入れてから守りなさいよ!」

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