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読者と作家のリセットマラソン  作者: 弓軸月子
第四章 守られて救う世界

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08 今も自分の知らないところで不幸になっている人はいる


 クロストにも一度会って謝りたいと伝えたが、一時間後には立て直すと言っているのだから待ってやれと、リリーに止められた。

 確かにそうやって距離を置いてなんでもなかったかのように再会する事は何度もある。

 そういう性分なのだろうとスティは頷いて、自分に出来ることを尋ねた。


 テーブルの上に置かれた木箱に、隣の調合室から薬を運んで、出来るだけ同じ薬を入れて、なんの薬が何本入ったか、一応後で損益計算書を作らないといけないからと、料金表も渡されて、スティは黙々と作業をしている。


(取りあえずは無料配布だけれど、素材は採集しているとは言え瓶代はかかるから損失分は把握が必要か。消費期限も設けているでしょうから在庫処分する事もあるだろうし、薬師といっても個人経営だと細々色々あるわよね)


 そんな事を考えつつの作業であるが、調合室に箱を持ち込んで入れれば早いのではと試してみて重くて運べなくなり、同じ箱に同じ瓶にも関わらず入る個数が変動して首を傾げ、計算が正しいか心配で再度計算をすれば答えが合わずとなかなかに苦戦していた。

 こういった作業は苦手なのだ。




***




 リリーの薬屋には処置室もある。

 寝台と壁際の作り付けの椅子は机代わりにもなり、薬を待っている間に休んで貰ったり、外傷の応急処置を行ったりする部屋だ。

 戻って来て真っすぐにその部屋へ向かったクロストは、取りあえず座って壁にもたれかかりながら思い返す。


 あの時は取り返しのつかない状態で間接的に人が死んでしまった事にショックを受けたのだと思う。脳内が真っ白になってしまったのだろう、少しだけ記憶が飛んでいる。

 気が付いた時にはスティに胸倉を捕まれていた。

 相手を刺激して余計に怒らせたりしない方が良いだろうと、黙って顔色を伺っていたのだがその顔色は酷いものだった。

 怒りから気付き、後悔から反省、それでも納得がいかない色を残し、何年もしてから思い出して怒りそうだな、などと状況にそぐわない事を思う。

 確かに死んでやり直す余裕はなかったが、余裕があったとして死んでやり直したかどうかは、正直分からない。

 必要な犠牲と割り切ってしまった方が幾分()()だと自分勝手に思う。

 あの状況でスティが正常に仕事をこなせるとも思えなかったし、思ったよりも痛みがあった。

 指で書かずに土魔法で石の棒でも出せば良かったか、保有する魔力量を把握する術があるのかどうかも確認すべきかと、次に向けて考える。だからジギに担ぎ上げられた時には本当はもう落ち着いていて、なにか言う事は出来たのだが、それはしなかった。

 スティがこちらを心配している内は精神的に追い詰められる事もないだろうと思った。

 追いかけてこられたら困るので、転送の部屋までは大人しく運ばれ、部屋に入ってから二人を利用した形になった事を謝罪して、必要な犠牲だったと割り切らせて欲しいと告げた。

 二人には当たり前の事だったのだろう、そんなもんだろ、とジギに背中を叩かれてその話は終わりになる。


 転送先では入れ替わった兵士になにがあったのかを告げて二発ほど殴られた。

 さすがに訓練された兵士と言うべきか、父親のそれとは違い、普通に吹き飛んだが、痛みより申し訳なさが上回る。彼を助けた兵士は既に事切れており、本人も魔力枯渇で疲弊する中、魔法に頼らない救護活動を訳も分からずにこなしていたのだ。

 今後の事もあるので内密という形での報告だったが、部隊長も交えていたし、リリーは既に救護にまわっていたがジギが付いてくれていた。誰も止めに入らなかったので、気が済むまでどうぞと煽った。

 それで相殺されるなら安いものだと打算的に考えた部分もあるし、そう考える自分に吐き気もした。そういう気持ちが相手に届いてしまったのだろう、謝りませんよ、と彼が終わらせた。

 よほど苦い結末だと思う。


 どんな事をしたのかは分からないが、さすが聖女と言うべきか、怪我人は一人も居なくなり、必要な物資などを確認してから一度戻ってまた来ると、責任者とジギが話している間にリリーと話をした。


「神様の恩恵が殆どなかった。翻訳もされないからスティは何を言われているか分からなかったみたいだし、魔方陣を完成させても終わらなかったから、十分間はその場で踏ん張らないといけないんだけど、戦闘なんてしたこともないからかなり厳しい。致命的なのが、ええっと、精神的負荷に対する軽減? がなさそうな事かな。今回みたいに守ってくれた相手に死なれた場合、スティにはちょっと危険かも」


「はぁん。まぁ、確かにキドニー側よりブレイン側のが劣勢だからな。優先順位的に言葉が通じない現場に入れ替わる確率は高ぇか……なあ、スティだってガキじゃねぇんだし、取りあえずで割り切れんじゃねぇの? クロストだって平気そうだし」


 言われた事に返すようにリリーが言うと、クロストは珍しく笑いながら言う。


「僕はもともとどうかしている自覚はある」


 リリーはクロストから視線を外してため息を付く。


「ジギさんと二人で、僕だけ入れ替われないか一度試させてくれないか? そうだな、範囲外だし、ペルビス王立図書館なら立入禁止になってるだろ?」


 クロストの提案に、リリーは不承不承頷いて了承した。

 成功するかも分からない話ではあるが、事前にいくつか条件は上げる。

 精神状態は必ずジギに確認させること、キドニー語が通じる範囲に入ったらスティに全て話すこと。

 いくつ魔法陣を設置しなければならないかはまだ確定していないのだ。

 今回の場所も想定した場所ではなく、また、来なければ死亡者が増えたことは明白だった。


「クロストが使い物にならなくなる前に、スティには頼まねぇとなんねぇのも分かっとけよ?」


 聖女として世界を守る覚悟は疾うの昔に付けているのだろう。

 どれ程目の前で死なれたのだろうか、諦めたのだろうか、クロストには分からないが、単純にこれからさせる不本意な事は自分が原因なので、出来る限り自分で被ろうと思う。

 責任者との話し合いを終えたジギにも情報を共有する。


 ジギがリリーから離れるならと、替わりにロイドを呼び戻す事にした。

 有事の事態なので冒険者組合に事務手続きをして、所属する冒険者パーティ―ごと呼び戻さなければならないが、リリーの立場があれば些事である。

 薬屋の雑事に慣れており、勇者パーティ―の直下で動いていたパーティーだ。護衛としては過剰戦力とも言えるし申し分ないと、ジギも了承した。

 エステルを中心にした拠点の転送魔方陣は持ち運び可能な状態にしているらしく、そこの守りをロイドが行っている為、先に移動して事情を説明、人員配置を丸投げしたので、


「クソ聖女、面倒事を持ち込みやがって」


「やんのかゴラァ」


と、少しだけ揉める。

 ロイドは相変わらず魔石を集めていたようで、滴る程血まみれの状態で、魔石の入った袋を渡してきた。転送用に取りあえずという事らしい。

 調整が済んだら、何食わぬ顔でジギが迎えに来た体で薬屋に来ると言うので、そこで別れた。


 薬屋に戻ったらクロストは処置室で一度待機。

 図書館までの往復を考えて一時間、時間を作る。

 それからクロストが、スティがクロストのやる事に気が付く可能性があると主張した。リリーもジギも考えすぎではないかと思ったのだが、神様に選ばれた二人という認識もあり、念の為にと、スティが苦手とする家事に近い作業と計算をさせる状況を作った。

 リリーが作業手順を教えている間に、ジギはロイドを迎えに行くと言って部屋を出た。


「待たせたな」


 音を立てずに処置室へ入って来たジギに目配せしてクロストは立ち上がる。

 思い返してみたが、これで良いだろう。

 リリーの薬屋を出ようとしても後ろ髪は引かれない。


「よろしくお願いします」


 そう告げて、二人で表に出た。

 緊急用に王宮の紋章が入った専用車両が目立たない場所で待機していた。その車で図書館へ向かう。

 馬車の中、一人でも出来ますようにと願うように思ってそれを打ち消した。 

 犠牲が少ない方を選択しているなら犠牲は僕一人にすればいいだろうと、今度は問いかける。

 答えなどないが、願うよりはマシだろう。神様を信じても期待してはいけない。相手がある事柄を自分に都合よく解釈するのは神様に限った話でもなく間違っていると思う。

 だから今回のスティに関しては、ただの僕の我がままで自己満足で、多分後で物凄く怒られる。

 それでも出来ることからやらないと。

 クロストはジギに戦闘についてや魔力残量について話を振って、図書館までの道中を勉強にあてた。

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