表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読者と作家のリセットマラソン  作者: 弓軸月子
第四章 守られて救う世界

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/102

02 善でも悪でも、敵でも味方でもなく


「どこの国だって一般人は人質みてぇなもんだろ」


 リリーは空いたカップに魔法で水を出しながらクルクルとついでに入った水を回して見せた。

 動いているものがあるとついつい見てしまう。

 スティもクロストも一瞬だけ脳に空白が生まれた。


「無茶な要求にお前を殺すって言われたって無理ですで済むけどな、一人づつ殺していきますだと、何とかはするだろ?」


 なんて事のないような声色に合わせて、トプンと水が止まる。

 つまらなそうにクロストは呟いた。


「そういう小説あったな」


「ヌーリーの世界最強の暗殺者は踊るじゃない? 前半はずっと命を狙われ続けるけど完全無視。後半で隣に住んでるだけの名前も知らない娘さんを人質に取られて依頼を受けるやつ」


「ああ。前半完全に喜劇だったから後半の非道さが際立つ作品だったよな。名作かどうかは置いとくけど」


「お前らってホントどこまでも話が脱線するのな」


「え? 脱線してた?」


「してないと思うけど?」


「……してるだろ?」


「一国を消滅させるレベルの魔道具を作らないと殺すと言われたのを殺したければ殺せと断り続けて、隣のちょっと挨拶を交わすくらいの娘さんを人質に取られた三日後には魔道具を作り上げて、ついでに依頼主の出身国に設置するの。そういうことでしょう?」


「要求はのんでもただでは終わらせないもんだろ? 国なら尚更だと思うから、キドニーだって何かしたんだよな?」


 二人して畳み掛けるように言うので、嫌なところを突くな、とリリーはなんだか脱力してしまう。


「……色々あるんだよ……」


 それはそうだろうとは思うが、一般人には思いもよらないし、思いつく情報は回って来ない。

 神様の言葉や送り込まれた状況を無理やり繋げて考えて推理してようやく思い当たる程度だ。


「ジギさんの件がよく分からないんだよな。重要なのは魔獣素材の輸出が盛んな事だろう? それからバチバチ光る魔法」


 クロストが首を傾げればスティは顎に手を当てて自分の考えを口にする。


「一般人まで話が降りてくるまでに時間がかかるんだし、魔石の減少予測は出来てたんだろうから、潜入指示時の目的は魔獣素材の入手方法よね? 秘匿されてたってことよね? 非人道的なことか技術の独占か、チラつかせて支配か……支配目的の割には閉鎖的だし、非人道的な方が小説的よね。幼い子供を生贄に新たな魔獣を生み出して……」


「そこは普通に技術の独占でいいだろ。金になるんだし……まさか事実は小説より奇なり?」


 二人でリリーに目を向ければ、降参とばかりにリリーは両手を持ち上げた。


「閉鎖的だったのが問題だったんだろうな……」


 国内でも身分制度まではいかないが、集落ごとに閉鎖的だったらしいとリリーは説明する。

 ある村で落雷を受けた少女は、死にはしなかったが、体内の魔石を損傷して複合魔法しか使えなくなった。

 火魔法を使おうとすれば水魔法まで出てしまい火が消えてしまうような状態で、村人総出で少女が生きて行くために力を貸したという。


「伝承で美談ぽくはなってるけど、結果的に人体実験だな」


 水魔法が先にあれば火魔法でお湯になる。水が必要ならそこに氷魔法も足せば良い。

 火魔法には風魔法、火力は上がるが使えないこともなく、逆に風魔法の日常遣いは出来なかったという。


「それは困るな」


 掃除に風魔法を多用しているクロストが呟けば、


「風邪をひきやすそうだし、雨の日の洗濯物が臭いそうね」


と、乾燥によく利用しているスティも呟いた。

 庶民の感想である。


「だーかーらー! 人体実験っつったろ? 少女にっんな魔力量ねぇからな?」


 一般的に少女時代のお手伝いといえば魔道具の発動程度だ。

 少女はそれを遥かに超え、魔力枯渇で何度気絶しても、落雷で負った雷模様の火傷を神様の贈り物だからと、魔法を使いこなせる様にならないと、と言い含められた。

 普通に生きていくために、普通に魔法を扱える様にと、村人は正義を掲げてその好奇心を満たしていたのだろう、数少ない娯楽の一つだったんじゃねぇ? とリリーは言う。

 少女は大人になり、やがて雷を扱える様になった。

 言い含めた神様の贈り物は、神様の力を授かったに言い換えられる。


「……嫌な予感しかしないのだけれど……」


 スティの想像通りにリリーは語る。

 次代の雷魔法の使い手を作るために、村の少女たちは雷を受けることになったのだ。

 威力の問題か、当初死亡率は高くはなかったという。故に同じ様な少女は出来なかった。

 同じ様な能力を、雷の模様の火傷を、切望する頃には殺傷率の極めて高い雷が出来上がった。

 そして、我が娘を殺されたくないと、村から赤子を抱いた母親が逃げ出して、事は国内に露呈する。


「村の話だけで一冊書けそうだわ」


「大人向け童話っぽくならない? あんまり一般ウケしないんだよな」


「それだと保護されて良い話で終わりだろ? 違うんだって」


 実験は国に引き継がれる。

 魔法としての分析実験と並行して行われたのは、雷を受けての覚醒実験と、直接魔石を損傷させる改造実験だ。

 死刑囚や孤児を利用したらしいが、キドニーには死刑制度がなく孤児院もあるため、これにはスティもクロストも閉口する。

 多大な犠牲の上に雷魔法として確立するのだが、実験で得た内容から更に利用方法の研究に移行したのは当たり前の事だったろう。


「性格が変わったり、異様に頭が良くなったり、体の一部が動かなくなったり、逆に動いたり、一瞬気絶するとか、吹き飛ばされたとか、色々ありすぎてまだ研究中らしぃけど、実験は魔獣でやる様にしたんだと」


 だから魔獣を暴走させることも、繁殖率を上げることも、安全に殲滅させることも可能なのだろうと、二人は言外をなんとなく理解して頷いた。


「魔法として確立したのならば公表して世界的に研究を進めれば良いと思うのだけれど?」


 非人道的部分を伏せて公表することが可能な様に思える。


「術者に結構負荷がかかるって話だな。魔力量もかなり必要な上に単純に痛ぇらしい」


「無意識で反属性の魔法……ああ、ないのか」


「雷自体、水・火・風を使うらしいし、氷は元々水と風の複合魔法を無意識で使えるってだけだろ? 土は放出に使っても、防御に使っても悪くしかならねぇって話だな。その辺はアタシもよく分かんねぇ」


「最初の女の子はよく大丈夫だったわね……」


 それとも痛みに耐えていたのだろうか、スティは顔を歪めて呟いた。


「雷で覚醒した人間には痛みはないんだと。ただ……魔石に細かくヒビが入っている状態だから、ある日突然砕けて死ぬんだってさ」


 ボソリと返答したリリーは両手を握って続けて言う。


「アタシがいりゃあ、助けられたのかとか、治せたら治せたで、雷魔法を痛がりながら使うのかとか、技術の発展とか、アタシ自身の公表とか、なんやかんや、まぁ色々ぐちゃぐちゃ考えっけどな」


 二人とも、聖女だからと全てを救う必要はないし不可能だろう、と思ったが、言葉はうまく出て来なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ