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読者と作家のリセットマラソン  作者: 弓軸月子
第四章 守られて救う世界

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01 知らずとも回る生活と貯まる負債


「ざっくりとしか説明できねぇけどな」


 そんな前置きをして、リリーは色々な話をしてくれた。

 成功でも失敗でも、どちらにしろジギの帰りを待たなければならないので、時間つぶしの意味合いもある。

 初めは勇者の話。

 例えば一般人にとっての勇者は、なにかとんでもない力を持って人類の脅威となる魔獣を倒し、大量の魔獣素材を与えてくれる存在だ。

 実際に世界を巡り、冒険者では対応できない脅威となる種類の魔獣を絶滅させて来た歴史もある。おかげで魔獣によって国が潰される事はなくなったと伝聞されている。


「え? 勇者ってなにか特殊な、勇者の能力みたいなものを持っているわけではないの?」


 スティはメモを取ろうとしていたが、これは止められた。

 あくまで不確かな噂話や妄想のままにして欲しいと、リリーは申し訳なさそうに眉を下げる。


「そもそも冒険者の中から優秀な人材を集めただけっつー話だな。パーティ―つーか、最初は猛者集団みたいな感じだったんじゃねーかな」


 冒険者が対応出来る魔獣だけになった国々は魔獣素材で人々が暮らしやすい道具を作り、残った魔獣は人の手が届きにくい場所に集まるようになる。

 弱肉強食。スティとクロストはそんな事を思い浮かべた。

 その中の弱い魔獣が人里で冒険者に狩られて素材や食料になり、数が減って魔石が手に入りにくくなれば討伐数を制限したりと調整をして時間を稼ぐ。需要と供給の均衡がいよいよ保たれなくなり、強い魔獣のいる地域へ勇者パーティ―を送り込む。

 当初は各国が勇者パーティ―を所有していた。けれどいざ強い魔獣と対峙してみればそう上手くはいかない。その内国同士が手を組んで、より強い勇者パーティーを作った。


「そういえばよく国同士が手を結んだわよね。独占しそうなものなのに」


「最終的にってだけだな。教科書なんかに載ってる魔獣によって潰された国々の話は半分以上魔石の取り合いで戦争になったって話だぜ?」


「聞きたくなかった真実」


 実際問題一般人の魔力が少なすぎる。

 家の明かり一つとっても、魔石がなければ火を維持する為の木や油が必要になり、火事の心配も出てくる。耐熱性の素材も魔獣の物が多く、魔石だけの話でもないのだろう。


「結局、勇者パーティ―は魔獣だけじゃなくて人間とも戦う羽目になったって話?」


 クロストは嫌そうに呟いた。

 リリーは苦笑いを浮かべただけで、それについては返事をしない。


「生き残った国のなんか偉い人らで話し合って、生き残った勇者パーティ―を飼う事にして、魔獣の巣窟って言われてる場所を人為的に作ったのはなんか分かるだろ?」


 人間にとって都合の良い地域に魔獣を追い込んで、必要な時に必要な分だけ取りに行かせる。

 昨今の勇者パーティ―とはそういう役割だ。確かに言い方を変えれば一般人にとっての勇者の認識であってはいるのだろう。


「っても魔獣素材の需要と供給についてはソレも時間稼ぎでしかなかったっつー話で。昔っからお偉いさんは問題を先送りにしやがんのな」


 国に魔獣の巣窟がなくなれば保険に飼っていた勇者パーティ―を置いておく必要もない。

 魔石を勇者パーティ―のいる国から買えば良いと、勇者パーティーは数を減らし、現在は二つ。


「けどキドニーの勇者パーティーはそろそろ引退を考える年齢だろ? 親父は四十二だし、かーちゃん三十七だぜ?」


「えぇ! お母さまお若いわね! 二十代と言われても信じると思うわ!」


 クロストもスティと同じ気持ちだったので浅く頷いた。

 リリーは自分の母親の話なので笑って肩をすくめる。


「ちっちぇし、アタシと似てるからそんな気がすんだろ? 目の色だけ親父に似たんだけど、体格も似たかったよ」


 そうは言えど父親も平均より身長がやや高め程度でそれ程良い体格というわけでもない。


「まぁ、老体に鞭打ってなんで出張ってるかって言うと、あいつらが強すぎると言うか、そもそも脅威自体を感じてねぇから後身が育たないと言うか、育てる環境がないというか……」


 人里付近の魔獣しか見ていない冒険者はある程度の強さで満足するからそれ以上にならない。

 魔獣の巣窟にいる種類の魔獣は強いが、資源の為には狩りつくしてはいけない。


「脅されていると言うか」


 付け加えられた言葉に、スティもクロストも考え込む。

 スティが思い浮かべたのはもう一つの勇者パーティ―。

 キドニーの勇者パーティ―と違って、出身国が異なるパーティ―はブレイン国に所属しており、まだ年若い。

 一般人にとって、キドニー側が尊敬なら、ブレイン側は憧れ、だろうか。

 魔石の為だったのか、年若い彼らを見捨てるのかとか、そういう事だろうか? そんなことで? とも思う。


 クロストはもう少し嫌な事を考えていた。

 今日ここに行きつくまでの事がすべて繋がっているのだとしたら?


「リリー、津波、いや、土砂崩れが先か。それで地形が変わった国ってどこ?」


 他国の天災の話は冒険者からの噂話でしか知る事はできない。

 リリーは腕を組みながら言う。


「ハーツ国とベロウズ国の国境付近で大きな地震があって、それで土砂崩れで地形が変わったし津波もきた」


「クロスト、それって」


 スティも気が付いたのだろう、険しい顔で片手を持ち上げた。

 リリーがちらりとスティへ目を向けたのを確認して、クロストは言葉を止める。


”大規模な戦争が起こりそうだから、止めるために津波を起こすつもり”


 それはスティの書いた小冊子にもかいてある神様のセリフだ。

 逡巡して、もう一つスティが質問をする。


「地震……マグマ……火山? そういう場所に魔獣の巣窟ってないかしら?」


 リリーはすっかり表情を消して回答した。


「……ベロウズにある巣窟だな。多分ベロウズは最初に断ったんだと思う。魔獣の巣窟はそのままにって」


 それが戦争に発展する理由だったとは言及しなかった。

 リリーは基本的に移動時に合流はしない。だからこれは聞いた話だけれど、と言う。

 キドニーの勇者パーティ―もベロウズ国へ向かっていた。

 既に巣窟入りしていたブレイン国の勇者パーティ―との合流の為だったが、船旅という事もあって、直前で起きた地震の影響をうけ、ようやく着港した先は予定していた場所から大幅にずれていた。

 災害の情報を聞いた勇者パーティ―は、同行していたブレイン国の近衛隊の制止を振り切って救助へ加わった。


「聖女なんて向こうにしたら架空の存在だろ? 親父たちが怪我人一ヶ所に集めて命だけでもつなぎましょうって、水にそこら辺の雑草で色付けたやつを飲ませて回って、それで治したことにしたんだけど、そこそこ働いたな、あん時」


 魔石を使って移動して、従者のふりをして水を持ってついてまわり、こっそり治したのだという。

 帰りはブレイン国の勇者パーティ―から魔石を譲ってもらったため、一度ブレイン国を経由した。

 実は単独で秘密裏に巣窟に入っていた勇者パーティ―が死にかけたという話は、ブレイン国へ移動後に知ったと言う。


「セフトの馬鹿が腕に残ってた回復薬の文字見て物凄い勢いで魔石より薬を増やそうとか大騒ぎしてくれたんで、こっちの行動への避難もうやむやになったけどな」


「うやむやになるものなの?」


「ラング語でわぁわぁ騒ぐもんだから、通訳さんがだんだん適当になったんだよ。会話にならないからブレイン国の王様も何度か取り押さえようとしてたけど、返り討ってた」


 思い出したのかケラケラと笑いながらリリーは言う。


「腐っても勇者ってな。国民人質に取られたってすぐにどうこうって話じゃねぇし、言いたい事は言う」


 リリーの笑顔を見ながら、スティは書きたいな、と指をそわそわさせ、クロストは、


「僕も無自覚の人質?」


と首を傾げながら自分の顔を指で指した。

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