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読者と作家のリセットマラソン  作者: 弓軸月子
第一章 マグマダイブする勇者
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05 何度でもやり直せるなら死ぬのも手段のひとつでしかない


「ああああーーーー!!!」


 クロストは叫んで、落下しながら剣を振り回した。

 このループを無駄にしても良い。

 この理不尽の当たりどころはどこなんだと、ありったけの力を込めた斬撃が空気を切り裂いていく。


(クロスト!)


 呼びかけには答えずに振った剣に、魔力が吸い込まれるのが分かった。

 剣は盾と同様に身長を超えるような大剣になり、遠心力で岩壁へと吸い込まれるように刺さり、そのまま岩壁を削りながら落ちていく。

 ガリガリと削られる音に、クロストは少しだけ冷静さを取り戻したが、速度は落ちても落下は止まらない。


(クロスト!)


 硬い岩壁に剣を刺して落下したことなどないのだ。

 本物の勇者だったら何とか出来たんだろうか?

 クロストにはこの先どうすれば良いのか分からなかった。

 無意識に流し込んでいた魔力が途切れて剣が元の大きさに戻っていく。


(時間、稼がなくてごめんね?)


 クロストはマグマに落ちた。




***




 スティは考えていた。

 神様と出会う前の、一度目の落下はクロストが死を味わった。

 そして手首がねじ切られるのを見た。

 その後初めて体感したそれに、実感が湧いた。

 熱いのか痛いのかも分からない圧倒的な感覚は、思考を奪う。

 クロストはずっと、スティを心配している。

 彼が言ったのだ。

 指示出しできる? と。

 けれどここまで有益な提案ができたとは到底思えない。

 スティは様々な感情を振り払う様に、落下の感覚が始まると同時に、剣に魔力を込めて大剣化し、壁方向に向かって力任せに振る。

 剣に引っ張られる様に壁に向かい、先程と同じように刺さった剣で、ガリガリと壁を削りながら降下して行く。

 速度はかなり落ち、突起した岩肌を使えれば完全に停止出来そうだ。

 スティは安定して足場になりそうな場所を探す。


(左下、座れるくらい)


 クロストの声が聞こえた。

 スティはガリガリと岩を切り裂く剣に力を込めて、左下へと進路を移す。


「カンッ」


 甲高い音を立てて、剣が折れた。


「こっのっ……」


 小さく怒声を上げ、スティは盾に魔力を込めて、壁に押し付ける様にしながら、足場を目指す。

 盾が引っかかる様な手応えを感じて、自ら足場に飛び込む様に壁を蹴った。

 ざらりと岩で顔を削りながら、座れる程度の僅かな足場に到達して、勢いを殺す様に盾を突き立てる。

 なんとか止まれたが、しかし。


「え?」


 ぐらりと視界が暗転した時に聞こえたのは、クロストの声だった。


(魔力枯渇……!)


 勇者といえど魔力特化型の魔術師とは違う。もしくは盾や剣に流し込む魔力が多いのかもしれないが、冒険小説の中でただの町民でしかない二人には分かるはずもなかった。




***




(どうする?)


 死ぬまでに間があったようで、暗闇の中クロストはスティに問いかけた。


(クロスト、一度使える魔法を知りたいわ。何回か死にましょう)


 思い切った事を言うスティに驚きながら、クロストは思案する。


(分かった。枯渇の感じも掴みたいし、使い慣れてる水で試してみるよ)


 落ちる。


 内臓が浮くような感覚を味わいながら、クロストは下に向かって水を発生させる。

 生活用水として毎朝水瓶をいっぱいにしているので慣れた感覚だ。


(足場が増やせるかもしれない。ギリギリまで魔力を使ってみる)


 盾に魔力を注ぎ、大盾に変形させてから、最大出力のイメージで水を放出する。

 考えられない速度の、竜のような水流が、マグマ目掛けて飛んでいくが、しかし、視界が点滅するような感覚がすぐに起こった。

 盾は大盾のままで、魔力は吸われ続けている。


(思ったより魔力がないのか、大盾が優先なのか)


(属性が違う可能性もあるけれど、大盾優先はあると思うわ。解除して死んじゃいなさい)


(酷い言われようだ)


 クロストは笑って大盾を解除したが、途端に蒸気に包まれた。


「……!」


 息を止めたのは生存本能か、マグマに到達した水が熱せられて蒸気になり、全身を襲う。

 火傷を負いながら、けれど目元だけ庇うようにしながら、到達点へ目を向ける。

 足場は出来ていた。

 問題はこの熱。

 クロストの体はそのまま出来たばかりの溶岩に突き刺さり、絶命した。




***




(ごめんなさい)


 スティは落下開始してすぐ、盾を出してからクロストに謝罪する。

 クロストからはすぐに返答があった。


(もう何が何やら)


 ふう、と息をもらし、スティは指先から小さく水を出す。


(氷魔法ってどうするのかしら?)


(氷柱が降るイメージなんじゃない?)


(吹雪みたいに自分の周りだけ降らし続けたらどうかしら)


(ダメだと思うよ。なんか一気に魔力枯渇したし)


(最大出力だったからでしょう?)


 スティは自分の周りをぐるぐると回るように吹雪を起こし、落下地点へは水球を落としておく。


(勇者ってすごいのねぇ。なんでもでき……)


 魔力が枯渇して視界が暗転した。


(……暗転すると何が何だかわからないけど、意識はあるから不思議だわ)


 スティは気を取り直したのかそんな事を思う。


(そうか! 気絶してたら痛くないし、気が付いたら死んでるのか!)


 クロストは死ぬまでの間に、少し安堵したように言った。


(それより、やっぱり着地は無理だと思うわ。壁狙いでいきましょう)


(了解)


 そのまま勇者は落下して死んだようだった。

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