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読者と作家のリセットマラソン  作者: 弓軸月子
第三章 魔力暴走する賢者

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19 設定はあれど説明をするタイミングがないと後付け感が酷い


 自分の魔力で放出された魔法は自分に効くことはなく、外に向かって放たれる。


「不思議に思った事ねぇかな? 胃の消化液って肉だって溶かすだろ? じゃあ胃は溶けねぇのかって話で、あれって胃酸が出ると粘液で覆って保護しつつ中和してんだけど、まぁ無意識だろ?」


 魔法も全く同じで、自分を守るために反対の属性の魔法を無意識に放出している。

 故に例えば火魔法を使用しても、その炎で自分が火傷をする事はないが、場合によっては服や装備が破損する事はある。冒険者があまり手袋をしていないのもこの辺りが原因だ。

 けれど、温められたなにかに触れて火傷をする事はある。

 クロストが脂汗をかきながらなにかに耐えている横で、リリーは優雅にお茶を飲みながら言った。


「栄養剤を処方しても処方してもクソダルそうにしてやがるし、診察で口ん中見りゃ毎度ベロベロに火傷してっからな。だからペルオに心当たりがねぇか聞いたら、」


 カップをテーブルに置いて、恐らくペルオの顔真似のつもりなのだろう、両手で目じりを下げて絶妙に微笑みながら言う。


「スープはぐつぐつに沸かすし、パンとか生モノもどうにも耐えられないと口の中で火魔法使って焼くからただの火傷だと思うけれど?」


 この後に、加熱したらだめな薬があれば粉にしてくれれば寝ている間に飲ませるから言ってね、と続くのだがそれは黙っておくリリーである。


「な、なるほど」


 呆れつつもなんとなく言外のペルオを察したスティは頷いた。スティが仕事中に寝室に入っていくペルオを目撃したことがあるし、クロストは基本的に寝たら起きない。


「ああ、出来るな」


 ジギは口の中で火魔法を出してみたようで、そんな事を言う。


「そういえば毒薬の時って口内で魔法を使っていますよね?」


 思い出してスティが聞けば、なんでもない事の様にジギは答えた。


「そうだな、土属性の魔法で何とかすることが多い。……そういえば本体より五回りは大きくなっていたな……」


 スティが口内で土魔法を使ってくるみ、その後、ハンカチに包んだ毒薬の事だろう。


「あの時は喋る必要がなかったので絶対に死なない様にしてみたのです。苦肉の策でした」


 苦笑いで答えたスティに続いて、幾分落ち着いたクロストがげんなりと言った。


「口の中で土魔法とか正気の沙汰とは思えない」


 クロストを除く三人が火魔法よりは正気だと思うと顔に出しているが、そもそも口内で魔法を使う事自体がどうかしている。幸いそう考える人間はこの中にはいなかった。

 話の脱線を感じ小さく手をあげてジギは発言権を求める。

 三人の目がジギに向いたところで口を開いた。


「やはり俺の時はミュレーターさんが入れ替わっていたのか?」


 ああ、やはりその話になるのかと、スティとクロストは顔を見合わせて頷きあう。

 ここまで連れてこられてしまっているし、別に隠し立てをするつもりもない。

 信じる信じないはこの二人が判断すれば良いと言う事なのだろう。

 先に答えたのはスティだった。


「いいえ。最後が私であっただけで二人で交互に入れ替わっていました。私たちは十四回失敗、つまり、ジギさんを十四回殺してしまっています」


 普通であればここで緊張感のある沈黙が生まれるはずであるが、スティの発言にうーんと眉間に皺を寄せてクロストが言う。


「ちょっと不穏な言い方すぎない? 本当にスティは小説家なのか心配になる言葉選びなんだけど?」


「……ジギさんで十四回死にました?」


「それだとこれじゃない感が凄い。あと、ラング語のうっかり勇者も十四回だったから正確にはジギさんも十四回死にました、が正しい、のか?」


 真面目な顔で目の前の男が十四回死亡した話をしているので、今度はリリーとジギが顔を見合わせて頷きあい、ジギの方が話は進むのだが、聖女であるリリーの方が立場が上なのだろう、場を譲る様な気配にお前が話せよと文句を言いながらも、リリーはスティに向かって口を開く。


「なんでもいいや、十四回死んで十四回生き返って、最後がスティだったって話でいいのか? うっかり勇者ってセフト・リアゾンの事だろ? そっちはクロストが最後?」


 喋り終わりはクロストに視線を向けて、それから確認するように二人とも視界に入れて返事を待つ。


「そうなのよ。一度目と二度目は小説風にまとめてあるから読んでもらった方が早いと思うわ」


 スティはそう言ってごそごそと鞄を開いて、紙束の上下に穴を開けて紐で結んだ状態の物を二冊取り出して机に置いた。


「健忘禄のつもりが小説風になってしまって、自分とクロストが主人公みたいで少し恥ずかしいのだけれど」


 枚数が多い方のぎりぎり小冊子程度の頁数で、読むにはそれなりに時間がかかりそうだ。

 クロストが当たり前の様に手に取って読み始めてしまうので、相変わらず丁寧な手付きで捲られているのを名残惜しく思いつつ、取り上げて二冊ともリリーに手渡した。


「読んで貰っている間に三度目、リリーちゃんのお父様の分はクロストと話して箇条書きになってしまうけれど、まとめておくわね」


 時系列順が抜けが無いと思うとスティが言ったため、二人は椅子を横に並べて、机に本を置いて読み始める。

 ちらちらとクロストが落ち着きなく遠目に読もうとするので、


「体験談だしご本人様が読んでも面白くもないでしょう?」


とスティが言うと、


「日記みたいなものだと思って遠慮して読まなかっただけで読みたくない訳ではないし、気になってた。最近の作品は本当に一番で読んでいただけに酷いと思う」


と不貞腐れたように眼鏡を押し上げるので、スティは嬉しくなって微笑んだ。

 それから白紙の紙とペンを取り出して、箇条書きに起きた出来事を書いていく。

 それこそ荒唐無稽で、物語のような八回の死亡と九回目の成功。

 ついでに避難所で別れてからどうしていたのかを報告しあい、ジギが持ち帰ったと思われる、ガルプラダ情報に含まれるであろう雷魔法と、集団恐慌ではなく突然変異という神様の言葉と、魔石不足や勇者のらしくなさを間に挟みながら、二人が読み終えるのを待った。

 ジギは同時に発された二人の言葉を理解出来る能力があるため、読書をしながら二人の会話も耳に入れている。概ね正解していて、こちらが知らない情報も持っていて、二人の状況に危うさを感じた。

 ある程度は介入して保護しなければならないだろうと、そういう事を考えそうにもないリリーに提案しなくてはと思う。


「そういえばリリーちゃん、それ、出版させられそうになっていて困っているの。後で担当さんに上手く口添えをしてくれたら嬉しいのだけれど」


「んあ? 担当さんって話せる人?」


「微妙なのよ。でも裏は読む方だから、忠告があれば黙るとは思う」


「はーん。早いうちに親父に言っとくよ」


「本当? エステル様って権力の香りがするから、どうなるのか今からワクワクするわ!」


「だろだろ? 権力は任せろ!」


 なるほど、一般人だからこそ自分から保護を希望するんだな、想定したよりも問題がなさそうだと思いながら、ジギは頁をめくるのだった。

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