17 連想ゲームと妄想と現実と
食肉加工場の研究室では大慌てで魔獣の確認が行われていた。
最終防衛ラインで血抜きと内臓処理をされて運ばれてきた魔獣は、いくつかの検査項目を経て避難所に避難物資として既に運ばれてしまっている。
多少の違和感を感じはしたが、野生動物故の個体差と思われる程度の違いだと、追求するほど人手がさけなかったというのが現場の意見だ。
事実食用としては問題も無く、研究員は串に刺した肉を自分の魔法で焼いて食べながら調べている。
自暴自棄とも取れなくもないが、塩を振りかけたり、タレをかけている研究員もいるので、案外通常運転なのかもしれないな、と、スティは渡された串に刺さった肉を焼きながら感心する。
「そういえば内臓って捨ててしまうんですか?」
半分に切り裂かれて足を上に逆さまにつられた熊のような魔獣を見上げながら訪ねる。
内臓自体は流通しているのだ。
「魔獣の場合は何を食べているか分からないから、基本的には廃棄だね。それから今回みたいに検体数が多い時は頭も廃棄対象。まぁ、内臓の……内容物とか、頭は一度回収はするし、ざっくり確かめはするけどね……」
少し濁すように言われた内容物というのは、恐らく人間や、その人間が身に着けていた物の事だろう。冒険者が食われるという話は多少は耳にした事がある。
「頭って調べたらなにか分かるんですか?」
「魔獣の種類にもよるけど、病気とか? 後は単純に怪我の類も確認しないといけないから。毒蛇とかに噛まれた跡とかね。……やっぱり何かの肉を食べてる感じしかしないなぁ……」
説明をしながら肉を咀嚼した研究員は、首を傾げながら切り取った肉を観察用のレンズで覗き込み、なにかの薬液をかけている。
少し離れた作業台では綺麗に洗われた内臓を並べている研究員が書類を片手に嘆いていた。
「魔力線が太いような気もするけど、魔石の大きさは比率的に標準値を出ないし、脳かなぁ……」
過去の資料と比較しているのだろう、スティは見せて欲しいという好奇心で資料を目で追いつつ、トントンと指でメモ帳を叩いた。
「起承転結の結と考えて逆算したらいいかしら? 何者かが突然変異させて、追い立てて集団恐慌みたいになって街が崩壊するけど原因はあくまで魔獣だから何者かの街を潰そうという思惑がバレないみたいな話よね?」
ぽかんと口を開けて、目の前にいた研究員は言葉を発せなかった。
なんて物騒なことを言うのだろう、今は突然変異の原因を探っているところだと言うのに、と言うのは耳にした研究員共通の感想だろう。
「魔獣の種類も無差別みたいだし、森一帯に魔法をかけるとかが手っ取り早いかしら? どんな種類の? 番で変異させたとして繁殖関係を操作してどれくらいで変異体だけで群れを構成できるか、構成させられるまでが鍵かしら。森一帯なら結界を張ってある程度増えるまで閉じ込めて……ああ、密度が増えたら孤独相から群生相への変異とかも面白いかも……でもあれって虫の話よね? 動物でもそう言うことってあるのかしら?」
ゴクリと誰かの唾を飲み込む音が響くほど静まり返っているのだが、スティの思考は止まらない。
ほとんど小説の案でも出しているような気分なのだろう、思いつきを口にしているだけで確実なものではない。
「集団で狩りをする動物なんかは元々群れで移動するわけだし、この辺りは動物の生態関係の資料を確認して動物を絞り込めば現実的な話にはなるかしら? 問題は魔法の方よね? 突然変異させる魔法って何かしら? 繁殖に特化させるなら異性への執着辺り……ああ、アルコール依存には脳障害もあるんだったわよね。依存とか執着度、うん、何かの中毒になる感じだと臨場感が出て良いかしら? 脳に衝撃を与える? 物理だと不安定だし、それなら幻惑系の魔法の方が童話っぽい雰囲気も出て良いかしら? 原因は迫害された森に住む魔女の復讐劇!」
良い事を思いついたとでも言いたげに瞳を輝かせたスティの前では、研究員たちがバタバタと走り回り始めている。
「脳! 脳調べて!」
「精子と卵子の個体数と……」
「小さめの魔獣の生捕りの依頼出せ!」
周囲の変化に我に返り、スティはパタパタと興奮で熱くなった顔をあおぎながら、邪魔にならないように移動した。
「……変異のくだりが弱いわよね。……変異……落雷で人格が変わるって話があったわね……」
南キドニーには製紙業用の植林地帯が多い。
落雷被害の話も時折耳にするのだ。
発信元不明の噂話には、雷に打たれてなお生き延びて、人格が変わったという話もあったように思う。
神様に感謝したくなるような事案ではあるが、あの神様のことだ、死なれると困っちゃうから慈悲発動しちゃいましたー! 位なものかもしれない。
いや、それなら普通に感謝していいのか、などと思いながら、スティはまた思考を進める。
神様の事を思い出したからだろうか、ふと、ガルプラダで襲いかかってきた女の魔法が頭をよぎった。
「丸く光ってバチバチいっていたわよね。綺麗な魔法だったけれど、そういえば小さな雷みたいだったなぁ……」
「雷魔法は一般的には普及していない魔法だ」
スティの呟きに背後から低い男の声が答えた。
びっくりして肩が持ち上がったが、好奇心が勝ち、振り返りながらさらに質問を投げかけてしまう。
「ガルプラダだけと言う事ですか? それとも暗殺技という意味で?」
すぐ後ろに立っていたのはジギ・タリス。
スティは驚いてヒュッと息を吸い込んでから、もう一つ質問を重ねる。
「リリーちゃんの護衛をしていなくて大丈夫なんですか?」
言葉の後半はジギの手によって口を塞がれてしまったため音声化されなかった。




