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読者と作家のリセットマラソン  作者: 弓軸月子
第三章 魔力暴走する賢者

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16 犯行現場に指紋や毛髪が落ちているとかいうアレ


「助かっ……って、あんちゃん、大丈夫か?」


 まだ年若い冒険者は倒れかけたクロストの腕を掴む。

 落下してきた魔獣を避けるために咄嗟に土魔法で屋根を作り、強度的にも問題なく無事に魔獣を跳ね返して地面に落としたが、クロストの魔力量では限界だった。

 魔力枯渇の眩暈に足元をふら付かせ、焦点の合わない目で冒険者を見上げて返事をする。


「大丈夫。ただの魔力枯渇」


「全然大丈夫じゃなさそうだな」


 苦笑いを浮かべた冒険者はクロストを肩に担ぐと、別の冒険者へ声をかける。


「休憩所まで運んでくる」


「んあ、ぼちぼち落ちついてきたっぽいし、ついでにゆっくりどぞー」


「そそ。この人居なかったら死んでたじゃん。風呂入って寝ろ」


「ここは任せて先へ行け!」


「先に行ってどうすんすか! むしろ後退すんすよ! 頼んますね!」


 クロストは歩けると主張したいのだが、運ばれる振動と相まって吐きそうで喋れない。ぐったりと半分眠ったような頭で、仲の良い冒険者たちの会話を聞きながら、死活問題だし休憩って大事なんだなと実感する。

 入り口で人員整理係に名前を告げるついでに下ろしてもらい、


「クロストさぁ、なんだかんだ仮眠も食事も摂ってないよなぁ? ずっとなにかしてるって聞いたんだけど? 奉仕活動で入って貰ってる人に怪我させたとか、何人か会員の首が飛ぶし、場合によっちゃ物理的に冒険者の首だって飛ぶかもしれないの分かってるか? ちょっと考えろよ? 一度医療棟へ行って体調確認して、問題なしの札貰ってきて? その札と交換じゃないと次は出せないからね?」


と、顔見知りの治安維持会の人だったので、今度ははっきり怒られた。

 思ったより人から見られているなと思いつつ、謝罪する。

 街中での日常ではないのだ。その場所なりの日常と言うものもある。気を付けなければいけないだろう。

 眩暈も収まって来たので改めて運んでくれた冒険者とお礼を言いあい、それから自分の足で医療棟へ向かった。

 

 医療棟はかなりしっかりと作られており、受付と診察室、病室に仕切られている。

 受付にはそれなりに人がいて、治安維持会員と薬師でおおよその対応をしていた。

 診察は体調不良や回復薬で治す事ができない骨折、体の一部を欠損した者の為にあるようだ。

 病室はここより先で戦っている中級冒険者や上級冒険者で継続不可能と思われた人々が一時的に利用し、定期便で王立病院に搬送されるらしい。有事の際の一般的な仕組みだと休憩室で教わった。

 自分の状態でそんな施設を利用すると言うのも迷惑な話で、次回があれば本当に気を付けようと、何度目かの反省をしながら受付で名前と状況を伝えると、診療室に案内されて待つように言われた。

 医師が常駐していると思っていたのだが、病室で回診でもしているのだろうかと考えながら椅子に座って待っていると、暫くして扉が叩かれると同時に開き、聞き慣れた声で罵倒された。


「クッソ、こんなところにいやがった、死ね!」


 とても薬師の言葉とは思えない内容である。

 薬屋を経営している薬師のリリー・ベラドンナ、聖女で、大賢者の娘。あれが夢や妄想や嘘でなければ……むしろ夢か妄想か嘘であって欲しい、とクロストは思う。

 ゼイゼイと肩で息をしているので、かなり急いだのだろう、どかりとクロストの前の椅子に腰を下ろして前かがみになり、ちょっと待てと片手を上げて息を整えると、今度は体を後ろへそらしぎみに言うのだ。


「クロスト、アタシを信じて質問に答えろ」


「リリーのなにを信じるんだよ?」


 クロストが意味が分からないとばかりに聞き返すが、リリーはそれを流して質問をする。


「アタシの両親の名前は?」


「両親?」


 思わず聞き返したクロストに、リリーは面白いという顔はするが、言葉は発さない。

 大賢者のエステルに関しては父上であったり、親父であったりと、父親であるような発言は記憶しているが、母親への発言はなかったように思う。もっとも、母親らしき人物と言えば、大魔導士のアマリリスだろう。瞳の色以外は良く似ている。

 そうなるとエステルが父親は父親でも義理が頭につく可能性が思い浮かんで、これは繊細に扱うべき案件ではないかと心配になった。

 不用意に発言してよいのか否か、クロストは返答できずに眉間に皺を寄せて悩み始めたので、リリー笑った。


「別にとって食おうってわけじゃねぇよ。荒唐無稽な話だ。悪いようにはしないし、名乗り出たくないならそれでいい。ただ答え合わせはしたい」


「は?」


 全く思ってもいない事を言われてクロストは一瞬驚いたのだが、言われて気が付いた。

 クロストとスティにとってはどうにもならない現実ではあるが、確かに他から見れば荒唐無稽な話なのである。

 例えば目の前のリリーに突然、『私はスティ、リリーの体を乗っ取っているの』 などど言われて信じられるかどうか、という話で、自分であればもちろん信じられない。

 クロストはどこから話せば良いのかと考えそうになって、止めた。

 そもそも先程まで魔力枯渇の症状でろくに頭も回っていないのだ。

 薬師と客という間柄ではあるが、それなりに付き合いも長い。いつも通り思いつくまま喋ればいいように思え、眼鏡を外してからかけ直して深呼吸をする。


「母親の方の噂を考えるに義理の父親だったら申し訳ないなと思って、言えなくなっただけで、名乗り出たくないとかそういうんじゃない」


「あー、聖女なんて大変だって、内緒にするのに、行きずりの父親をでっち上げた時の噂だな。正真正銘、大賢者は実父だから心配すんな」


 リリーは苦笑いを浮かべて頭をかいた。


「……割と積極的にばらしに行ったとは思うけど、ロイドにだけだったし、確定するのが早くないか?」


「そうでもないよ。回復やくと回復くすりの話、覚えてっか? あれ、そもそもブレイン国の勇者パーティ―から流行ったんだよ。神様が命を救ってくれたって話で。あの時はそう言う話で盛り上がったくらいで、別になんてことはなかったけど、本当に密偵が怪我して帰って来たからな」


「それでもまだ偶然に偶然が重なった域を出なくないか?」


「まぁな。それでも命を救った神様がクロストなら面白れぇなって、ロイドと話してるうちに、ジギが言うんだよ。字が違うって」

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