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読者と作家のリセットマラソン  作者: 弓軸月子
第三章 魔力暴走する賢者

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14 食べないか食べるか


「そういえば、魔獣とただの獣の差って、魔石のあるなしだろ? 捌かないと見分けってつかないよな?」


 クロストは解体場へ休憩用の飲み物を持って訪ね、手近にいた人間に世間話の様に聞いてみる。


「んあ? 見分け付くぜ? 魔獣の方が暗色だな。あと筋肉量が違うから見慣れりゃすぐ分かるぜ? 流通してる食用の肉は色が明るくて筋肉量が少なくて大人しいやつを何代も交配させてったやつで、気が付いたら魔石もなかったって話だけど、飼育したせいか、交配のせいか、その両方なのか、よく分からんらしい」


 口に入るものがそんなに適当でいいのだろうかと一瞬口元が引きつりそうになったが、クロストは耐えた。


「へぇ。肉屋で切られてるのばっかり見るから、こうやって吊るされて血抜きされてるところを見ると不思議で」


「まー、鳥類位だもんな、形が分かるの。そんなもんだろ」


 気のいい職員はあれあれ、と指さしながら一頭の魔獣を指さした。


「豚の魔獣は薄茶が多いけど、食肉用の飼育豚はピンクか白。好みが別れるけど、俺は食うなら油ののった飼育豚派」


「……薄茶というか、殆ど黒くない?」


「そういや、色の濃い魔獣が多いなぁ……いや、マジで多いな?」


 驚いて二度見している。


「色が濃いと、こう、魔獣度が上がったり?」


 自分の語彙力を呪うばかりであるが、とにかくなにか質問しなければと話を続けた。


「魔獣度は上がらねぇけど、なんだ? ちょっと違和感があんな? ん? 悪ぃ、あんちゃん、ちっと、食えるかも確認しねぇとやべぇかも」


「え? 街中に運んでますよね?」


 集団恐慌と突然変異の違いに気が付いて欲しかっただけなのだが、なんだかあまり良くない方向に焦っているように見えて、クロストも焦った。


「運んでっから慌ててんだっつの。ほれ、散った散った」


 職員はシッシッと手で追い払うような仕草をすると、散らばって作業中の職員全員に向けて大きな声で指示を出す。


「注目! 魔獣が全体的に色、形状が一般的じゃない! そこ! 医局行って毒消し貰ってこい! 一番一般からかけ離れてる個体、血抜き良いからバラせ! あ、お前、衛生管理所に伝達出して先生呼べ! あとあの配送便を止めろ、おーい! ちょっと待てぇ!」


 大事になったな、と、クロストは職員の声を聞きながらそっと現場を後にする。

 とはいえ、状況が把握出来たところで、解決策という訳でもないのだ。

 やる事は同じであるし、休憩をしていても落ち着かないので、再び最終防衛ラインに戻ろうと、人員整理係に声をかける。


「お名前と所属あれば」


「治安維持会商店街詰所から奉仕活動参加のクロスト・リジウムです」


「えーっと、まだ休憩取ってください。あと二時間位」


「に……」


 あまりの事に言葉を失うクロストである。


「思っているより疲れていると思います。トイレと水分補給休憩だと思っている方が多いんですけど、軽食と仮眠も取れれば取ってください。状況が変わって、急にどちらも取れなくなることもありますし、ふらっとして怪我されたり死なれたりすると私の寝覚めが悪いので」


 やんわり怒られた。

 慣れない休憩は余分に疲れるだけなのだが、我儘をいう訳にもいかない。

 クロストは先が長そうだと、ため息を付いて空を見上げた。




***




 スティは両親のいる避難所に移ってから治安維持会に声をかけることもなく、子供に埋もれていた。


「おねーちゃん、続きはまだ?」


「そんな奴よりおれの方が強いってば!」


「ビェーン! おにいぢゃんがじんじゃうじょー!」


 子供があまりにも落ち着かずに走り回っていたので、一度一ヶ所に集めて、よくある童話などを聞かせていたのだが、そんな話は知っているだとか、もっとお話をしてだとか、色々と言われている内に創作してしまい、着地点の見えない冒険活劇になってしまった。

 雪山に登り、火山で汗をかき、大海原にのまれて、無人島でサバイバル。子供の体力と探求心にはかなわない。ちょっと休憩しましょうと立ち上がれば、大人しく聞いていた子供たちは再び大騒ぎに戻ってしまう。それでも一時間は大人しくさせていただろうか、支援物資を運び終えた親御さん達がスティを拝んでは通り過ぎる。配給を受け取るもの一苦労だったのだろう。

 食事前のタイミングで三十分くらいのお話があればちょうどいいかもしれない。

 避難している中に演者がいれば都合が良いのだが、地区内には劇団の類はなかったように記憶している。居たとしても団員というだけだろうから、お願いするのは難しいように思う。


「スティ、お疲れ様」


 そんな事を始めた原因でもある、幼馴染のスノー・フレークがコップを手渡してきた。

 名前通り可憐な印象を持つ幼馴染は保育士である。

 子供をちょっとだけ見ていてくれと押し付けられ、室内遊びの道具もなく、前の人の肩に手を置いて円になり、意味もなくグルグル回っていたのは昨日の事らしい。二日目ともなると飽きられるし疲れているしで、本はなくともなんとかなるだろうと、スティに読み聞かせを依頼したのである。

 寝物語のような物をニ、三、話せば良いだろうと気軽に引き受けた自分を呪ったのは十五分後。

 恨みがましく睨みながらコップを受け取って一息つく。


「適当に話していたから内容がぐちゃぐちゃだわ。後半どうしよう……」


「大丈夫よ。適当に終わらせて、あれはどうなったの? って聞かれたら話せばいいわ」


 おなじみの童話でも良くあるのだとスノーは言う。

 何故か脇役のその後を知りたがる子供や、主人公のその後、物語に出てこない主人公の両親はどんな人物だったか、子供ならではの質問が飛ぶと言う。そして聞かれれば適当に捏造しているらしい。

 どこかで辻褄が合わなくなりそうだと思いながら、思い出す。


「スノーが七歳くらいの時に、新年の童話の最後が他の子と違ったのってひょっとして……」


「そうなの。絵本だと結婚するまでなのよね。せがんで子供が生まれて、孫が生まれるまで聞いたのよ」


「おばさんたら!」


 スノーの母親は真面目な顔でそういう事をやるのだ。

 幼少期に二人そろってニンニクは人肉で肘の骨だと嘘を付かれて、これは誰の肘? と聞いて周囲を困惑させたことがあったな、と、スティは遠い目になった。


「やっぱり適当じゃ駄目ね。そこから先は各々で創作してもらうように誘導しましょう」


 ぼそりと呟けば真面目なんだからとクスクス笑い、それから急に真面目な顔になる。


「そんなことよりも。フォー兄が配達してくれた加工食肉が……」


「加工食肉が?」


 スノーはキョロキョロと大げさに周囲を警戒してから、背のびをしてスティの耳元に手を添えて言う。


「びっくりするほど不味かったんだけど」


 その前振りでそんな内容? とは思わない。

 食肉加工場の加工品は、流通させるための加工が主で、所謂調理前の生肉がメイン。

 それ以外のハムやベーコン、サラミなども作ってはいるが、今回は調理室が完備された学校が避難所の為、兄も調理用の生肉を配っていた。

 冒険者の持ち込みで、血抜きが甘かったり、内臓の処理がされていないという事であればあり得るかもしれないが、食肉加工場はほぼ国営の大工場である。基準の肉質と言って差し支えないはずだ。それが不味い?

 スティは首を傾けながら、スノーを見下ろして頼む。


「私も確認したいのだけれど、食べられる?」


 まかして、とスノーは嬉しそうに笑ってスティの手を取った。

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