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読者と作家のリセットマラソン  作者: 弓軸月子
第三章 魔力暴走する賢者

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10 生き返るから死んでもOKなら、治るから怪我させてもOK理論、ダメ絶対


 リリーの両足裏は綺麗に顔面に収まってから通り過ぎ、真後ろに倒れたクロストの頭上辺りに着地する。クロストはそのまま後方に倒れたのだが、地面に到達する際にかろうじて頭を持ち上げたので、後頭部を強打することもなく、ただ顔面の痛みに両手で顔面を抑えて横向きに丸まった。


「よっしゃ、治まった!」


 聞き間違えでなければ、足蹴にした自身の父親を見下ろしてリリーはそんな事を言う。


(クロスト大丈夫?)


 心配そうなスティに身動ぎせずに返事をする。


(全然大丈夫じゃない。絶対に鼻が折れてる。痛い。でも回復しないから魔力暴走は止まったと思う。にしたって、やり方、やり方が……)


「あん?」


 そのまま丸くなっているクロストに、リリーは首を傾げてしゃがみこむ。

 魔力量には枯渇の兆しもなく、いつもならすぐに回復魔法を使用するはずなのだ。

 慌てて額に手を当てて聖女の力を行使する。すぐに鼻血は止まり、痛みもひいているはずだ。

 もっともクロストとしては痛みがひいてしまった今、顔や手についた血や、自分が地面に横たわっている方が大問題で、途端に混乱し始めた。


(ちょ、スティ、これどうしたらいいの? 起き上が……たら垂れるよな? もう半回転してうつぶせ? え? 地面に全身付くよね?)


「おい、大丈夫なのか? クソ聖女」


 なかなか動かないクロストに、ロイドが先程までの丁寧な口調はどこへやら、少し離れたところから大声でリリーに聞いた。


「うるせぇ。黙って魔石かき集めろよ! ちょっと、父上? 治ってますよね?」


 ゴロンと仰向けに転がされて顔を覗き込まれる。指の隙間から見えたリリーの顔は真剣そのもので、


「父上? もしかしてお怒りでいらっしゃる? 心逸りのままに足蹴にして申し訳ございませんでした」


と、先程までの乱雑な口調はどこへやら、神妙に呟かれた言葉にクロストは噴き出した。


「ぶはっ」


 手の平に溜まっていた血が飛び散って大惨事となったのは言うまでもなく、反射的に放出した水魔法を浴びて、風魔法で乾かしながら立ち上がる。

 いつもの態度とかなり異なるのだろう、この時点でリリーとジギは顔に困惑の色を浮かべているのだが、そういえば、だ。

 クロストはジギを上から下まで視界に入れる。


(スティ)


(うん。元気そうで良かったわ)


(……そもそも本当に怪我をしていたのかも僕らは聞いただけで見てないけどな)


 だからクロストはクロストのままでジギに聞いた。


「ガルプラダで怪我ってしました?」


 ジギは一度見開いた目を細めてから一瞬でリリーの後ろに回り、腰に腕を回して抱きかかえて後退する。


「ジギ、ちょっとまっ……」


 リリーが止めるような声を上げたが、言い終える前に真後ろにいるロイドに向かって放り投げ、クロストの視界から隠すようにゆらりと立ち位置を調整した。


「エステル、冗談にしちゃ度が過ぎてる」


 強そうにも弱そうにも見えず、笑っても怒ってもいないのに無感動や無表情という印象もない。つまり掴みどころがなかった。

 余計な事を聞いてしまったようだ。クロストは内心でため息をつく。


(スティ、これ、ジギさんに殺されて再挑戦ってパターンかな?)


(嘘でしょう? 多分もうすぐ時間切れだと思うし諦めないで頑張って!)


 そう言われても、クロストにはエステルという人物がどんな人物なのかも、ジギとの関係性も分からないのだ。


「気になったから聞いてみただけで別に冗談ではないですよ」


(ああもう……どうしてそんな喧嘩腰なのよ……)


 スティに嘆かれたがそれではどうするのが正解なのか。

 ジギの警戒は解かれず、返答もなかった。

 このまま時間切れになってくれれば本人が何とかしてくれるだろうが、残り時間はあとどれくらいなのだろうか。

 クロストの逡巡を破ったのはリリーの大声だった。


「ジギ! 外見は本物で間違いねぇ! そんなことより前衛やべぇぞ! ロイド、ちっと親父頼む!」


「ちっ」


 ジギは舌打ちをして振り返り、飛びかかって来たリリーを受け止めて走り出す。

 前衛やばいの? と目を凝らせば、今まで見た中で一番大きな魔獣が火を噴いており、一人はうつぶせに倒れ、一人は燃え、一人は後退して、いつの間に移動したのか、亀裂の向こうにいた眠そうな女に背中を押されている。

 アマリリスは打ち漏らした魔獣をひたすら魔法を発動して殺し続けていた。


「うわぁ……」


 これは大変だ。冒険者なんか始めたら一日目に死ぬ。

 そんな感想を抱いたクロストの肩を、ポン、とロイドが叩いた。


「エステル様、魔石の補充をいたしましょう」


「ええっと?」


 どうすればいいのかも分からないので首を傾げれば、ロイドはじっとこちらを見ている。

 目を逸らしそびれた。いたたまれない。

 それでもその殺し屋のような目つきはスティを思い出させ、クロストは少しだけ緊張を解いた。

 読み取ってか、ロイドはクロストが着用しているローブに手をかけて、説明を始める。


「少ない魔力を魔石で増幅させていらっしゃると聞き及んでおります。ローブに仕込まれた魔石も既に使用が出来なくなるまで劣化されているでしょう。アマリリス様もかなりご無理をなさっていらっしゃいますから、どうぞ戦線にお戻りするご準備を」


 時間が稼げそうだと、クロストは追加で緊張を解く。

 戦線に戻るタイミングで時間切れになればしめたものだ。

 ローブを確認しているロイドを見ながら、いつもの感覚でクロストは言う。


「貢献度が高くて身内認定とか、ただの同情とかじゃなくて、何となく目の前に来たから治すって方がリリーっぽいけど、あれは本当に聖女なんだろうかと首はかしげたくなる」


「……職業ではないと思います」


「使命でもなさそうだけどね。資質は近いかな。本能的な……」


 雑談の最中に時間切れになったのだろう、そこで視界は暗転した。

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