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読者と作家のリセットマラソン  作者: 弓軸月子
第三章 魔力暴走する賢者

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07 俯瞰して見るともまた別の話


「!!!!!! ッファ?」


 気絶による暗転が来ると思っていたスティは、そのまま入れ替わった事に思わず声を出してしまった。

 風魔法が周囲にいた魔獣を吹き飛ばし、中衛にも影響を与えていた事を初めて視認する。

 こちらを向いた状態で飛ばされているので、なにか強い魔獣でも突破してエステルを狙い、アマリリスが庇って、魔力暴走、と。物語ならもうひとひねり欲しいところだが、現実はその辺りだろうとスティは改めてアマリリスを確認した。

 患部は大きく切り裂かれて骨まで見えている。

 視界がすべて赤く染まったような気がして、ダメだ、と頭を一振りする間に回復魔法が発動して、怪我は一瞬で治る。


(スティ、大丈夫?)


(そっちこそ!)


 ふう、とスティは大きく息を吐いて、アマリリスには申し訳ないが早く目を覚ましてもらおうと思ってしまい、ザッパンと水を降らせてしまう。

 容赦のない出力で、むしろ窒息させてしまうのでは? と焦れば、あっさりと水は流れて地面に吸い込まれていく。


「ぷはっ」


 アマリリスが覚醒したので良しとしようと、スティは視線を逸らしながら、立ち上がって向かってくる魔獣にもう一度風魔法を放った。

 ぐいっと、襟元を引かれてアマリリスと目が合う。


「てめぇ、何しやがる!」


 水浸しになったアマリリスは、これまで見たどのアマリリスよりも綺麗だ。大雑把に水魔法だと思っているだけで、洗浄効果でもあるのかもしれないと、スティは妙に感心する。

 濡れているのが不快ではないかと思えば、今度はアマリリスの下から上に向かって風魔法が出てしまった。


「わっ」


 浮いたアマリリスに驚けばすぐに風魔法は止んだ。抱き締めるように受け止める。

 勿論、近くにいた魔獣にも影響を及ぼしていた。少し離れた位置で着地に失敗した魔獣が地面に転がるのが視界に入って、次は何が発動しているのだろうか、中衛から悲鳴が上がっているので、恐らくなにか困るような魔法が発動しているのだろう。

 慌ててアマリリスへ視線を落とす。


「すみません、魔力暴走してまして」


「見りゃ分かるよ、馬鹿野郎」


 鳩尾辺りに顔を埋めたままアマリリスは答えた。

 あれ? クロストの時と反応が違うな、と少し戸惑う。

 ふわふわの金髪って羨ましいわね、とスティは自身の細かい波のような重たい黒髪を思い出して嘆息する。身長の低さも相まって非常に可愛らしい。だからこそふわふわの金髪が映えるというのもあるのかもしれない。

 きゅっと、胸元の服を一握りして、アマリリスがこちらを見上げ、目を丸くして口を開けた。


「お前、髪が真っ白になってるぞ!」


 金髪に思いをはせたのが良くなかったのだろうか、どうやら髪色が変わってしまったようである。

 目の前のアマリリスには変化がないので、魔獣を確認したいところだったが、これ以上余計な事をするわけにもいかない。

 スティはぐっと堪えてアマリリスだけを見て聞いてみた。


「どうすればいいと思いますか? 魔力残量も分からなくなってしまい困っています」


「……っ業火!」


 アマリリスが振り返りながら高火力の火魔法を放つ。

 そういえば、防壁のような物を今回は建てていなかった、思うと同時に氷の壁がぐるりと取り囲むように地面からせりあがる。


「わぁ、便利」


 思わずつぶやいてしまった。


「言ってる場合か!」


 怒鳴りながらアマリリスがローブを脱がそうと留め金に手をかけたので、慌ててその手を掴む。


「ここで気絶は危険です。意識のある内に退避して、見極めが得意そうな人に頼みますよ」


 他人の完全魔力枯渇を見極められる人間というのがどれくらいいるのかは知らないが、ここで気絶してはまた失敗に終わることは予測できる。

 アマリリスも分かっているのだろう、一度緩められた手がもう一度強く掴んできて、


「うるせえ!」


頭突きをされた。

 安定の回復魔法が発動してしまい、氷壁の向こう側からまた悲鳴が上がっている。

 申し訳ない。


「間に合うと思うか?」


 そんな風に聞かれて、スティには答えられない。

 なにが間に合うというのだろうか?

 まあ、でも、と、スティは思う。

 別に死んでしまっても構わないのだ。今は目の前の大魔導士様の為に嘘を付こう。


「間に合うと思いますよ」


 大輪の花とか、咲き乱れるようなとか、そんな文章が似合いそうだと、思わず考えてしまう程の笑顔でアマリリスは言う。


「だよな! よっしゃ!」


 くるりと背を向けて、氷壁を何かの魔法で粉砕し、中衛に向けて叫んだ。


「リド! 回復が届くとこまで移動! サイト! 回復はアテにすんな! 持ちこたえるぞ!」


「っす!」


「ひゃー」


「一回殲滅すっから伏せてろ!」


 中衛の二人はなかなか苦労人ではなかろうか。いい人物像をしているのでもう少し観察をしたいとスティは思う。そんな場合ではない事は承知してはいるのだが。さて、ここからどう動けばいいのかは分からない。

 あわあわと伏せた二人の上を、アマリリスが放った火魔法が、腕の動きに合わせるように、右から左へ放出されて、前衛が捕りこぼした魔獣を一掃する。

 カッコいい! とスティはちょっと興奮した。

 これは、ここは私に任せて、か、後は任せた、か、言われたいし、言いたい。

 アマリリスが体を少し反転させて、左側の氷壁を粉砕する。


「そんじゃ、後で!」


 こちらを見もせずに、軽く言われてしまった。

 現実は思い通りには進まないものである。


「後はお任せします」


 せめて私だけでも、とちょっと声を低くして言ってみたのだが、


「任すな。速攻で戻ってこい」


と言われてしまった。

 ああ、本当に、物語の様には行かない。

 スティはアマリリスが粉砕してくれた氷壁に向かって走る。

 左側には一人、黙々と魔獣にとどめを刺す人物がいたはずで、行き止まりか、逃がしても問題のない雰囲気だったはず、と行き先に目を凝らせば、今もスティが放つ効力の分からない魔法の中、淡々と魔獣を刺しては一ヶ所に投げるという動作を繰り返す長身の男がいた。

 ひょろりと背が高く、全身黒い。

 スティの兄が食肉加工場職員で、汚れが目立たないからと常時黒ツナギを着用しているので、なんとなく親近感がわくが、兄は全く細くはないので、違うな、と思う。健康的じゃなくて、もう少し暗いイメージの、そう、殺し屋みたいな。

 少し手前で速度は落ち、立ち止まって声をかけようとして思い出す。

 黒髪に黒い瞳で、漆黒の殺し屋とは初対面の印象だった。


「ロイド?」


(え?)


 クロストにも分かったのだろう。

 振り返った男はリリーの薬屋でお手伝いをしているという冒険者のロイドだ。額から流れる血を乱暴に拭いながら言う。


「お疲れ様です。配置換……魔力暴走ですか?」


「見りゃ分かるよ、馬鹿野郎って、アマリリス様が言ってたよ」


 驚きすぎてスティは思わず口走っていた。

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