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読者と作家のリセットマラソン  作者: 弓軸月子
第三章 魔力暴走する賢者

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06 思い切って聞いてみた


 クロストは風と回復の魔法の後、視界に入った魔獣をすべて氷漬けにしていた。

 漂う冷たい空気は戦闘中の音をより大きく増強するようで居心地が悪い。

 一瞬、辺り一面が赤く染まったような気がして爪を噛む。

 フラッシュバックという奴だろう、それでも実際に体験した場合と見ただけでは全く違う。

 見ていただけのクロストでこれなのだ、出来るだけ時間を稼いで少しでも回復して貰おうと、クロストはアマリリスを揺り起こして訪ねた。


「どうしたらいい?」


「……あ?」


 目が合ったアマリリスは何度か瞬きの後、がばりと起き上がり、切り裂かれて血まみれの服をパタパタと叩いて状況を把握する。


「出力は安定しないけど魔法は意図的に出せる。ただ勝手に発動している魔法に関しては何を発動しているのかも分からないし、魔力残量も分からない」


 クロストは聞かれる前に口に出して立ち上がった。

 アマリリスは胡乱げにクロストを見上げる。

 ああ、随分身長差があるんだな、と、クロストは現実逃避気味にそんな事を思う。


「そんな馬鹿な話が……お前マジでエステル?」


 馬鹿な話というのだから、賢者にとって何を発動しているのか分からないであるとか、魔力残量が分からないというのは、非常識なのだろう。

 どんな人物なのかの知識もないので普段のまま話をしたし、夫婦であれば中身が違う事に気が付いてもおかしくはない。

 クロストは普通に答える。


「違いますけど」


「けどなんだよ?」


 襟首をつかまれて引き下ろされるまま腰を曲げて顔を近づけた。

 観察するようにじっとこちらを見る薄緑の瞳にはエステルの顔が映っている。


「……体はエステル様です」


「で、誰?」


「ただの一般庶民なんで名前を言っても分からないと思、います」


「ちっ」


 盛大な舌打ちとともにアマリリスが襟首から手を離した。

 乱雑な物言いと態度にクロストも反応に困る。勇者パーティーの人は尊敬され憧れているのだ。まさかこういう種類の人物だとは思いもよらなかった。


「エステルは戻るのか?」


「後七、八分生き延びれば戻ります」


「……」


 アマリリスは周囲へ警戒を向けたまま、何事か思案し、すぐに口を開いた。


「おい、取りあえずあんま視界に状況をいれんな。こっち見て聞け。いいか、魔力暴走ってのは時間がたてば収まるが、その間てめぇで出せる魔法は無意識でバンバンぶっ放す。枯渇で気絶、完全枯渇で死ぬ。気絶させて完全枯渇ギリギリのトコで魔力を回復させながら収まるのを待つのが一般的対処法だ。それなら発動する魔法の威力が最小限になるからな」


 説明中にも、飛行する種類の魔獣がいるようで、アマリリスは何度か魔法を発動している。

 クロストもつられてなにか発動している様だが相変わらずなにをしているのかは分からなかった。


(……気絶した人を庇いながら戦ってくれていたのね)


 不意にスティが言う。

 ようやく落ち着いてきたのだろう。クロストも答えた。


(魔力回復の匙加減も大変そうだし、これ、気絶は不正解だったんだろうね)


 時間がたてば収まるものが収まっていないのだ。


(これまでは時間切れ後の失敗も見せてもらっていたけれど、今回は気絶した状態のままだから手間を省いているのかしら? 気遣いか嫌がらせかは置いておくけど)


 呆れたというよりは考えたくもないと言った声色でスティは言う。

 それはともかくとして、状況は芳しくなかった。

 とにかく、迷惑な魔法を放出しているようで、戦況が目まぐるしく変わっているのだろう、あちらこちらから聞こえる怒号に、見ていろと言われても視線が泳ぐ。

 アマリリスもあちこちに目をやっているので、別にクロストと目が合っているわけではないのだが、非常に不機嫌そうである。


「一番影響の少ない場所まで退避してみます。どちらに向かえばいいですか?」


 恐る恐る訪ねてみた。


「一人で退避して魔力切れになったら死ぬっつってんだろが。なんっで分かんねぇんだ?」


 低い声でアマリリスは返し、中衛からこちら寄りに下がっている男に声をかける。


「リド、回復は後衛から行けるか?」


「距離的に無理っす!」


「使えねぇーなぁ!」


「すんません!」


「テトラ上げるから一瞬サイト上げて持ちこたえて」


「っす!」


 会話を理解しようと頭の中で、多分あの人がリドで、と考えていたら、なにやら移動する魔法が発動してしまったようで、気が付けば右側、亀裂の向こう側に立っていた。


「ふざけんなよ!!!」


 アマリリスが遠くから怒鳴っている声が聞こえるが、別にやりたくてやったわけではないので、ご容赦頂きたい。

 クロストがどうしたものかと首を動かすと、飛来する魔獣に魔法を放っている女と目が合った。

 この人がテトラだろうか?


「テトラさん?」


 きょとんと、首を傾げてテトラという女が答える。


「はぁい? テトラ、です?」


「一緒に移動して貰っていいですか? アマリリス様のところまで」


「はい、大丈夫、ですよぅ?」


 なんだか眠くなる喋り方をする人だな、と思ってしまったのが不味かった。

 テトラはぐしゃりと膝から崩れ落ちて眠っている。


(ちょ、え? これ、考え事すら出来なくないか?)


 そこに飛んで来ていた魔獣にも眠りの魔法がかかったのだろう、滑空状態になった魔獣は、トカゲに羽をつけて大きくしたような魔獣で、その眉間には角が生えたいた。


(ぶつかる!)


 反射的に目を瞑って横跳びに伏せる。

 あちこちでぶつかったり引きずったりするような音が上がり、やがて静かになったので顔を上げると、一面真っ暗だった。


(え? 気絶したの?)


 スティが不思議そうに聞いてくるが、クロストにも何がなんだか分からない。

 耳を澄ませると遠く戦っているような音は聞こえるので、気絶ではないのだろう。


(違うみたい……)


 答えている最中にぶつりと意識は途絶えた。

 それは気絶ではなく死亡であったが、区別するだけの情報はもたらされなかった。

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