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読者と作家のリセットマラソン  作者: 弓軸月子
第三章 魔力暴走する賢者

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04 分析には時間がかかった


「!!!!!!!」


 息を止めて口を閉じ、息を吸い込みながらアマリリスへ視線を落とす。

 風魔法と回復魔法が続けざまに放出されてローブがはためいた。


(回復魔法が終わったらすぐにローブを脱いでみる)


 クロストはスティに告げて胸元の留め具に手をかける。

 魔獣は吹き飛びながら回復したのだろう、先程よりも立ち上がるのが早い。


「クソっ! 回復しやがった!」


 先程とは言い回しの違う怒声。わずかな変化でも未来が変わる。

 近寄ってくる魔獣が視界に入ると同時に周囲の地面が盛り上がり、要塞のようにぐるりと土壁が二人を囲った。魔法は無作為に発動しているのか、用途は等しく方法が違うと言う事だろうか。

 アマリリスの手が襟に延ばされる前に脱ぎ終えたローブを巻き付ける。

 血まみれという事もあるが、ただでさえ戦場に不釣り合いな薄着は魔獣の爪によって切り裂かれ、本来は見せる予定のない肌が見えていた。


 体は思った通りに動かせるが魔法だけは勝手に発動し続けている。

 敵味方の区別もなく大変危険な状態だ。

 クロストは退避する旨を叫ぼうとして言葉が出てこない。叫び慣れていないのだ。


「と、止まらないので、退避します?」


 後半は独り言のような音量になってしまったが、それまで大人しくしていたアマリリスが肩を掴んで立ち上がり、巻き付けたローブを正しく装着する。

 状況は悪い。ガツガツと土壁は半分ほど削られただろうか、視界に入った途端に追加でなにかの魔法が発動した。


「エステル、自分の意思で魔法は出せるか? ああ、水で良い、顔洗うのにちょっと出してみろ」


 なんだか偉そうな立ち姿でアマリリスは腕を組んで言う。

 クロストはまだ座ったままだったので膝立ちになり、アマリリスの顔に出来るだけ近づけるように両掌を上に向け、水を貯めるように魔法を発動した。

 自宅で顔を洗う時によく使用する魔法と方法であるが、魔力量の違いなのか、暴走中だからなのか、思ったよりも水が出て溢れ落ちる。

 アマリリスはクロストの手首を掴んで掌に顔を埋めると、ふるふると顔を振って水をまき散らした。

 クロストの許容範囲を超えてしまい、思考がプツリと断絶する。

 ただでさえ土埃の舞う戦場、知らない人の血液、ここに至る前にスティの手を取っていた手には知らない人の顔と蒔き散らされる汚れた水。考えなくとも色々と駄目だった。


「ザッパーン!!!!!!」


 荒波もかくやと大量の水がクロストから噴出して土壁もろとも魔獣を押し流す。

 アマリリスは手首を掴んでいた為に流されることはなかったが、ずぶ濡れである。

 あちこちで叫び声も上がっていた。


「ぷはっ。出せても制御不能か! 魔力あとどん位?」


 アマリリスは今度は頭を振って水気を飛ばすとそう聞いてくる。

 大量の水に驚いて再び思考停止していたクロストにスティの声が届いた。


(クロスト落ち着いて! それはエステル様の体であってクロストの体じゃないわ!)


 そういえばそうだった。

 思った時には視界が暗転していた。




***




(今回はすぐ死なないわね)


 魔力枯渇の気絶後も守られているのだろうか、その後にどうなっているのかが分からない歯がゆさはあるが、落ち着いて話ができるのはありがたい。


(魔力の残りを聞かれたけれど分かるものなのかしら? 私には分からないのだけれど)


(それは僕にも分からない)


 一般庶民は魔力枯渇ギリギリまで魔法を使う事は少ない。

 立っていられない感覚、貧血や人によっては寝起きの感覚だろうか、そこまで行けば水を出しただけで意識を失うのだが、逆に少しの休憩で水を出すくらいは回復する。そもそもの量が違いすぎるのだ。

 魔力暴走中の為か体を巡る魔力はなんとなく分かるのだが、残量はよく分からない。

 それこそ心拍数や血圧が上がったような感じで制御不能だった。

 そこまで考えてふと、落ち着けば良いのでは? と思い至る。


(落ち着いたら止まるんじゃないか?)


(あの状況で落ち着けというのも無理があると思うのだけれど)


(アマリリス……様に守ってもらってる間に落ち着けないだろうか)


(……クロスト、そういうのは大丈夫なのね?)


(なにが?)


 普段は頼りなれていないクロストの発言とは思えなかったが、他人事だからなのか、少しは変わってきているからなのか、スティは見えはしないが首を振った。

 クロスト側からは沈黙したようにしかとれないので、後で聞こうと話を続ける。


(あまり時間がないはずなんだけど、そういえば一回目も長かったな。本当に十分?)


(言われてみればそうね。なんだか今回……)


 そこでスティの番が回ってきた。




***



「!!!!!!!」


 息を吸い込みながらアマリリスへ視線を落とせば風魔法と回復魔法が続けて発動する。

 魔獣を視界に入れれば今度は氷の壁が二人を囲った。

 無作為に用途は同じ、ね、とスティは確認する。

 片手でローブを外しながらアマリリスの頬をなでると、手に頬を擦り付けるようにしながらアマリリスが目を開いた。

 普段の言葉使いは分からないが、ご夫婦なら多少の気易さは問題はないだろう。

 アマリリスからの扱いはぞんざいだったしと、視線が交わったのを感じてスティは声をかける。


「落ち着くまで守ってもらえる?」


 アマリリスの目が大きく見開かれて、次の瞬間には襟を掴まれて起き上がる動作のついでに頭突きを受けた。


「ガツッ」


 かなり大きな音がしてスティは後ろに倒れ込みそうになりながら、無意識に回復魔法を発動している。おかげで痛みはないが、またすぐに魔力枯渇するのではないかと、思わず瞑ってしまった目を片方だけ開けた。


「暴走ついでに頭のネジでも吹っ飛んだんじゃね?」


 座り込んで後方に傾いたスティの襟元を締めるように握り、立ち上がったアマリリスは獰猛に笑う。

 枯渇の前兆だろう、歪み始めた視界の中、アマリリスがドンと地面を蹴ると同時に囲んでいた氷壁の一部が吹き飛び、


「キシロ、このバカ担いで撤退! 気絶しても発動すっから気を付けろ、よっとぉ」


叫んで、吹き飛ばした氷壁部分へ今度はスティを吹き飛ばす。

 え? 気絶してても魔法って発動し続けるの?

 目まぐるしく移動するスティの視界は暗転した。




***




(全然進展しないな)


 クロストがしみじみとそんな言う。

 恐らく気絶中の時間である。


(魔力暴走の止め方なんて知らないんだもの、仕方ないわよ)


 スティはうんざりした声を上げた。


(見たもの、聞こえた音、体に伝わる感覚で、必要な魔法が発動、出力は最大、方法は無作為)


 クロストの方は冷静なのか淡々とまとめを口に出していく。


(自発的に魔法を出せることが確認できているんだし、枯渇させること自体は出来そうだけれど、意識を失っても発動するって事はその内に死ぬよな? 明らかにアマリリス様も枯渇させようとしてたけど……気絶さえすれば少なくとも視覚からの発動は無くなるし、魔力量が残り少なければ威力も落ちる、のか。時間経過で暴走が止まるなら完全枯渇しないように気を付けさえすれば、気絶させた方が手っ取り早い? スティ、取材とか調査した事はないの?)


(話を聞いた事くらいはあるけど、詳しくはないわね。大体死にかけて大変だったってお話で、あとは仲間に助けられたとか、そういう感じね)


 スティは思い出してはみるがあまり有益な情報はないように思えた。


(そういえばスティの小説の主人公って倒れたりしないもんな)


(圧倒的主人公であって欲しいからね。修練のし過ぎで握力がなくなってコップを取り落としたことはあったわよ)


(それはなんか違うからいいけど)


 クロストは次はどうするか思案する。


(気絶させちゃう魔法を自分に向けたり出来ないんだろうか? 水魔法で窒息とか)


(さっき頭突きの衝撃で痛いの最初のいの字位で回復魔法を発動してたから無理じゃないかしら)


(ある意味で無敵じゃないか?)


 大賢者はやっぱり強い、という結論が出たところで、クロストの番が回ってきた。

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