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読者と作家のリセットマラソン  作者: 弓軸月子
第二章 国外脱出する密偵

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08 常識的感覚が欠落していくことに気が付けない


 十一回目ともなれば幕僚長の喚き散らしももはや何とも思わない。

 スティは小さく頷いて聞いているふりをしながらクロストに問いかける。


(さて、どうしましょうか?)


 色々なかった事にするということだろうか、クロストは複雑な気持ちで返事をした。


(のんびり十分間その場に留まるか、移動しているふりをして廊下をのんびり時間潰しとか? もう十分やり過ごして本職に任せるしかないと思うんだけど。なにを言ってるか分からないし)


 声色から判断するに非常に面倒そうである。

 疲弊しているのかもしれないな、と、どうしてだが急に元気になったスティはここまでに見た事を反芻する。


(部屋を出たら右に行くしか選択肢はないのよね。窓から出ないで廊下を進んでみるか、塀の上の人に殺さないように頼んだら見逃してくれないかしら?)


(そもそも死亡のきっかけがよく分からないよね。扉を出る前なら殺されないとかあるのかな……)


(細かいルールでもあるのかも知れないわね)


(細かいルール?)


(扉を二回叩いて何か言わないと出られないとか、そういう警備体制? みたいなルールがあって、守らないと殺しますみたいな)


(だとしたら容赦なさすぎない?)


(それだけ重要な施設なんじゃない? 取り敢えず優雅に進めるわね)


 スティは毒薬を受け取って口に入れるふりをしてから、クロストの動作を真似て左の掌に右手を二度当てる。先程と同じように幕僚長は追い払うように手を振ったので、そのまま退室した。

 一歩踏み出して少しだけ左を伺って見ると、キン、とわずかな金属音が背後から聞こえる。

 騎士が剣に手をやったのだろう。

 左に行くことと幕僚長の思惑は別なのかもしれないな、と、音のした方へ顔を向け、制すように片手を上げ、出来る限り自然に右に向かって歩き出した。


(怖かったー!)


 ふうっと息を吐きだしてスティは言う。


(無駄死にするところだったな)


 クロストはもう交代かと気が気ではなかった。慎重に行動して貰いたいものである。


(左の方に護衛対象でもいそうだな)


(そうね。この建物何なのかしら? このタリスって人もそれなりに重要な役割を持っているんでしょうね)


 ゆっくりと廊下を進みながら、窓ガラスに映る中肉中背の姿を視界に入れる。

 髪がかなり短いが髪色が黒に近い茶色なのでそれなりに重量感があった。

 髪型的に南キドニーでは少し目立つかもしれない。

 窓ガラスから外に出ずに廊下を進み、角を曲がればすぐに扉と扉前に騎士が一人立っていて、


「ウセダマセラクト」


と言って扉を開けてくれる。


(なんですって?)


(分からない)


(あまり分からないのね)


(分からないんだよ)


 スティが堂々と開けて貰った扉を出れば、使用人用の扉と思われる扉のすぐ近くだった。


(あ、普通に来てもここに出るのね)


(物凄い取り越し苦労感……)


 そろそろ時間だとは思うのだが、ここまで来てしまうと時間の潰しようがない。

 仕方がなくスティは塀の上を見上げた。

 逆光で良く見えないが一人、塀の向こうへ向かって座り込んでいる。

 弓を背負っているので、クロストを地面に縫い留めた光の矢を放った人だろう。

 時間切れ間近で毒薬も持っていることだし、と、スティはごくりと息を飲んだ後そのまま話しかけた。


「扉、どうやって出るんだっけ?」


 その人物は振り返りながら弓を構える。


「エッタイナン?」


 どうやらキドニー語は通じないようだ。

 弓に矢はなかったが、弦に添えられた指先に光の玉がパチパチと火花を散らしている。


(なにあれ?)


 一般人であるところのスティやクロストには馴染みのない現象であった。


(魔法だろうけど、さっきの感じだと火ではなかったんだよな……)


 実体があればポカンと口を開けてしまっただろう、クロストは呟くように告げてからハッと我に返る。


(スティ、猛烈に痛いから早く死なないと!)


(そうよね!)


 スティは慌てて毒薬を口に放り込んだ。




***




(丁度時間切れだったみたい)


 スティの安堵したような声に、クロストも安堵する。


(それは良かった)


 頷くのも面倒なので、幕僚長の顔をじっと見て、神妙な顔で聞いているふりをしながら考える。


(スティは外に出る扉の騎士はあの塀の人を知っていると思う?)


(どうかしら。塀番? って言うのかしら。うちの国の巡回兵みたいな人だったら知っていると思うんだけれど)


 南キドニーでは巡回兵という職業があり、例えば一番から二番の待機所に移動して、待機している二人の内一人と交代、今度は二番から三番の待機所に移動する、と言った警備体制があるのだ。

 ただし巡回兵には国境番や王宮番等があり、巡回場所は定期的に変えられて固定されていない。


(ガルプラダ語を必死に思い出そうとしてるんだけど、こう、どうでも良い単語しか思い浮かばないんだよなぁ)


 クロストは扉の騎士と言葉を交わしたいようでそんな風にぼやきながら毒薬を受け取った。

 まだ少し失敗するのではないかとヒヤリとするが、ここまで一度も失敗はない。


(別に単語でいいんじゃないかしら? あれは誰ですか、じゃなくて、誰、で分かるでしょう?)


(その”誰”が分からないんだよなぁ。二人称なら分かるんだけど。仕草で何とかするか……)


 廊下を進み、扉前の騎士へ塀に向かって指を刺せば、何かいるのか? と言った風情で一緒に塀を見上げてくれた。


「アヤスーヤニース!」


 叫ぶや否や、挙手をするように手をあげた騎士の指先から光何かが打ち上がる。


(え? ちょ、どういうこと?)


 スティもクロストも困惑した。

 塀の上の女が、タンタンタンッと壁を走るように降りてきてこちらに向かって走ってくる。

 そこで意識が途絶えた。

 時間切れである。

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