表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読者と作家のリセットマラソン  作者: 弓軸月子
第二章 国外脱出する密偵

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/102

05 二度ある事は三度あるが三度目の正直とは?


 スティは喚き散らす初老の男性を見ているようで見ずに興奮気味にクロストに呼びかける。


(ねぇ! クロスト! あなたって戦闘もできたのね!)


 クロストの可愛らしい雰囲気と、丁寧な動作のせいだろう、あまりきびきびと動くイメージがなかったのだ。


(ちょっと黙っててくれ。手に人を切った感触があって動揺しているところなんだ。また鼻が痛かったし)


 はっきりと不機嫌さを露わにクロストは言う。

 スティは知識としては納得する。

 怪我をさせたという認識が動揺させるというのは分かるのだが、クロストは普段から人を気遣わない言動が多いのだ。なにか思うところがあったのだろうか。

 この回は捨て回かな、などと、自分の好奇心を満たすためにスティはキドニー語で男性に向かって声をかける。


「キドニー語で話をしましょう」


 男性はスティの発言よりも控えている若者を気にするように言葉を止めた。

 若者の方はキドニー語が分からないのだろう、不思議そうな顔でこちらを見ている。

 男性は若者へ軽く視線を泳がせてから綺麗なキドニー語で返事をしてきた。


「これは信頼出来る従者だが?」


「あなたにはそうでも私には分かりかねます。それに、」


 顔は動かさずに、あたかも入り口の騎士が怪しいように目線だけを動かして、スティは言葉を続ける。


「間者はどこに潜んでいるか分かりませんよ」


 まぁ、私が間者な訳ですが、と思いつつ、堂々と男性の顔を見た。

 男性は表情は崩さず、一拍あけて話を続ける。


「まぁいい、練習にもなるだろう。自害用の毒薬は口内に入れておけ。こちらの情報は漏らすな」


(この密偵さんがキドニーに情報を持って帰れないとダメって話だったのよね? 練習にもなるってキドニー語の事よね? キドニーに行くことは把握していて、ガルブラダの情報を漏らすなって事は、この密偵さんは間者の間者なのかしら? ああ、最初から説明が欲しい!)


 スティは顔に出さないように気を付けながらそんな事を思い、


「勿論です」


と言いながら、若者へ一歩近づく。

 男性が若者へ目くばせをして、若者は恭しく盆を差し出してくる。


(物語と違って実際は翻訳も説明も入らないよな。質問出来る感じじゃないし。どうでもいいけどやっぱり毒薬は口内保管なのか……どうやって口に入れとくんだろう? 即効性あるみたいだし、普通に死ぬよな……)


 クロストがそんな事を言う。


(密偵職の人の必須技能でなにかあるのかしらね? どれくらいの水分量で溶けだすのかしら……?)


 スティは返事をしつつ、一粒を取って手のひらに乗せて、再び盆に手を向けて魔法で水をかけてみた。


「ウルソウィナン!」


 毒薬はすぐに水を濁らせたが形を崩す事はない。

 それにしても表面が溶けだすのが早いのではないだろうかと質問しようとして、スティは抜刀する男性を視界に慌てて毒薬を口に含んだ。


(賢明な判断、なのかな)


(あの人なんて言ったの?)


(さあ?)


 ビリっとした刺激は溶けだすのが早かった表面を覆う粉部分なのだろう。今度はなにも考えずにガリっと噛み砕く。口内には味や砕いた薬のざらりとした感覚もなく、ドクリと心臓が跳ねるような感覚だけがあった。




***




 何度も聞いているからだろうか、喚き散らすと言うよりは、命令口調で喋っているのではないかと、初老の男性を見ながら、クロストはうんうんと小さく頷く。


(それでスティ? あとは何が知りたいの?)


 内心では呆れたようにスティに問いかけていた。


(そうねぇ。あまり噛み応えが無かったからどれくらいで潰れるのかも知りたいわ)


(知ってどうするの?)


(いつか書く物語の参考に)


(目的変わってない?)


(何回もやり直せるし、死に方が辛くないからつい)


 つい、で人は何度も死ぬものでもないと思うのだが、クロストは心の中でだけため息を吐く。


(耐水性はもういいの?)


(周りのすぐに溶けた粉部分? は、刺激があって麻痺だけなのかも。最初はそこから少し間があって死んだでしょう? だからやっぱり口内ですぐに溶けはするのではないかしら)


(そうかよ)


 クロストとて知識欲がない訳ではないのだが、状況は選んで欲しいものである。

 室内の情報収集もしようもない。

 そういえば密偵はどういう外見なんだろうと、少しだけ顔を伏せてみる。髪の毛が動かないのでかなりの短髪なのだろう、頭をかくように後頭部に手を伸ばせば、刈りそろえられて手袋に刺さりそうな剛毛。

 どうでもいいかと、一歩近づいて来る若者を見る。

 先程の鮮血が思い出されてふるりと体が震えた。

 腕に入った傷は剣で切られた様な線ではなく、氷槍で削った太く荒々しい傷で、岩壁を削るような手応えではなく、布を裂く時の一刺目だけを意識させる、そんな手応えだ。

 反射的に目を背けたい衝動を抑え込んで、ゆっくりと盆に視線を移す。

 手袋を外してから一粒を取ってサイズを確認するように目の高さまで持ち上げた。

 若者がこちらを見上げているようだが、視界には入れない。

 親指の腹に乗せ、人差し指の腹で薬が見えなくなる程度、押したが当然崩れなかった。

 一度指を浮かせて薬を確認してから、今度は人差し指を立てて押せば、ボロっと欠ける様に崩れる。


(脆いわね!)


 驚いた様なスティの声が聞こえるが、さて、ここからどうしたものか。

 クロストはできるだけ若者を視線に入れないように薬の表面に注視していたので、薬を指で欠けさせた直後、若者が盆を振りかぶっていたことに気が付かなかった。


「バンッ」


 と顔全体に盆が叩きつけられたが、今回は残念ながら薬は口に入らない。

 後ろに倒れ込みそうになったところを足を引いて持ちこたえた。

 若者が盆の側面を向けて、こちらから見て右から左に振りぬいてくる。

 氷槍を出そうとして、再び切りつけた感触を思い出して失敗した。パシャリと水になって足元に落ちる。

 そのまま盆の側面を右頬に受けて吹き飛んだ。

 風魔法か何かだろう、痛みよりも吹き飛ばされる衝撃の方が大きい。

 壁に叩きつけられて息が詰まった。

 扉から騎士も抜刀して駆けてきている。


(クロストっ!)


 スティが叫んでいた。

 しくじった、と、笑って返したかったが余裕がない。

 手に残ったわずかな毒薬の欠片を口に入れ、毒薬で死んだのか、刺殺されたのか、判断はつかぬまま絶命した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ