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読者と作家のリセットマラソン  作者: 弓軸月子
第二章 国外脱出する密偵

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04 パイ投げの要領


 初老の男性は変わらず何やら喚き散らしている。


(盆ごと来ると思わなかった。まだ鼻が痛い気がする……。理由が分からないけど殺すつもりなんだろう。若い方もグルっぽいな。肩を掴まれて足も掛けられた)


 そんなクロストの感想と状況説明が聞こえた。


(盆は……薬が口に入れば幸運くらいの気持ちだったのかしらね。それだと薬は全部毒で、口に入れたフリかしら)


(もしくはなにか目印があるんだろ。口に入れたフリをしてみて、死なない事に驚かれなければ目印、驚かれたら口に入れたフリ)


(驚かれた後が怖いわ。痛いのは回避したい)


 こちらの対応や顔色で微妙に言い回しが変わる事はあっても内容は変わらないだろうと、スティは適当に頷きながら室内を見渡す。

 奥に十人掛けの大テーブルがあり、受付でもするのだろうか、簡素な執務机を境界線に絨毯が敷かれていた。

 執務机からこちら側には壁際に一人掛けの椅子と机が間隔を開けていくつかあるだけの広い空間で、天井付近に明かり取り窓があるだけで、出入りできるような窓はない。

 大テーブルの向こうに扉が一つあるが、入室は恐らく自分の後ろ側にあるのだろう、スティは片手を上げて男性の言葉を遮るようにチラリと後ろを振り返る。

 両開きの扉には騎士服の男が二人、両側に控えていた。

 口元に人差し指を当て、あたかもなにか物音がしたかのような仕草で少し間を作る。


(うーん、走って逃げるのは難しそうね)


(騎士服どっちかに、なにか合図を出してみて。扉を開けて外を確認してくれるかも)


 クロストの助言に、目が合った方の騎士に軽く頷くと、騎士同士が目くばせをして、片方は腰の帯刀に手を置き、片方が扉を盾にするように開けようとした。


(急がなくちゃ)


 若者は既に盆を持って近くまで来ている。

 スティは軽く視線を向けてから盆の上の何かを取り、口に入れる仕草をした。実際は手袋の生地に押し込むようにして口に入れてはいない。小さな粒だ。すぐに落とさなければ気付かないだろう。

 手袋に一度引っかかったが、直ぐに袖の中に落ちたような感触があった。冷や汗が出る。

 驚いている二人に反対側の手でひらりと手を振り別れの挨拶をして、走って外を確認している騎士の背中に足裏を乗せて外に出る。


(そこで飛び蹴り?)


 クロストの冷静な反応には実際に声に出して答えていた。


「他に思い浮かばない! どっち!?」


 扉の外は廊下で、前に向かってではなく左右に伸びている、が、悩んでいる暇はない。

 背後でなにか怒鳴り声と喚き声も聞こえる。

 前に出ていた右足のつま先が右を向いていたので、そのまま右に向かって走りながらぐるりと視線を巡らす。


(表の木の高さ的に一階みたいだ。窓から外に出た方が早い)


 クロストから指示が聞こえて、反射的に近くにあった窓へ手を伸ばした。

 換気なのだろうか、窓は少しだけ開いていたため、スティはなにも考えずに窓を乗り越えて外にでる。

 想定通りの一階で、裏庭の様な風景。

 塀で囲われているのか、しかし乗り越えるには高い。

 室内から少しでも見難くなるように身を低くして右に向かって走った。


(スティ、後ろから追ってくるんだから身を低くしても窓からは丸見えだと思うんだけど)


 クロストの冷静な指摘に、普通の体勢に戻して走る。

 使用人用の出入口だろうか、塀に小さ目の扉が見えた。

 扉に手をかける。


(開いてる!)


 それは喜びの気持ちだった。

 一歩踏み出した時、ドン、という衝撃があって視界が暗転する。


(あ、死んだ?)


 小さくクロストの呟きが聞こえた。




***




(痛かった?)


 喚き散らしている初老の男性に頷きながら、クロストはスティに問いかける。


(衝撃だけ。認識する前に死んだみたい)


(あー、怪我人にありのままを伝えちゃいけないってヤツか)


(そうそう)


 大怪我を負っていても、正しい状況を伝えなければ助かる場合があるという話だ。

 例えば足が潰れている場合に、足が潰れていますよ、と伝えるとショック死したりするが、すぐに助けが来ますからと、患部を隠してしまうと生きられたりする。

 痛くなかったんなら何よりだと、クロストは安堵した。


(今回はどうするの?)


 スティは今回も死ぬのだろうなと思いながらクロストに聞く。


(うーん、前回の事もあるし、十分間生きてれば本人が何とかしてくれるんじゃないだろうか。要は毒薬回避って話で。ちょっと真剣に個体差を見てみたいな)


(ああ、そうよね。さっき隠れたら良かったのかも)


(どっちにしろ何を言っているか分からないとやりようがないよな)


 盆を持って若者が近付いてきたので、クロストは一歩近づいて、盆の上の何かを眺めた。

 数は五つ。大きさ、色は変わらないように見える。置いてある位置だろうか?

 何かを取るように手を伸ばし、盆をトントンと叩けば一つだけ微動だにしない粒がある。

 その一つを親指を人差し指で摘まみ上げて、そのついでに中指で盆をなぞった。


(ちょっとだけ凹んでるな)


 若者の顔がわずかに引きつった。

 男性の方は年の功だろうか、動揺は見られない。


(えーっと、欠陥品……欠陥品……)


 クロストはガルプラダ語を思い出しながら、何かを手のひらに乗せて、男性へ首を傾げて見せた。


「ニヒャッケヶ?」


 男性は短く一声。


「エソロヶ!!」


 若者が助走の為に一歩下がるのを視界の端に入れ、足元から土魔法で壁を作りながら身を低くして、扉側に視線を向ける。

 扉前に待機していた二人の騎士もこちらに向かってきていた。


(こういう時こそ奥歯に仕込んだ毒薬が役に立つんだろうなぁ。死ねるやつも取れば良かった)


 冷静にそんな事を思いながら、扉を壊す勢いで風魔法を放つ。

 騎士達は顔を片腕で守るようにしただけでよろめきもせず、ガリっと後方で土魔法が崩壊する音が聞こえた。


(詰んだ)


 クロストは楽しそうに言う。

 笑うしかないだけで事態を歓迎しているわけではないのだが、こういったクロストの反応はスティにとって理解が難しい部分だった。

 それでもクロストは振り返りながら手のひらから氷魔法で槍を作って振り回す。

 戦闘は素人なので狙いを定めるわけでもなく、振りぬく。

 存外、良い位置に振りぬかれた氷槍を若者が腕で払いのける様に回避する。

 鮮血が舞って、あ、と思考停止したところへ顔をめがけて盆が叩きつけられた。


(なんで盆?)


 そう思った時には後ろからの衝撃に視界が暗転した。

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