表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読者と作家のリセットマラソン  作者: 弓軸月子
第二章 国外脱出する密偵

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/102

03 多分不可能なんじゃないかと思う


 パッと気が付くと目の前に初老の男性が立っていて、何やら喚き散らしている。

 何を言っているのかさっぱりわからなかった。

 スティはパチパチと瞬きをして、話を聞いている風に軽く頷きながらクロストへ助けを求める。


(なんですって?)


(分からない)


(クロストでもわからない言語って逆にどこよ?)


(読む専門だから字面なら分かるけど発音を把握してない言語は多いよ。おはようございますとか言ってくれると分かるんだけど……)


 クロストは挨拶なら朝昼晩、時間に関係ないものと別れの言葉はほぼ全言語を記憶していた。あとは感謝の言葉位だろうか。

 男性は喚き散らしているわけではなく、どうやらそういう喋り方と、そういう風に聞こえる言語の様だった。

 身分が高いのか金持ちなのか、服装と態度からはそういった印象で、舞台役者の様にやや大げさともとれる身振り手振りで、後ろに立っていたお手伝いの若者になにか言うと、若者が盆に乗った丸くて黒い小粒のなにかを差し出してきた。


(ああ、考える事じゃなかったな。ガルブラダ語だ。全然発音がわからない。文法も違うしあんまり本もないから殆ど覚えてない)


(言ってたわね、ガルブラダって)


(言ってたんだよ、ガルブラダって)


 南キドニーの隣国、ガルブラダは閉鎖的な国であまり情報は出まわっていない。

 鉱山資源で国が建ち、採掘現場に魔獣の巣窟が発見され、それからは魔獣資源も産業になったとされているが、国自体は大きくも小さくもなっておらず、輸出入はあれど、留学生や移住者の話は聞かなかった。謎の多い国である。


 相談しているうちになんの行動も起こさないスティにしびれを切らしたのか、男性は鼻で笑うように何かを言って、若者の背中を軽く叩く。

 若者はちらりと視線を向けてから、安心させるように微笑むと、小粒のなにかを一つ口に入れ、もごもごとした後に、口を開いて見せてきた。

 奥歯に先ほどのなにかが埋まっているのか、たまたま虫歯があるだけで飲み込んでも害はないですよということなのか、何を言っているか分からないと判断がつかない。


(これひょっとして自害用の毒薬なんじゃないの? 奥歯に仕込むヤツ。密偵っぽいわ)


(あれはどう考えても無理だと思うんだけど、実在するのか?)


(凄くグイグイ差し出してくるけど、受け取らないとダメなやつよね?)


 男性は相変わらずわぁわぁとなにか言っているし、若者も早く受けっとって欲しいのだろう、盆を持った腕が地面に平行にまっすぐに伸ばされて頭を下げている。

 スティは仕方なく手を伸ばして一粒だけ取った。

 密偵は黒い手袋をしていて、うっかり落としてしまいそうだと少し緊張する。

 男性は満足気に頷いて、若者はほっとしたように笑顔でなにか言った。


(あ……)


(なにか分かったの?)


(多分、私は右の、奥歯? みたいな事を言ってる)


 スティはうんざりしたように自身の奥歯を舌でなぞる。


(穴も開いてないし、蓋になっている歯もないのだけれど、取りあえず口に入れるしかないわよね。そしてどうせ死ぬのよね……。即死だといいんだけど)


 クロストが時間稼ぎをするように告げようとした時には、スティは小粒のなにかを口の中に入れ終えていた。


 味、というのではないのだろう、ピリッとした刺激を感じ、本能が拒否して上手く舌が動かせない。

 舌に触れない部分に移動させようと歯と頬の間に移動させようとするが、ドクリと心臓が跳ねて息苦しい様な感覚が襲ってくる。


(大丈夫か!?)


 クロストの問いかけに答えることは出来なかった。




***




 初老の男性が何やら喚き散らしている。

 どうせ聞いても分からないので、先程スティがやった様に、何となく相槌を打つように頷いて、内でスティに話しかける。


(状況は?)


(びっくりしたけれど、不味くも痛くもなかったわ。なんだろう、息苦しい? のぼせる? その辺りかしら。良かったわ、床を転がりまわるような毒でなくて)


(やっぱり物語の中だけだな、奥歯に仕込む毒薬)


(潜入する時に奥歯を噛みしめそうな動きって多いしね。壁をよじ登るとか、匍匐前進するだとか)


(歯に入れられたとして、舌で簡単に外せる被せものだと唾液が入って溶けそうだ)


(時限装置的な使い方は出来るかもしれないわね。実際にあったのは、耳飾りや首飾り、眼鏡のつるに入れたとかもあったわね。腕輪に毒針を仕込んだりもありそうだけれど、いずれにしても口内は難しいわよ)


(あー、時限装置か。それならいけるのか……潜入が夕飯時で良い匂いがして唾液がたくさん出たら死ぬのが早まらないか? 誤差の範囲って計算になるのか? 遅効性の毒とかもうむしろ先に飲んで……遅効性の毒薬を失敗している線もあるのか、これ?)


(どうかしら。若い方の人、口に入れてたわよ? それだとグルなのか、たまたま外れを引いたのかになると思うのだけれど)


 若者がグイグイと盆を差し出してきた。

 クロストは右の口の端を人差し指でひっぱると、


『イアン オーサブ』


と笑ってみた。


(なんて言ったの?)


(無い、場所、って。いくつかの単語しか分からないからな。多分通じるけど間違ってるだろうなぁ。向こうからしたら急に片言だろうし……)


 男性が顔を真っ赤にして何事かまくしたてている。

 若者が盆をそのまま顔に叩きつけてきた。


「うわっ」


 驚いて開けた口にざらっと小粒のなにかが入ってくる。

 顔全体が盆で覆われて逃げ場もなく、そのまま真後ろに倒れ込んだ。

 受け身を取ろうとしたが、盆を持った反対の手で肩を掴まれて体勢を崩されている。

 頭から落ちた衝撃と、ドクンっと心臓が跳ねた感覚は同時で、そのまま意識は途切れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ