02 三回目を示唆するフラグを立てているが気づけない
「やぁ! ようやく魔法の範囲に入ってくれて助かったよ! ただそのままそこにいると危ないからね! この間の場所まで来て座ってよ!」
スティとクロストは聞き覚えのある声が聞こえるな、と同時に思う。
それから明るい所から暗い所へ移動したような視覚になり、やがて明滅するようにゆっくりと見えるものが戻って来た。
図書館内は霧がかかった様に白み、閲覧室へ続く道だけがいつも通りに見える。
道順以外には薄っすらと活動途中で不自然な体勢のまま固まっている人々が見えた。やはり時間が止まっているのだろう。
「こういうのって装飾品奪ったりしてひと財産稼げそうだと思うのは私だけかしら」
視線をあちこちに動かしてスティは言った。
「換金して足が着くかもしれないし、直接金を盗るにしても財布を手にしている人からならいけるかもしれないけど、どこにあるか探している最中に時間が再開されたら言い訳出来ないんじゃない? まぁ、現状は当てはまらないけど。そもそも金に困っているわけでもないだろうになんでまた……閲覧室に行けって事だよね?」
スティは頷いてから、閲覧室へ足を進める。
「そうだけど。クロスト、持ち出し禁止本、今なら持ち出し放題よ? あ、ねぇ、歩いている途中の体勢ってちょっと押したら転ぶわよね? ちょっと押し試してみたい……わぁ……」
スティの視線にクロストもつられて見ると、微妙に浮いている人がいた。
ぼんやりと見えるだけに気味が悪い。
「物理法則が無視されてるみたいだし、本棚から本が抜けないんじゃないか? あと確率は低いけど、受け身が取れないんじゃ頭を打って死ぬとか無きにしも非ずだからやめておいた方がいい」
クロストは速度を上げてスティを追い越した。
「物騒な事を言わないでよ。ちょっと試してみたかっただけで何もしないわよ」
今度はスティが追う形で、五段程の下る階段をクロストに続いて降りると、クロストはまたスティの後ろを歩く。
「……転ばないわよ?」
「僕は転ぶ。押しつぶされたくないだろ」
「どうしてあの食生活で痩せないのかしらね」
「リリーが言うには栄養失調じゃないかって。食う時は食うけど種類食べないし」
「分かっているなら改善したらいいのに」
「スティに言われるから世間一般的に痩せた方が良いのかと思って最近相談したんだよ。リリーは健康の為には賛成だけど、内容はともかく毎日何回かに分けて訂正量を食べられるようになる方が先じゃないかって」
「確かに」
到着した閲覧室にはいつもの司書が机に例の本を開いて立っていた。
「こんにちは。お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
スティはじっと司書を見たが、見ても男なのか女なのか分からない。
クロストはスティの前に一歩出ると眼鏡を外しながら聞いた。
「こちらは貸出書に名前を書いていますから名のりは不要だと思います。司書さん、あなたのお名前を伺っても?」
司書は椅子に向かって上げていた手を下げてからクロストへ顔を向ける。
石膏像の様なその顔は、凹凸だけでそこに目や鼻があるかのように見てしまっていただけで、顔を構成する部品はなかった。
クロストはごくりと喉を鳴らし、司書の言葉を待つ。
「お互い同じ顔に見えているようですよ。神様のご配慮だそうです。ですから名前についてもご遠慮ください」
そう言うと再び椅子に向かって手を向けた。
クロストはため息を付いて椅子に向かって歩き、手前の椅子をスティの為に軽く引いてから奥の椅子に座る。
スティは顔はともかく服装はどうなんだろう? と司書の服装を確認していたので、一拍遅れて足を進めて席についた。
「それでは、良い冒険を」
着席と同時にそんな事を言い、差し出された本によって、二人の視界は再び一瞬の空白を作った。
***
「いやー、ゴメンゴメン。なにかこう、物語みたいな胸の高鳴りを表現しようとしたら凄く回りくどい呼び出し方になったみたいだね! 次回からは面倒だし寝てる間に呼び出そうかなぁ。それなら司書君も困らせないで済みそうだし!」
「え? ただの演出なんですか?」
スティは思わず声を出していた。
「そう、ただの演出! 意味はないよ! 強いて言うなら目標達成中の君たちがいない世界の様子を見てもらうのもいいかなぁ、くらい? あんな感じできっちり時間は止まってるから安心でしょ?」
クロストは外していた眼鏡をかけ直してから誰にともなく言う。
「別に知らなくても問題なかったけどな。眼鏡はかけてないとかけてない状態で来るんだな……あの本がここへの転送魔法陣だとして、敷地内は効果範囲外ってことは図書館の建物内全域で展開か……範囲指定用に紐づけされた術式が図書館内に最低でも四か所置かれているとすると、やっぱり司書は普段普通に働いてる人間って事だよな……」
「あ、その設定だったら、クロストの家と私の家に術式を置いてもらって、丁度真ん中であの司書さんが本を開いてくれれば寝てる時に呼び出せそうよね!」
スティは嬉しそうに話を拾った。
「だけど眼鏡はかけてない状態、つまり、状態は変わらない訳だから、予告されてない場合は寝てる間にここに来てもここでも寝てることになる。眼鏡はかけられたからこっちでも起きられるかもしれないけど、夢と現実の区別的な意味で夢オチ小説みたいで設定的に最初から疑う羽目になるから僕は少し苦手かも」
「でも一回目も二回目も図書館スタートなら三回目から寝てる分にはそれ程気にならなくないかしら? あ、演出省いたんだなって感じで。ストーリー展開が早くて読み心地は良くならないかしら? 私の場合は文字数の兼ね合いで、書くだけ書いて後から省くのだけれど」
「え? 省くの? 勿体ないね。そうだなぁ、展開の速さだけで言うなら、もう神様なんだし強引に歩いてる最中にポンっとこの場に呼び出されるとか、その場でこう、空から光がさしてきて声が聞こえるとかでいいんだよ。神様って人間の理が通じないって暗黙のルールみたいなものがあるんだし。なんでわざわざ図書館なんだ? 世界の中心か何かなのか? なにかの伏線? 当事者だと面倒としか感じないんだけど」
うーん、とスティが考え込み始めたところで、神様がケラケラと笑い声をあげる。
「君たちやっぱり面白いよねぇ! 実は今回の挑戦は別に世界は壊れないんだけど、君たちはバラバラになっちゃうかもしれなくてね? 本人でもあの勇者と違って何回か繰り返せば成功させるとは思うんだけど、折角だし君たちに挑戦してもらおうかなぁーと思って! この国の密偵が西の隣国ガルブラダから戻って来られなくなっててさぁ? 大切な情報が届かないとちょーっとこの国没落するかも、みたいな?」
うわぁ、と、スティとクロストは同時に声を上げた。
完全にただただ面白がって巻き込まれているだけである。
「またスティ君からでいいかな? じゃあ頑張ってねー!」
楽し気な神様の声に向かって、スティは見返りは? と叫び、クロストは状況説明! と叫んだが、神様にとってはどうでもいい質問だった。




