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読者と作家のリセットマラソン  作者: 弓軸月子
終章 読者と作家のリセットマラソン

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20 人生はリセットできない


「やぁ! 久しぶりだね? 元気にしていたかい? 来てくれて嬉しいよ!」


 久しぶりにやって来た図書館で、神様に呼ばれた二人は慣れた様子で三人分のお茶を用意する。

 姿は見えなくとも三人分のカップをと願ったのはいつのことだったか、ここ数年はお茶をするだけで世界の危機には関わっていない。

 図書館に来るのもこれで最後かもしれないと、二人は明るく答えを返した。


「相変わらず聞かずとも分かることをお聞きになりますね」


「そっちも元気そうで良かったよ。今日はどんな話? また面白い話が聞けるのか?」


 神様の愚痴でも、二人にとっては世界を知る面白い話でしかない。

 スティはメモこそ用意しないが、嬉しそうに微笑んでいる。


「あはは! 愚痴は後のお楽しみにとっておいて、久しぶりに行ってもらいたいところがあるんだよ!」


 それはつまり、と二人が顔を上げると同時に、世界は二人を白く包んだ。





***





 見覚えのある天井だ。


(王宮?)


 先に入れ替わったのはスティだった。

 寝台で目を覚ましたというところだろうか、ドンドンと扉を叩かれる音に起き上がる。

 見下ろした体には覚えがあった。

 もう何度彼女と入れ替わったのかはわからない。


「はい?」


 状況が掴めないため、扉の外に向かい声だけをかけて、扉には触れないようにする。

 雷魔法がかけられて感電させられた事があるのだ。

 聖女の寝室である。注意し過ぎるくらいでちょうどいいだろう。


「エステル様が……ご準備を」


 取次の女の声が簡単に告げた。

 エステルはここ最近は表に出る事もなく、既に死亡説さえ流れている。

 高齢で亡くなっていても不思議ではなかったが、二人はリリー本人から、なかなかくたばらねぇ、などと聞いてはいた。あまり状況が良くないのかもしれない。

 いずれにしても中身がスティであると伝えられる相手ではない。椅子にかけられていたローブを被り、スティは扉を開けた。


「悪ぃ待たせた。状況は?」


 リリーが言いそうな言葉で短く確認すれば、女は青ざめた顔で答える。


「アマリリス様と今代聖女様がお付きですが、もう意識はないそうです」


「そう」


 今代聖女はブレイン国から現れているらしい。

 クロストもスティも顔を合わせた事はないが、信頼できる人物とは聞いていた。

 そこにふっと男が割って入ってくる。


「図書館で魔石暴発が発生。リジウムご夫妻が巻き込まれました。現在捜索中です」


 報告に思わず息を吸い込んだ。

 所作からジギが所属していた部隊の人間だと思われる。

 この部隊には入れ替わりは周知されているので報告にきたのだろう、難しい顔をしていた。


「そ。ああ、彼に付き添ってもらうからもういい。ありがとう」


 女を下がらせ、左手を持ち上げると男が手を取って歩き始める。


「見捨てますか?」


 リジウム夫妻はもう用済みですかという意味を拾って、スティは苦笑いを浮かべた。

 他でもない、当事者二人の意識がここにある。


(クロスト?)


 やるべき事の判断は早い方が良い。失敗すればやり直せば良いだけの話だ。


(うん、僕は構わないよ)


 その言葉だけで方向性を決める。


「捜索に割く人員がいるなら一応捜索は続けてもらえるかしら? それから申し訳ないのだけれど、スティ・リジウムです。発言には気を付けて?」


 リリーとしての言葉使いを止めてスティが言えば、ほんの少しだけ繋いだ手が揺れた。


「かしこまりました」


 返答に動揺はない。


「結構。急ぎましょう」


 スティが告げると、男は、


「失礼します」


とスティを抱き抱えて走り出した。


(リリーは聖女の能力が落ちてるって話だよな?)


 運ばれながら二人は意見交換を始める。


(らしいわね。私たちかエステル様のどちらへ行くかが分岐だと思うのだけれど、行くだけで良いなら神様も意地が悪いわよね)


(それは今更の話だろう。僕はともかくスティだけでも助かると良いんだけど)


(あら! 二人同時に死ぬ分には願ったりだけれど? ここ最近の喧嘩はそればっかりだったじゃない!)


 どちらが先に死ぬかと言う話は、主にスティが絡んで喧嘩に発展していたが、クロストとしては勘弁してほしい話だった。


(年齢的にも性別的にも普通に行けば君の方が長生きだろうし、若い頃の無茶苦茶で僕はもうボロボロだから議論にもならないって何回も言ったよね?)


 飽きれた様に言うクロスとの声を聞きながら、スティは下ろされて扉前に立つ。


(二人ともいっぺんに死ぬんなら良い機会だったと思いましょう)


 いい逃げる様にして実際の声を出す。


「リリーです」


 直ぐに開けられた扉の向こうには見知らぬ女が立っている。

 恐らく今代聖女だろう、彼女は小さく上体を下げて挨拶をし、スティの手を取った。

 引き継いだ男はそのまま部屋外の扉前に待機する様で、そっと扉を閉じる。

 スティは促されるまま歩き、エステルが横たわる寝台の横につく。

 アマリリスがエステルの手を握り、傍に顔を埋めていた。


「リリス様」


 そっとスティがアマリリスの肩に手を置くと、ずわりと体の中から何かが出ていくのがわかる。

 聖女の力が働いたのだろう。

 ゆっくりとアマリリスが顔を上げた。


「スティ?」


 リリーは今でもかぁちゃんと呼び、クロストはアマリリス様と呼ぶのだ。直ぐにリリーの中身に思い至ったのだろう、不思議そうにこちらを見るアマリリスの頭に、エステルの手が触れた。

 ばっと振り返ったアマリリスに優しく笑いかけてから、エステルは枯れ枝の様な腕を持ち上げてスティに向ける。


(どうしよう!)


 一瞬でぐしゃぐしゃになった感情のまま、スティはその手を取った。

 エステルとリリーの最期を奪ってしまったかもしれない。

 何かを言おうとして、言葉が紡げなかった。

 けれど、それは必要ではない。


「巻き込んで済まなかった」


 エステルが掠れた声で言う。


「最後にそれだけ直接伝えたかったんだよ。今までありがとう。さぁ、戻ったら扉前の男に急いでここに連れて来てもらいなさい。それで今代聖女を図書館へ転送すればこれは終わるから……」


 力なく落ちていくエステルの手を残像の様に網膜に焼き付けて、スティは自らの死を望んだ。





***





 交代したクロストは、エステルの言う通りに動き、今代聖女を転送魔法陣で図書館へ送り、再び神様のもとに戻って来た。

 エステルと言葉を交わすことは無かったが、スティの番で言葉は聞いている。それで十分だった。

 スティは泣きながら神様に聞く。


「私たちは……エステル様の何に……巻き込まれたのでしょうか?」


 二人にとっては師であった。

 一番頼り、相談をした相手でもある。

 神様に一番近い人、大賢者エステル。

 そんな風に広がっている。

 思い返してクロストは目を見開いた。


「待ってくれ。神様って入れ替わるのか……?」


 今代聖女などと言う言い回しがある位だ。今代神様だっているのかもしれない。


「そりゃ変わるさ。次代神様には君らを通して存分に神様の仕事を見せて来たからね! 引き継ぎもなく楽々」


 楽しそうに笑った神様は、いつの間にか出現していた三脚目の椅子に落ちて来て肘をつく。

 整った顔立ちに白い肌、白い髪、目は閉じられたまま開けられる事はなく、長くて白いまつ毛にはキラキラと光が舞っている。


「……言動と見た目の差が尋常じゃない」


 涙も引っ込むと言うものだ。スティが呆然と言った。


「神様だからね」


 神様は嬉しそうに笑う。


「じゃあ主人公はエステルで僕らは脇役か。そりゃ良かった」


 クロストは腕組みをして笑った。自棄である。


「脇役の割には働かせすぎだと思うわ。良いのよ、主人公で」


 スティがダンとテーブルを叩いて言い、神様はまた笑った。


「紛れもなく主人公だったと思うとも。さて、今頃エステルは最後の挨拶をしている。その後はこちらに来て次の使徒を使いながら世界を守っていくけれど、君たちはここまでだ」


 ぴっと指をひとつ立てて神様は続ける。


「生前にエステルが施して来た隠蔽魔法も同時に消失するからスティ君はもう逃げられないのに世界は救えない」


 これから先入れ替わりはなく、未来がわからないスティに、未来を告げよと人が群がる様が思い浮かぶ。


「今代聖女は君たち二人を発見するけれど、二人は助けられない」


 二つ目の指を立てて神様は続ける。


「クロスト君は助かったとしても余命は半年くらいかな。ちょっと早めの老衰と言ったところかな」


 ロイコクロも歳若く死に、クロストはもうその歳を超えていた。


 三本目の指を立てた。


「もう会うこともないだろうから、今回の対価は今決めてもらえるかな? 直ぐに叶えられるやつを頼むよ」


 あはは、と声を出して笑った神様は、手元のカップをクルクルと回してご満悦だ。

 クロストとスティは顔を見合わせて息を呑む。

 口火を切ったのはスティだ。


「最悪だわ! え、良いタイミングだから私が死ぬんで良いわよね? 半年後にはクロストも死ぬんでしょう? どこだか分からないけど待っているから一緒にあの世に行けば良いわよ。そうしましょう?」


「何を言ってるんだ? スティの寿命については言及してないんだしどう考えても君は長生きしそうなんだからスティが助かりなよ? 得意だろう? 思わせぶりなことを言ってさも未来を知ってますって顔をして贅沢な隠居生活を満喫しなよ?!」


「そう言うことを言うの? 直ぐに新しい男を作ってクロストのことなんか忘れちゃうかもしれないわよ?」


「そっちこそ! 財産ちらつかせて看取ってくれる女性を僕が探さないとでも? スティの遺産も入るし悪いけど楽勝でスティのことなんて忘れて短いながらも幸せな新婚生活を送ってもいいんだな?」


「どこの女よ! 好みのタイプなら私も混ざりたいし、好みじゃ無かったら呪い殺してやるんだから!」


「君は頭がおかしいんじゃないか?」


「あなたに言われたくないわよ! どうかしてない時があなたに存在したかしら?」


 二人の言い合いを見ながら神様は満足げにお茶を飲む。

 時間だけはたっぷりあるのだ。

 飽きるまで言い合いをすれば良い。


「何を呑気にしてるんだ、蚊帳の外気分か? 考えが甘いにも程がある!」


「そうですよ、神様何か代案を出してこの男を黙らせてください!!!」


 まさか巻き込まれるとは思わなかった。

 神様は盛大に笑い転げてから話に加わるのだった。






*****


次回 最終話 エピローグ

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