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読者と作家のリセットマラソン  作者: 弓軸月子
終章 読者と作家のリセットマラソン

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19 備えて蓄えて


 帰宅して泥の様に眠りたいところではあったが、昼前にジェンスが来ると言うので、起きられないと困るからと二人で仕事場の椅子で寝た。

 クロストは腕を組んで、スティはテーブルに顔を伏せての爆睡である。

 呼び鈴を鳴らしても出てこないスティを心配し、合鍵を持っていたジェンスは、仕事場に入り込んで絶句した後、二人とも叩き起こして食事をとらせた。


「結婚は喜ばしいですけれど、お二人そろって過労死とかは止めてくださいね?」


 帰り際に顔を引きつらせて言っていたが、その割にはきっちりと仕事は終わらせて帰るのだからたいしたものである。



 夕方前に二人で工房へ行き、スティは打ち合わせをしたら帰宅して、エステルに報告書を出しておくと言う。

 今日は店には来ずに自宅で夕食をとるのだろうと、クロストは頷いて一言付け加えた。


「朝、帰ってまだ寝てたら起こす?」


「お願いします」


 スティは神妙に頭を下げた後に笑う。

 ここで別れてクロストは本屋へ行く。



 あっさりと日常に戻ったようで内心は違う。

 普通を装いつつ、二人は色々な事を考えていた。



 忘れた方が良いと思った程の感情とはどんなものだったのだろうか?

 神様から聞いた話では、人を害した経験もあれば、いつ殺されても文句を言えないような国家機密に触れたこともあるらしい。

 捕らえられて日常生活に戻れない可能性を力業で潰したね、と楽しそうに笑っていたが、話のどれもが力業のようで、どの部分を力業と称していたのかもよく分からなかった。

 また忘れたいと思う日が来るだろうか?

 この先同じようなことが起きたとして、冷静に対応ができるだろうか?



 翌朝帰宅したクロストを、スティは起きて迎えてくれた。

 朝食をとりながらの話は昨日のことだ。

 エステルからはすぐに返事が来て、知らせてくれてありがとうと言う礼と、二人を利用してなにかをするという意図がない事が改めて書かれている。逆にこちらから何か出来ることがあれば力を貸すとまで書かれた手紙は、体だけではなく心の健康も大切に、という言葉で締めくくられていた。


「次があると思う?」


「あるだろ、どう考えても」


「必要なのは知識? 戦闘技術?」


「知識じゃないか? 身体能力は本人のものみたいだし」


「私達二人とも、同年代の人と比べたら知識はそれなりにある方だと思うのだけれど?」


「もう少し専門的なところが必要なんじゃないか?」


 それじゃあせっかくだしと、世界が終わるような危機に役立つ知識講座をエステルにお願いした。

 提案したスティもスティだが、快諾する方も快諾する方である。

 クロストのため息は止まらなかったが、エステルは少し嬉しそうだった。



 エステルの講座では、当たり前に国家機密に触れる羽目になるが、別段忘れたいと思うようなことでもなかった。

 指導は過酷で厳格。気は抜けなかったが、おかげで人類滅亡の分岐に関わるという重みとは向き合えたように思える。



 経験値を稼ぐために、リリーの素材採集に同行させてもらったり、本の仕入のためにロイド達と旅に出ることもあった。

 スティはクロスト程時間を空けられない立場になっていたが、それでも近場でする冒険は良い刺激になるようで、出かける度に発案品が増えている。



 図書館へは定期的に通うようになった。

 神様と会うわけではないが、用事があれば声をかけやすいだろうと考えた結果だ。

 予言の書があるくらいなので、暫くは呼ばれることもないだろうとエステルに言われていたが、なにせあの神様である。

 いつ呼ばれても不思議ではないというのが、二人の共通の認識だった。




***




「やぁ! 久しぶり!」


 図書館からテーブルだけの世界へやって来た二人は口々に挨拶を返す。


「お久しぶりです、神様」


「お久しぶり、です。今日はなんの用?」


 楽しそうなスティに、警戒も露わなクロストだ。


「早速聞いてくれて嬉しいよ! パンクリアスで六年前に一人の少年が一つの村を壊滅させているのだけれど、彼、国の物っていう登録だったらしくて」


 国の物? とクロストは眉間に皺を寄せる。


「奴隷、と言う事ですか?」


 スティはパンクリアスについて思い出しながら尋ねた。


「そうそう。戦争になった時とかに使う用に国有扱いなんだよ。その少年が今は南キドニーに居るんだけどね、近々冒険者協会を通して全世界に指名手配符が回るところなんだけれど、君たちどうしたいかなって思って」


 わざわざこういう言い方をするのだから知り合いの話なのだろうと、二人は顔を見合わせる。


「あ、ロイドか」


 先に思い出したのはクロストだった。

 家名を名乗る事もなく、定期的に南キドニーに滞在してはリリーの店で手伝いをしている、パンクリアス出身の冒険者、ロイドは、既に少年と言う年ではないが、六年前であれば少年だったのだろう。

 色々と情報が紐付けされたところで、スティが驚いて声を上げた。


「え? 亡命してたわよね? ちょっとまって、壊滅? 村を?」


「亡命先のストマックはパンクリアスとは冷戦状態だから法律とかそういうのは丸ッと無視の構えだよ。もっとも正当にお伺いを立てても情報は開示せざるを得ないと思うんだけれど。事を荒立てるのが好きなお国柄なんじゃない? 壊滅させたっていっても小さな村だし殺したのは百人位? それでも凄いけどねぇ。その内同じ境遇の子? 国有の? も、六人殺しているから、殺人だけじゃなくて、器物損壊とか窃盗、強盗なんでもござれな罪状だねぇ。しっかし人間て暇だよね? 彼一人連れ戻したところでなんの影響もないどころか聖女が怒り狂って国ごと壊滅させちゃうかもしれないのにねぇ」


 所々笑い声を挟みつつさらさらと言うので、内容が頭に入って来ないとクロストは眉間を押さえているが、スティの方はすんなり受け入れられたようだった。


「まだ少年の年で村を壊滅させて亡命するレベルの酷い思いをしたという話でしょう? 人殺しが好きとか、働きたくないから盗んだって話じゃなくて? ロイドも出来そうだしリリーちゃんもやりそうな話じゃない」


 クロストに早口で自分の感想を述べて、それから神様へ声をかける。


「指名手配符を回らない様にしたいです」


 ああ、そういえば希望を聞かれただけだったかと、クロストも返答に耳を傾けた。


「世界に影響がないから本当は放置する案件なんだけど、体験するには丁度いいと思ってたんだよね。殺し合いにもならないし説得するだけのかーんたんなお仕事だから、今の君たちの在り方を見せてくれたら嬉しいかな! いってらっしゃい!」


 神様が楽しそうだなぁ、と、二人はぼんやりと思った。




***




 目の前で冒険者組合に提出する書類を作る女性を説得すればいいと判断したスティは、


「すみません、ちょっとお手洗いに行かせてください。お腹が痛いです」


とすぐにその場を離れ、トイレで転送魔法陣を書き上げてエステルに会って事情を説明。

 いくつかの説得材料を仕入れて、


「お試しみたいだし、一度交代してみましょうか」


などと、教わったは良いが一度も使った事のない手軽に死ぬ方法を試して死に、クロストと交代した。

 交代したクロストは、普通にエステルから仕入れた説得材料で説得し、あっさりとロイドの指名手配符が回らない様に手配を済ませた。




***




「あれ? 指名手配符がまた手配されちゃうかもって思ってもう一回死ぬ所じゃないの?」


 悔しそうに神様は言う。


「時間稼ぎで十分じゃないか? 戻ったらエステル様に事情を説明すればジギさんの部署でなにかするだろうし」


 クロストの言葉にスティも頷いている。


「逞しくなっちゃったねぇ」


 しみじみと神様は言った。


「色々と思うところはあるけどな」


 例えば話を聞いただけではロイドはただの大量殺人者で、庇う必要があるのかは分からない。

 仮にリリーが国を滅ぼしたとして、世界に影響がないなら潰してしまった方が良い国なのかもしれない。

 考え出したらきりがないのだ。


「悪い方に進むようでしたらまたお呼び出しください」


 スティが明るく付け加えた。

 まだなにも起こっていない未来は考えても仕方がない。

 それは神様の領分だろう。

 大切なのは今現在だと思う。


「そうだねぇ。世界を救って欲しかっただけで、君たちが右往左往するのを見たかったわけじゃないから、簡潔に済むならそれでいいんだけど」


 顔こそ見えないが、それは苦笑いを浮かべている様な声色で、くすくすとスティは笑った。

 クロストは嫌そうな顔で言う。


「寂しかったら用事がなくてもお茶でもって呼び出したらいいだろう? 普段の生活に支障がないならこっちは別に構わない」


「私たちは長持ちなのでしょう?」


 スティが首を傾げれば、神様は言うのだ。


「ああ、そうだね。君たちが一番持ちが良い。用事があってもなくても、また声をかけるよ。世界のために時間を割いてくれてありがとう。君たちの努力もちゃんと見ているからね」


 珍しく神様らしいことを言う、と、二人は驚いて、それから顔を見合わせて笑いあった。

 いつ、なにがあっても対応出来るように、確かに時間を割いて勉強してきた。

 世界のためと言われたが、自分のためだったように思う。

 それでも神様と言う存在に改めて礼を告げられて、素直に喜ばしいと感じた。


「実生活で間違って死なないようにね? それじゃあ、またね」


 揶揄うように告げられた言葉に、確かにこういう事を繰り返しているとうっかり間違えて死ぬかもしれないな、と思いながら、またお会いしましょうと呟く。

 そうして二人はそっと図書館に戻されたのだった。

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