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9話 ゴクエンの村、名前からして暑い

「お待ちしておりました。お話はドルマン陛下より聞いております。私はこのゴクエンの村を束ねるいわば……村長のような者です」


 村長さんは簡単な自己紹介を済ませてボク達を中に通してくれた。顔はしわくちゃで腰も曲がっている。でも村長らしい威厳がある。


「大きな村ですね!」


 リリーがキョロキョロと周囲を見渡して感想を述べる。それにはボクも同感だ。


 村と聞いたから小さな集落を想像していたけど全然違った。


 ドルマン王国ほどではないけど凄く広い。道沿いには様々な店が立ち並び、大通りも広々としている。だけど道ゆく人は下を向いてどこか不満げな表情だ。どうしたのだろう?


「以前は観光客や冒険者でこの村は賑わっていました」


 村長さんはボクが思った事を読み取ったのか、重い口調で話し始めた。


「しかし、レッドドラゴンが暴れ出したせいで山の麓にある天然温泉には近づけず観光客は減り、鉄を採取しに行った作業員は怪我をする始末。お願いします。どうかお助けください」


 元から曲がった腰をさらに曲げて村長さんがボクらに深く頭を下げる。すると……


「あったり前だ! オレ達が来たから安心しな! レッドドラゴン? そんなのこのドット様にかかればイチコロさ」


 相変わらずいつもの調子でドットさんが流暢に語り胸を張る。


「それは心強い! 皆様、長時間の移動でお疲れでしょう。部屋を用意いたしましたので、万全の準備を整えてから臨んで下さい。もしよろしければこの村を好きな様に探索して下さい」


「お気遣いありがとうございます。それじゃあ2人とも、今日は自由に見て回っていいよ。現地の人との交流はいい経験になるからね」


「えっ⁉︎ いいのですか!」


「ありがとうございます!」


 実はさっきから見たことのない村に好奇心が抑えられずウズウズしていた。早くいろんな店を覗いてみたい!


「ただし、夕方までには帰って来てね。あと迷子にならないようにね」


「「は〜い」」


 ボクとリリーは、アリシア師匠に手を振って、ゴクエンの村の探索に向かった。




* * *


「こんにちは! 誰かいませんか?」


 わたしが道具屋さんの扉を開けて中に入ると、奥からいつものあばさんが出迎えてくれた。


「いらっしゃい、あら? 今日は1人なの?」


「うん、そうなの!」


「おじいちゃんのお腰はまだ悪い?」


「うん、すごく辛そう……」


「そっか……お大事にね」


 おばさんは「欲しいものが見つかったら教えてね」と言い残してまた店の奥に行ってしまった。


 何か使えそうな物がないか店内を見渡していると、大きな棚に登山道具が並んでいた。欲しいけど背が足りなくて届かない。どうしよう? 必死に背伸びをして手を伸ばしていると……


「これが欲しいの?」


 エルフのお姉ちゃんが代わりに取ってくれた。


「ありがとう。えっと……」


「初めまして、私の名前はリリー、どうして登山道具が欲しかったの?」


「それは……おじいちゃんが腰を痛めちゃったの! でもゴクエン山の天然温泉に浸かれば治るはず。だから戦うための道具が欲しいの!」


 エルフのお姉ちゃんは静かにわたしのお話を聞くと、隣のお兄さんと何やら相談を始めた。 


「子供1人で行くのは危険だからやめておいたほうがいいよ。だからボク達が代わりにドラゴンを倒してくるよ!」


「本当に? 本当に倒してくれるの⁉︎」


「うん、だからおじいさんの側にいてあげて。きっと心配してる」


 エルフのお姉さんが優しく微笑んでわたしを見る。


「ありがとうお兄ちゃん! お姉ちゃん! わたし応援してるね。そうだ! これあげる」


 わたしは大切に取っておいたおやつの飴を2人に渡してバイバイした。




* * *


 ゴクエンの村の中でも一番暑い鍛冶屋から、カンカンと鉄を叩く音が鳴り響く。


「おい! チンタラするな! 早く替えを持ってこい! 鉄は熱いうちに叩けっつーだろ!」


「へい、すいやせん親方!」


 俺は弟子の1人を怒鳴りつけてハンマーをとりあげた。原料の鉄は残り僅か、失敗は許されない。


「それにしても親方、あのドラゴンには困りましたね〜」


「そんな事言ってる暇があったら客の相手でもしろ! 店に誰か来ただろ!」


「すいやせん、すぐに向かいます」


 弟子が慌てて向かうのを確認し、俺は最後の微調整を加えた。


 それにしても客が来るのは久しぶりだ。あのクソドラゴンが暴れるせいでゴクエン山から取れる鉄が採掘できず枯渇し、客足は減る一方だった。


 作業がひと段落し、店に顔を出すと、驚いたことに客は女と1羽の鳥だった。


「ねぇ、ドットこの剣かっこいいよね!」


「そうだけど、結構高いぜ、やめときな」


 女と喋る鳥が武器を眺めてあれこれ言い合っている。奇妙な奴らだ。


「親方、この方達がレッドドラゴンの討伐に向かう戦士ですよ」


「はぁ? それは本当か?」


 てっきり屈強な男がくると思っていたから肩透かしもいいところだ。


「本当に任せても大丈夫なのか?」


「任せてください! 必ず倒してみせます」


「オレ様にかかればレッドドラゴンなんかイチコロさ」


 女と鳥は自信満々に答えるがとても倒せるとは思えない。


「そうか……まぁ、頑張りなよ、店内の武器は気が済むまで見ていってくれ」


 俺は適当に話を切って作業を再開した。あまり期待はできなさそうだな……




* * *


「どうだった2人とも村は探索できた?」


 村長さんが準備してくれた部屋に帰ると、アリシア師匠が出迎えてくれた。


「はい! 初めて見る物ばかりで楽しかったです!」


 リリーが楽しげに村の様子を語ると、ドットさんが深く頷く。


「それはよかったな嬢ちゃん! やっぱり知らない土地はテンションが上がるよな!」


 2人は楽しそうに話しているけど、ボクはそれ以上に気になったことがある。


「ルークはどうだった? 何か発見はあった?」


「えっと……住民がレッドドラゴンに困っている事が改めて分かりました。たまたま立ち寄った道具屋でも、少女が『おじいちゃんのためにわたしが倒しに行く』って言ってました」


「そっか……私が立ち寄った鍛冶屋もレッドドラゴンが悪さするせいで鉄の採掘ができないって嘆いていたよ」


 どうやらこの村はレッドドラゴンのせいで本当に困り果てているようだ。これは何が何でも解決しなければ!


「まぁ、今日はゆっくり休んで明日ぶっ倒しに行こうぜ!」


 ボク達は明日の予定を決めて、各々に割り当てられた部屋で休む事にした。

ご覧いただきありがとうございました。


村の紹介も終わったので次回はゴクエンの山に向かいます。


続きが読みたい、面白い! と思った方はブックマーク、高評価していだだけると泣いて喜びます(笑)


それでは10話でお待ちしています。15時10分頃に投稿予定です。タイトルは「レッドドラゴン戦」です!

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前作の作品です。仮想の世界を舞台に、データーの世界に閉じ込められるお話です。無事にプレイヤーは元の世界に帰れるのか? そもそも誰がこんなゲームを作ったのか? 各章は30分ほどでサクッと読めます。イラスト&表紙付きです♪ 仮想からの脱出ゲーム
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