7話 ようこそドルマン王国へ
「すごい、ここがドルマン王国ですか⁉︎」
リリーは目を輝かせて王国をぐるりと見渡す。
「ようこそドルマン王国へ、歓迎するぜ!」
ドットさんがリリーの肩に止まって耳元で鳴く。
「今日は無事に初任務も終えた事だし、2人ともついて来て!」
アリシア師匠はボクとリリーの手を握る。恥ずかしいからやめてほしと言ったら「はぐれるといけないでしょ?」と返された。
住宅地を抜けて、坂を登りだいぶ高い所までやって来た。アリシア師匠に連れて来られたのは、この国を一望できる小さなお店だった。
「いらっしゃい」
中に入ると、50代くらいの男性に出迎えられた。甘い香りと香ばしい香りがする。
「マスター! いつもの山盛り頂戴!」
「かしこまりました。お好きな席にどうぞ」
マスターと呼ばれた男性は店の奥に向かう。『お好きな席にどうぞ』と言われたから、ボク達は窓際の席を選んだ。
外の景色を眺めながら少し待っていると、大皿に焼き菓子を乗せたマスターが現れた。
「ありがとう! マスター!」
「ここのクッキーが凄くうまいから食べてみな」
ドットさんがクチバシを器用に使ってクッキーを突っつている。
「いいのですか!? ありがとうございます。」
リリーはクッキーを1つ手に取ると、美味しそうに頬張った。
「ほら、ルークも遠慮しないで」
「はい、ありがとうございます」
試しに1枚食べてみた。うん、美味しい。甘くてサクサク、いくらでも食べれそう。
「どう? 美味しい?」
「はい! ですが良いのですか? 王様に報告をしに行かなくて」
「ちょっとくらい遅れても平気だよ。息抜きも大事だからね。店長、あれを下さい!」
奥からコップを持ったマスターが出て来た。飲み物かな? 見た目は真っ黒で何だか苦そう……でも良い匂いがする。
「砂糖はいらないのですか?」
「このままで大丈夫です」
師匠はコップに入った黒い飲み物の香りを楽しだ後、一口飲んだ。その動作はとても大人びているが……
「っう! 苦い! やっぱりください!」
奥から店長が呆れた顔で戻ってきて砂糖とミルクを手渡す。
「アリシア、いつもは砂糖とミルクをたっぷり入れているじゃないか」
ドットさんが小首を傾げて尋ねると……
「だって2人の前だから少しは大人っぽいことがしたいじゃん?」
アリシア師匠はよくわからない言い訳を始めた。
「君達も飲んでみるかい?」
店長がボクとリリーの前にあの黒い飲み物が入ったコップを置く。確かに少し苦いけど、美味しい。クッキーとよく合う。
「えっ? 2人ともそのままいけるの?」
「はい。だってこのままでも美味しいよね?」
「うん♪」
ボクとリリーは顔を見合わせて頷き合う。
「嘘〜!本当に?」
それでもアリシア師匠が疑いの目でボク達のことを見てくる。
「あの、そろそろ報告に行かなくてもいいのですか? だいぶ日が暮れてきましたが……」
「あっ本当だ! マスター! お金はここに置いておくね!」
師匠はポケットからお金を取り出すとテーブルに置いて席を立つ。
「アリシア師匠も意外とおちゃめな一面があるんだね」
「ふふ、そうみたいだね」
ボクとリリーが顔を近づけてひそひそ話をしていると……
「2人とも早く! 置いていくよ!」
アリシア師匠の声に急かされてボクらはカフェテリアを後にした。
* * *
「ただいま戻りました国王陛下」
兵士に案内されて、ボク達はドルマン王がいる王室に向かった。
「うむ、ご苦労。ところでまた1人増えているのだが?」
今度は、リリーの方を見下ろす。
「初めましてリリーと申します。エルフの村から来ました」
一通りリリーの自己紹介が終わると、王様は「そうか……分かった」と言って同行する事を認めてくれた。
「それで、王様、今度はどこに行けばいいんだ?」
ドットさんが尋ねると、王様は軽く咳払いをして話し始めた。
「また暴走した魔物が現れた。今度はレッドドラゴンだ。火山地帯にあるゴクエンの村に向かうのじゃ。それと例の物を持ってきてほしい」
王様が軽く手を叩くと、小さな箱を持った兵士がボクの前にひざまつく。受け取って開けてみると中には水晶玉が入っていた。
「その水晶玉に魔力をこめると、離れた村に行っても一瞬でこの王室に帰って来れる。そなた達の旅に役立つはずだ」
「マジかよ⁉︎ これは興味深いアイテムだな!」
早速ドットさんが水晶玉にまたがってあれこれ突いている。
「ありがとうございます。大切に使います」
「ただし注意事項がある。その水晶玉に魔力を込めればこの王宮に戻ってこれると言ったが」
王様は言葉を切って鋭い目で見下ろす。
「もし移動の途中で手を離すと、時空の間に取り残されてしまう」
「えっ? それって危険じゃないですか?」
アリシア師匠が驚いた表情で尋ねる。
「安心せい、もう一度、水晶玉に魔力を込めれば戻ってこれる。じゃがくれぐれも気をつけるように。話は以上だ」
ボクらは王様に一礼して王室を出た。
* * *
「陛下、よろしかったのですか? あれを渡してしまって?」
兵士の1人がワシの元に近づいて小声で話し始めた。
「問題ない。この事はアリシア達には言っていなかったが、あの水晶玉にはもう1つの能力がある」
「もう1つの能力? なんですか?」
「実は水晶玉を通じて所有者の周辺を見る力が備えられている」
「ではもしや……」
「あれを渡した本当の理由はルークを監視するためじゃ、お前もあの悲劇を覚えているだろう、10年前ルークの父親が敵味方関係なく暴れたあの事件だ」
「はい、もちろん、ですがあれは……」
「何かあってからでは遅いのだ! 分かっておるな?」
「はい……我々は国王の仰せのままに」
兵士は深く頭を下げると持ち場に帰って行った。
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明日はゴクエンの村編を投稿していきます。逆境、無傷絶大、治癒分配、全てのスキルを駆使して戦って行くのでご期待下さい♪