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5話 逆境と治癒分配

「師匠!」


「少年! 力を貸せ!」


「はい!」


 2人で必死にどかそうと試みるがうまくいかない。怪我をしたエルフの兵士たちも手伝ってくれたが結果は同じだった。


「みなさん! 何かが近づいて来ます!」


 リリーさんが慌てた様子で叫んでいる。何がいるのか分からないけど、大きな木が小枝のように簡単に倒されながらボク達の方に向かって来ている。


「来るぞ! 構えろ!」


 傷ついた兵士たちが立ち上がって剣を構える。体はボロボロだけど、まだ闘志はあるようだ。でもそれは一瞬で折られてしまった。


「おいおい、マジかよ!」


 ドットさんが一歩後退りして呟く。そこには今までの猪が子供に見えるほどの大猪がいた。




* * *


「ルーク、私を置いて逃げるんだ!」


「嫌です!」


「ルーク、これは師匠命令だ!」


「それでも嫌です!」


 アリシア師匠を置いていくなんて考えられない。もう誰かが死ぬのは嫌だ! でも……


(どうしたらいいんだ? エルフの戦士は怪我をしているからまともに戦えない……)


 大猪は地面が揺れそうなくらい大きな咆哮を上げて威嚇してくる。


(今、戦えるのはボク1人。なんとかしないと!)


「”ファイアーボール”」


 さっき覚えた炎の魔法を放ってみた。でも全然効いていない……


「ルークさん!」


 怪我人の避難をさせていたリリーさんが、ボクの名前を呼ぶ。


「ここは何とかするから村の人たちを回復させて逃げて!」


「でも……それだときっとルークさんの怪我がより酷くなりますよ!」


「大丈夫なんとかするから」


「……分かりました」


 リリーさんが怪我人を1人、また1人と回復していくにつれボクの体に痛みが走る。でも不思議な事に力が湧いてきた。それでも勝てるかどうかは怪しい……


[だったら力を貸してやろうか?]


(えっ?)


 急に頭の中から誰かの声がした。この声は確かボクの村が魔物に襲われていた時にも聞いた覚えがある。


(誰なんだよお前は)


[忘れたのか? 早く”逆境”を使え]


 籠った声がボクを誘惑する。


(嫌だよ。だって暴れるでしょ? 大切な人まで傷つけそうで怖いよ……)


[いいから使え。じゃないとここにいる全員が死ぬぞ]


(………)


[すぐに終わらせる。お前は見ていろ]


 ()は懐にしまってあるナイフを弄ぶと標的に向かって笑みを浮かべた。


「“プラントバインド”!」


 今までとは比べ物にならない丈夫なツタがアリシアを押し潰している丸太にからみつく。少し力を入れてみたら簡単に粉々になった。


「グォぉぉー!」


 大猪が咆哮を上げながら突進してきた。


「よう、デカブツ、俺が相手してやるよ」


 それは一瞬の出来事だった。俺は鋭い牙の突きを軽く避けてナイフを振り下ろした。


 ボトっと首が地面に落ちて足元が血の海となる。その光景が故郷での出来事と重なって見えた。


「お前たちのせいで俺の故郷が!」


 もう、大猪は死んでいるが、その背中に何度も何度もナイフを突き刺した。肉が裂ける柔らかい感触が気持ち悪い。俺のからだは返り血で真っ赤に染まっていた。それでも刺し続けた。こいつらが憎い!


「ルーク、もうやめるんだ!」


 アリシアが俺の手を掴む。


「うるさい、命令するな!」


 俺は力づくで腕を振り解いた。


「お嬢ちゃん、少年を回復させてやってくれ!」


 ドットが必死に羽をばたつきながら叫んでいる。


「ですが、それだと誰かの傷が……」


「今はそんな悠長な事は言ってられない、早くしてくれ!」


「分かりました」


 エルフの少女が俺に手を伸ばす。その瞬間、全身の痛みが消えていく。


「あれ? ()()は何を……」


 傷が癒えた瞬間、意識が戻ってきた。足元にはあの大猪の首が落ちている。死んでいるはずなのにその目はボクの事を睨んでいるように見えた。


「ルークだよね? 大丈夫?」


 アリシア師匠が少し警戒しながらゆっくりと近づいてきた。


 状況がよく分からないけど、なんとなく周りの雰囲気からして、また逆境が暴れ出したに違いない。何なんだよあいつは!


「はい、もう大丈夫です……あれ? どうしたのですかその傷!」


「これくらい問題ないよ」


 師匠の右足は血で赤く染まり、地面にポタポタとたれている。それに随分疲れた表情をしていた。


「なぁお嬢ちゃん、ルークを回復させた時、倦怠感や脱力感を感じたか?」


「いえ、特に何もありませんでした」


 ドットさんはリリーさんの肩に止まると、何故か納得した様子で首を縦に振る。


「なるほど、ならやっぱりお嬢ちゃんが使ったのは魔法じゃなくて()()()だな」


「ドット、それってどう言う意味?」


 師匠が傷口を押さえながら尋ねる。


「本来魔法は魔力を消費しないと発動出来ない。でもお嬢ちゃんは消耗した様子がない」


 ドットさんは一度言葉を切ると咳ばらい? をするように喉を唸らせる。そこで僕は手を上げて質問してみた。


「えっと……つまり魔力を消費していない、だからスキルって事ですか? なら一体どんなスキルなのですか?」


「いい質問だな少年! あえて名付けるなら”治癒分配”だな。他者の体力を誰かに与えるスキル。ほら、少年の怪我を治したら、アリシアの肩に傷ができただろ? 今だって少年を回復させたらアリシアの傷が酷くなった」


 ドットさんの説明にリリーさんは納得した様子で頷く。


「そして、少年は()()()()()()()()()()()()()()()()。以前そんなスキルを持つ人物がいた。そのスキル名は……」


「逆境……」


 アリシア師匠がドットさんの会話を引き継いで語る。逆境……その言葉が頭の中で何度も再生される。


「流石にもう疲れた。とりあえず村に帰ろうぜ!」


 その夜は村を襲っていた魔物が無事に討伐された事を祝って宴会が行われた。でもボクはとても喜べる気分にはなれなかった。

ご欄いただきありがとうございました!


逆境再登場、今後も鍵となるスキルとなっています! 


続きが読みたい、面白い! と思った方はブックマーク、高評価していだだけると泣いて喜びます(笑)


それでは6話でお待ちしています。20時15分頃に投稿予定です。タイトルは「リリーが仲間になった」です!

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前作の作品です。仮想の世界を舞台に、データーの世界に閉じ込められるお話です。無事にプレイヤーは元の世界に帰れるのか? そもそも誰がこんなゲームを作ったのか? 各章は30分ほどでサクッと読めます。イラスト&表紙付きです♪ 仮想からの脱出ゲーム
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