4話 師匠のスキル
「ようこそお越し下さいました。ワタクシはこのエルフの村の村長です」
村長と自己紹介したエルフの老人は、ボク達を見て律儀に頭を下げた。
村は質素な作りをしていて、1階建ての小さな家がポツポツと並んでいた。ボクの故郷とよく似ている。
「こちらこそよろしくお願いします。必ず村の脅威を払って退けます」
アリシア師匠が力強く拳を握ると、ドットさんも胸を張って「オレたちに任せろ!」と答えた。
「まぁ、そういうわけで早速、大猪の退治に向かいたい。場所はどこだ?」
鳥が村長さん相手に命令するの変な気がするけど、エルフの村長さんは特に嫌がる様子もなく簡単な地図を書いてくれた。
* * *
「クソ、一旦引くぞ!」
オレは後に控えているエルフの兵士たちに声をかけた。どいつを見ても傷だらけでまともに戦える奴は残っていない。このままだと全滅する!
「隊長! 大変です!」
「どうしたんだ?」
「囲まれています!」
「なんだと?」
慌てて辺りを見渡すと、草むらの影で何匹もの大猪が様子を伺っていた。どいつも禍々しい黒いオーラを纏っている。
「どう致しましょう?」
「………仕方ない、こうなったらオレが時間を稼ぐ! その隙にお前らは逃げろ!」
「ですが隊長、流石にこの数は!」
「いいから早く逃げろ!」
オレは剣を標的に向かって死ぬ覚悟で突っ走ると……
「”一刀粉砕”!」
突然、女性の声が森に響く。それと同時に目の前にいた猪が倒れた。
「加勢に来たよ!」
声がした方を振り返ると、銀色に光り輝く剣を持った女性が草むらから現れた。その背後には不安げな様子の少年と1羽の鳥。そしてリリーが横に立っていた。
* * *
「相変わらず手加減が下手クソだな、アリシア!」
「しょうがないでしょ? そういうスキルなんだから」
アリシア師匠とドットさんが猪を倒しながら口論を始めた。
「あの……師匠のスキルはなんですか?」
ボクがそう尋ねると、ドットさんがくるりと振り向いて説明してくれた。
「こいつの持っているスキルは無傷絶大。体力が残っていればいるほど力が湧いてくる。ほら、見てみろよ、めっちゃ元気そうだろ?」
「確かに……」
2人で会話をしていると、アリシア師匠も話に加わる。
「言ったでしょスキルは個性だって、個性に良い悪いはなくて使い方しだいだよ。ルークそっちに1匹いったから処理して」
「えっ、あっはい」
ボクは懐からお父さんの形見であるナイフを取り出して切り付けた。
「それにしてもきりがないな……少年、こいつらをまとめて焼き尽くすぞ!」
「そんな事言われてもどうやって?」
「オレのを真似てやればいいんだよ、くらえ”ファイヤーボール”」
「えっと……”ファイヤーボール”」
ドットさんの後に続けて呪文を唱えてみると、手のひらが熱くなってきた。さらに力を込めてみると小さな火の玉ができた!
「もっと魔力をこめるんだ!」
「魔力をこめる?」
「とにかく集中するんだ!」
言われた通りに手のひらに全神経を研ぎすませると、握り拳くらいの火の玉がさらに大きくなった。
「今だ! 放て!」
「はい!」
巨大な火の玉が猪たちに直撃して焼き尽くした。
「皆様、凄いです!」
ずっと後ろで見守っていたリリーさんが手をたたいてボク達に笑顔を見せる。
「ありがとうございます、助かりました」
傷ついたエルフの騎士がふらつく足取りでボクらの元にやって来た。
「どうするアリシア、これだけの怪我人がいるんだ。ポーションがいくらあっても足りない。一度村に戻るべきじゃないか?」
「そうだね……って、ルーク危ない!」
突然アリシア師匠がボクの体を突き飛ばした。本人は軽く押したのだろうけど、スキル無傷絶大のせいでタックルを受けたかのような衝撃だった。
「痛っ……何するんですか師匠!」
肩を摩り、文句を言おうとしたがその先が出てこない。巨大な木がバキバキと音を立てて今ボクがいた場所に倒れてきた。土煙に覆われてあたりはよく見えない。
「師匠! アリシア師匠! 無事ですか⁉︎」
土が目に入って痛い……ようやく砂埃が治まって辺りを見渡すと、大木の下にアリシア師匠が押しつぶされていた……
ご覧いただきありがとうございました!
アリシア師匠の無償絶大はとあるモンスターを狩るゲームのスキルを参考にしました。
続きが読みたい、面白い! と思った方はブックマーク、高評価していだだけると泣いて喜びます(笑)
それでは5話でお待ちしています。タイトルは「逆境と治癒分配」です!