3話 エルフ=美形
「ルーク、その子を連れて逃げて!」
「はい!」
目の前に立つ猪は、今にも突進して来そうな雰囲気がある。それに不気味な黒いオーラを纏っている。
「師匠! この禍々しい感じは……」
「凶暴化しているね、気をつけて!」
アリシア師匠は腰にさした剣を抜いて構える。
「分かりました。キミ、立てる?」
ボクは隣に座り込んでいる少女に手を差し伸べた。耳が長くて美形、多分エルフという種族だろう。金髪のポニーテールがよく似合ってる。
「はい、大丈夫です」
少女は白くて細い手でボクの手を掴むと、少しふらつきながら立ち上がった。
「こっちに村があるのでついて来て下さい!」
少女はボクを引っ張って森の奥へ走り出した。段差が激しくて走りにくい! 道なき道を進みを突き進んでいると後ろの方から甲高い金属音が聞こえてきた。
「村はまだ?」
「後もう少しで着きます!」
うっすらと木々の隙間から村らしき建物が見えてきた。あそこまで行けば一安心。でもその一瞬の油断が命取りだった……
ドゴン……
突然、誰かに肩を殴られたような衝撃が走り、そのまま地面に叩きつけられた。頭をぶつけたせいか視界がぼやける。なんとか視点を合わせると、もう一体の猪が立っていた……
* * *
「キミは早く逃げて!」
声を振り絞って叫ぶと、エルフの少女は一瞬迷う素振りを見せたが短く頷いて駆け出す。
猪はボクに興味を失ったのか、今度はエルフの少女に狙いを定めて一直線に走り出した。あれがスキル”猪突猛進”だろうか? このままだとあの子が危ない!
「そっちに行くな! “プラントバインド”!」
初めて食らったドットさんの魔法。なんとなく見よう見まねで試してみると、猪の足元からツタが生えて絡みついた。
(早く仕留めないと!)
とどめを刺そうと試みるが足止めで精一杯。逃さないように取り押さえていると近くにある草木がガサガサと揺れ動いた。まさかもう一体いるの⁉︎
「ルーク! 伏せて!」
「少年、後は任せろ!」
どうやら猪ではなく、現れたのはアリシア師匠とドットさんだった
「”一刀粉砕”!」
何やら決め台詞のような事を叫びながら猪に剣を振り下ろす。あんなに凶暴だった猪がたったの一撃で倒れた。
「凄い! その”一刀粉砕”って何ですか?」
「必殺技だよ!」
アリシア師匠は剣を鞘にしまうと、自慢げに話してくれた。でもそれって……
「技名を口で言う必要ありますか? 魔法の呪文みたいなものですか?」
「いや、全く関係ないよ。ただ言った方がかっこいいでしょ?」
何を当然の事を聞いてるの? っと言いたげな目でアリシア師匠がボクの事を見る。でも毎回技名を言うのはダサい気が……
「ところで少年、一体いつオレの魔法を覚えたんだ?」
ドットさんがボクの腕に止まって小首を傾げる。
「えっと……咄嗟の事だったので見よう見まねでやってみました」
「なんだそれ? そんな事あるのか?」
ドットさんは納得のいかない顔でぶつぶつと唸っているが……
「なるほど……やっぱりあの人の子だね」
アリシア師匠は深く頷いていた。
「師匠、何か言いましたか?」
「いや、なにも。そんな事より怪我はなかった?」
「えっと……大丈夫です」
「そんなはずないでしょ? ほらよく見せて!」
腕を掴まれて袖ををめくると、肩に酷いアザができていた。
「あの……助けていただきありがとうございました!」
エルフの少女はボクたちの前にやって来ると、ペコリと頭を下げる。
「初めまして、私の名前はアリシア、それと相棒のドット。よろしくね」
アリシア師匠は軽く自己紹介をするとボクに目で合図する。
「ルークです。よろしくお願いします。キミは?」
「リリーです! あの……怪我をされたのですか?」
心配そうな顔でリリーさんがボクの隣に寄って来た。
「ほら! ルーク、このポーションを……「結構です!」
アリシア師匠が懐からあの緑色の液体を取り出すのを見てボクは慌てて止めた。
「どうして嫌がるの?」
「まずいからです!」
「少年、子どもみたいなことを言ってないで早く飲みな」
「じゃあもう少しマシな味にして下さい!」
「慣れたら結構いけるよ?」
3人でポーションの味について討論していると……
「あの……あたしが治しましょうか? 一応、回復魔法が使えるので」
リリーさんが遠慮がちに手を上げた。
「いいのですか? お願いします!」
「ではいきますね!」
小さな手が優しくボクの肩に触れる。その瞬間、アザになって箇所が元通りになった。
「すごい魔法ですね! ありがとうございます」
ボクが回復魔法をほめていると……
「痛った!」
何故か今度はアリシア師匠の肩に傷ができていた。
「何が起きたの?」
「すみません! 多分あたしのせいです」
リリーさんが申し訳なさそうな顔でアリシア師匠に謝る。
「一体どういうことですか?」
「何故だかは分からないのですが、あたしが誰かを回復させると、近くにいる誰かの怪我が酷くなるみたいなんです……」
「師匠、原因は分かりますか?」
「う〜ん……聞いたことのない魔法だね。ドットは何か分かる?」
「そんな事言われてもな……でも使いようによってはうまく行くかもしれないな。だから落ち込む必要はないぜお嬢ちゃん!」
ドットさんが励ますように羽をばたつかせてリリーさんの肩に止まる。
「あの、どうして皆さまはこんな田舎の森にいたのですか?」
「ああ、凶暴化した大猪の討伐を任されてエルフの村に向かってる所だよ」
「そうだったのですか! わたしその村に住んでいるので案内します!」
リリーさんは元気よく立ち上がると村まで案内してくれた。そこはボクの故郷とよく似た小さな村だった。
ご覧いただきありがとうございました。
毎回必殺技を出す時に技名を叫びますが、あれって敵にこれから何をするか教えるような行為だから意味ない気がするんですよね〜
続きが読みたい、面白い! と思った方はブックマーク、高評価していだだけると泣いて喜びます(笑)
それでは4話でお待ちしています。21時15分頃に投稿予定です。タイトルは「師匠のスキル」です!