最終話 戦いの果て
「どこだここは?」
お父さんは辺りを見渡してボクに尋ねる。
「ここは間の空間。水晶玉で移動する際に誤って手を離すとここに来てしまう」
「それで、あの国王はどこにいるんだ?」
「どこにもいないよ」
「はぁ? どう言う事だ⁉︎ さっさとこんな所から出るぞ!」
「それは無理だよ」
ボクは水晶玉を床に落とした。丸い球体がガラスの破片に変わる。
「間の空間から出るには水晶玉が必要。でも見ての通り今、壊したからもう出られない。二度とね」
ボクは歩いてお父さんの元に近づいて笑みを浮かべた。
「お前! 逆境に乗っ取られたフリをしていやがったな!」
怒り狂った様子でお父さんがボクの胸ぐらを掴む。
「そうだよ」
お父さんはボクを振り落とすと忌々しそうに床を蹴る。
「ふざけるな! お前はあの国王が何をしたか分かっているのか? 母さんを見殺しにし、俺の逆境を発動させ、国民たちの命を優先したんだぞ? あいつだけは許せねー!」
黒いオーラがお父さんの体を包み込む。
「確かに王様がした事は許せない。でも……復讐しても何も解決しない。そんな事をしてもお母さんは帰ってこないよ!」
「うるさい!」
お父さんは一括しボクを睨む。その迫力に体が震える。でも引くわけにはいかない!
視線と視線がぶつかり合い空間全体に不穏な空気が立ち込める。そんな中、先に動いたのはお父さんだった。
「くそっ 役立たずめ!」
お父さんは剣を抜くとボクに向かって振り下ろす。とても避けきれない、でもどうせ逃げた所で出口はない。ボクはギュッと目を瞑って覚悟を決めた。
* * *
(おかしいな……痛くない。もしかしてボクはもう切られて死んでしまったのかな?)
「大丈夫? ルーク?」
何故かアリシア師匠の声がする。ついに幻聴まで聞こえてきた。
「ルーク! しっかりして!」
幻聴と思っていた声が今度は鮮明に聞こえて来た。恐る恐る目を開いてみると……
「どうしてここ⁉︎」
何故かアリシア師匠がお父さんの剣を受け止めていた。それだけじゃない。
「オレの事も忘れるなよ!」
「ルーク、助けに来たよ!」
空間の隙間からドットさんとリリーまで現れた。
「ドットさん! それにリリーまで⁉︎ どうやって来たの!」
(せっかくボク1人の犠牲でお父さんを止められると思ったのに!)
「王様の水晶玉を借りたんだよ。少年、もう少しマシな演技はできないのか?」
ドットさんが呆れた顔でボクの右肩に止まり、
「ルークを1人になんかさせないよ!」
リリーがボクの左肩に手を置く。
「ルーク、師匠よりも先に死んだら許さないからね!」
アリシア師匠は父さんの剣を押し返してボクの方を振り返る。
「3人増えた所で何も変わらない!」
お父さんが吐き捨てるようにそう口にするが……
「ならワシが来たら変わるじゃろうか?」
空間の隙間から聞き覚えのある声がした。まさか……⁉︎
驚いて声のする方を凝視していると、王様が光に包まれて現れた。
* * *
「ハウロスよ、本当にすまなかった」
突然、現れた王様が地面に頭をつけて土下座をする。いつもの貫禄のある厳しい雰囲気からはとても想像できない。
「そんな事をしても妻はもう帰ってこないだろ!」
お父さんは肩を震わせながら王様に剣を向ける。
「本当にすまなかった。この通りじゃ」
王様は地面に頭を擦り付けるようにただひたすら謝る。お父さんの握る剣が小刻みに震えていた。
「もう許してあげて」
ボクはそっと前に出てお父さんを真っ直ぐ見つめた。
「許す? 国王のことをか?」
お父さんはギロっと鋭い目でボクを見下ろす
「違うよ、許さないでいるお父さん自身の事をだよ!」
「俺自身のことだと?」
ボクの言葉が予想外だったのか、お父さんは真顔で聞き返す。
「いつまでも過去の出来事を恨み続けるなんて辛いだけだよ!」
ボクは一度言葉を切るとその先を続けた。
「もうお母さんは帰ってこない。王様がやった事は確かに酷い。だけどもう許してあげよ。いつまでも恨み続けている自分自身を許してあげてよ!」
息継ぐ間も無く言いたいことを一気に言ったせいで呼吸が苦しい。アリシア師匠が優しくボクの背中を撫ぜる。
「自分のために許すか……」
お父さんは剣を握った腕を下ろして、ボソッと呟く。
「できる事ならお前と母さんをもっと一緒に居させてやりたかった。あの頃のお前はまだ小さかったからなぁ……」
「心配しないで、ボクの側には仲間がいるから」
振り返るとアリシア師匠にドット、それからリリーが力強く頷く。
「仲間か……」
お父さんは一人一人の顔をよく見て頷く。
「あ、あの、初めましてリリーです。ルークの事は心配しないで下さい。あたしがちゃんと側にいます!」
こんな時でも律儀にリリーが自己紹介すると、お父さんがボクに近づき耳元で囁いた。
「ルーク、なかなかいい子じゃないか。流石俺の息子だ」
お父さんがボクの肩を軽く叩く。
「アリシア、お前も腕を上げたな。ルークを頼んだぞ」
「はい、ハウロス師匠!」
お父さんは静かに瞳を閉じて天を仰ぐ。最後にボクを力強く抱きしめると、やがて光の粒子に包まれ、静かに消えていった。
「ルーク……」
リリーが不安げな表情でボクの顔を覗く。
「大丈夫だよ……帰ろうか」
王様が持つ水晶玉に全員が手を差し伸べると、眩しいほどの光がボクらを包み込み込んだ。
* * *
「ったく、キリがねーな!」
オレは両手に持った剣を縦横無尽に振り回して、目につく魔物を倒し続けた。
「おい! あれを見ろ!」
兵士達が一斉に上を見上げる。つられて見ると空から光の粒子が降ってきた。その光は魔物を包み込んで溶け込む。
するとさっきまでの禍々しいオーラが消えてなくなり、魔物達は森に帰って行った。
「魔物達が逃げていくぞ!」
「我々の勝利だ!」
兵士達が歓声を上げる。
「ルーク達が何か上手くやったようだな」
オレは両手に持った剣を腰にしまって、負傷者の手当てに向かった。
翌日
無事に戦いが終わり、今日はボク達のために大広場で表彰式を行う事になった。兵士はもちろん多くの国民も集まっている。その中にニックさんの姿もあった。
「どうした少年、緊張してるのか? 顔がこわばっているぜ!」
ドットさんが肩に止まってボクの顔を突く。
「そんな事言われても」
「堂々とすればいいのよ、リリーちゃんもほら、緊張してないで笑って」
アリシア師匠がリリーの肩を軽く叩く。会場から拍手が送られ、王様がボク達の前にやって来た。
「アリシア、ドット、リリー、そしてルーク。お主らは此度の戦いにおいて優秀な働きを見せたためここに表彰する。見事であった」
「ありがとうございます、陛下!」
アリシア師匠は堂々とした表情でメダルを受け取り、ドットさんも首にかけてもらって誇らしげに胸を張っている。リリーは少し恥ずかしそうにしていた。ついにボクの番だ。
「ルーク、お主には本当に感謝している。国を救ってくれありがとう。それと……ハウロス、もう聞こえてはいないだろうがすまなかった」
「もう過ぎた事ですよ、王様」
胸に手を当てて一礼し、ボクはメダルを受け取った。広場から歓声が送られる。そんな晴々しい式を王宮の屋根から2人の魂が見学していた。
* * *
「頼もしくなったわね」
「ああ、そうだな」
2つの魂は淡い火の玉となってルークを見下ろす。
「あいつはすごい奴だ。逆境の力に飲み込まれず仲間を助けるために使った。本当に誇らしく思うよ。できる事ならもっと側で見ていたかったがなぁ……」
「心配いらないわ、だってルークは私と貴方の息子なのよ、だからきっと大丈夫!」
「確かにそうだな、ルークは俺たちの自慢の息子だからな!」
2つの魂は表彰式を見届けると儚く消えていった。
* * *
(今、誰かに見られていたような……)
ふと王宮の屋根を見上げたけど誰もいない。気のせいかな?
「ねぇ、ルーク! これからお祭りが始まるみたいだよ! 早く行こ」
「少年早く来いよ!」
「ルーク、早くしないとおいてくよ!」
リリーとドットさん。それらからアリシア師匠がボクに手招きをする。
「待って下さい! 今、行きます!」
ボクは軽い足取りでみんなの元に向かって走り出した。
─完─




