10話 レッドドラゴン戦
翌日
「それでは皆様、お気をつけて」
翌朝、まだ日が登りきっていないゴクエンの村は風が澄んでいて心地よい。村長さんをはじめとする村の人々がボク達を出迎えに来てくれた。
「それでは行って参ります」
アリシア師匠が手を振って応える。村を出て歩くこと数10分、山の麓までやって来た。改めて近くで見上げると迫力がある。
「これがゴクエン山ですか……」
早速登り始めたけど、これが結構大変。山登りをした事がないボクにとってはなおさらだ。
「ルーク、大丈夫?」
まだ余裕そうなリリーがボクに尋ねる
「うん、大丈夫……リリーこそ大丈夫?」
「あたしは大丈夫だよ。狩のお手伝いをした時によく山に登ったから」
「そっか……」
強がって大丈夫と答えたけど正直けっこう辛い。足場が悪く急斜面も続くせいで疲れる。それに……
「なぁ、少年、この暑さを何とかしてくれないか? 蒸し鶏になっちまうよ」
ドットさんが耳元でピーチクパーチク文句を言いながら突いてくる。日はすっかり登り容赦なくボクらを照りつけていた。
「よければこれを使ってください。”アイスボール”」
ボクは手のひらサイズの氷を作ってあげた。数分で溶けてしまうけど無いよりマシだ。
「サンキュー少年。ついでに何か食べ物はないか? 腹が減っては戦はできないって言うだろ?」
「えっと……昨日飴玉をもらいましたよ。よければどうぞ」
「マジか⁉︎ サンキュー!」
昨日村の少女から貰った飴を小袋から取り出して渡すと、ドットさんは器用に口バシを使って包みを外す。
「師匠も食べますか?」
「いいの? じゃあ頂こうかな!」
ボクたちは近くにある岩に座って小休憩を取ることにした。疲れた体に甘〜い飴は格別だ。この暑さで溶けたようで、歪な形をしてたけど味は問題ない。
だけどここはレッドドラゴンの住処。束の間の休憩は唐突に終わりを告げる……
「おい、あれを見ろよ!」
ドットさんが羽をバタつかせながら叫ぶ。慌てて見上げると、一斉にワイバーンの群が飛び立って行くのが見えた。まるで何かから逃げているみたいだ。
「何か来ますよ!」
リリーもボクらの一歩後ろの定位置について臨戦態勢をとる。
「残念だけど休憩は終わりだね。準備はいいかい?」
アリシア師匠は剣を抜いて腰を落とす。
「師匠、このドラゴンが今回のターゲットですか?」
「そうだよ、みんな油断はしないでね!」
ワイバーンが小鳥に見えるほど巨大で貫禄のあるドラゴンがボクらの前に降り立つ。
「グァァァァーーーー!!!!」
腹の底に響き咆哮で威嚇してくる。凶暴化しているせいか全身が赤黒い。今までにない緊張感が辺りを支配する……
* * *
「ルーク、気をつけて、これは結構な大物だよ!」
アリシア師匠が珍しく緊張した顔で剣を構える。
とりあえず、ボクは右手に集中して「”ファイヤーボール!”」っと唱えた。火の玉がドラゴンの顔面にヒットしたけど効いてなさそう……
「少年、ドラゴン相手に火はないだろ? 氷で攻めるのが定石だろ?」
ドットさんが氷の粒を飛ばす。1発は当たったけど残りは外れた。敵も警戒しているようでそう簡単には当たらない。
「ドットさん、奴の動きを止められますか?」
「やってみるぜ! ”プラントバインド”!」
レッドドラゴンめがけて草のツタが空に伸びる。そこまでは良かったが、これも避けられてしまった。
「みんな、何か来るよ!」
アリシア師匠の警告と同時に巨大な火の玉が飛んで来た。
「ヤベェーな、おい逃げるぞ、あんなのに当たったら焼き鳥になっちまう!」
ギリギリ避ける事はできたけど、あたりは火の海で囲まれる。逃げ道はない。さらに体が焦げるほどの熱風でジリジリと体力を奪われていく。早く蹴りをつけないと!
「師匠! 無傷絶大の具合はどうですか?」
「残念ながらベストとは言えないね……周りの熱風によるダメージが原因かな?」
「分かりました。作戦があります、よく聞いてください」
ボクは火の玉を避けながら要点だけを伝えた。灼熱の炎が少しずつ近づいてくる。
「みなさん、いいですか?」
「もちろん」
「任せろ少年」
「あたし頑張るねルーク!」
「では行きます! “ウォーターボール”!」
ボクが放った水の魔法が火の玉と相殺されて水蒸気が発生した。あたりは曇って視界が悪くなる。
「ドットさん!」
「いくぞ! “プラントバインド”! 今度は絶対に取り逃さないからな!」
地面から伸びたツタが今度はレッドドラゴンの翼に絡まって地面に墜落する。
「リリー!」
「任せて! スキル”治癒分配”!」
ボクの体力が師匠に流される。これで熱風によるダメージを補えるはず。
「いいね、力が湧いてきた! “一刀粉砕”!」
アリシア師匠の渾身の一撃がレッドドラゴンに放たれる。これでおしまい……っと全員が思ったが……
カーーーーン
ドス黒いオーラによって剣が弾かれて折れてしまった。
「嘘でしょ?」
アリシア師匠が動揺した様子で折れた剣を見つめる。
「どうするんだ少年? あたり一面は火の海! 逃げ道はどこにもねぇ……」
ドットさんがボクの肩に止まって早口に喋る。
「道が無いなら作るまでです。”ウォーターボール”!」
ボクとドットさんは水の呪文を唱え続けた。だけど火が弱まる気配はない。もっと大量の水を出そうと力を込めるが……
「あれ? 出ない……どうして?」
「残念ながら魔力切れのようだな少年」
「そんな……」
ジリジリとレッドドラゴンが近づいてくる。何か、何かこの状況を打破する方法は……
「そうだ! 水晶玉を使いませんか? あれを使えば一瞬で王室に戻れるはず!」
ボクは王様からもらった水晶玉を取り出した。でも何も反応しない。どうして?
「そいつを起動するにはそれ相応の魔力がいる。だけど今の俺達にはもう魔力が残っていない」
「そんな……」
2人で顔を見合わせて絶望していると、アリシア師匠がボクらの前に出て折れた剣をレッドドラゴンに向ける。
「私が時間を稼ぐ。ルークとドットは休んで魔力を回復させておいて!」
「それではアリシアさんが危険です!」
後ろでボクらの戦いを見守っていたリリーが止めに入るが……
「私は大丈夫さ」
アリシア師匠は優しく笑みを浮かべる。なんだろうすごく嫌な予感がする。このまま師匠を1人で行かせたらいけない!
必死に考えているけど何も思いつかない。その間も火は広がっていく。一体どうしたら……
[よう、また随分とピンチだな]
頭の中からあの忌々しい逆境の声が聞こえて来た。
(なんのようだ、今忙しいんだ!)
[知ってるさ、だから来てやったんだ。また俺の力に頼りな]
(嫌だよ!)
[そうか、まぁ、別に俺は構わないぜ、でもこのままだと全滅も時間の問題だな。早くしねーと全員焼け死ぬぞ]
(………)
[さぁ、早く決めな、]
(………)
確かに逆境が言う通り、このままだと全滅する。だけど、こいつの力を借りたらまた暴走するかもしれない……
火の海は今にもボクらを飲み込もうとする勢いだ。こうなったら一か八か!
(………分かったよ。お前の力を貸してくれ)
俺は懐にしまったナイフを取り出すと軽く弄んでドラゴンを睨みつけた。
ご覧いただきありがとうございました。
やっぱりファイヤーと言って氷を出した方が意表が付けて有効だと思うんですよね〜
続きが読みたい、面白い! と思った方はブックマーク、高評価していだだけると泣いて喜びます(笑)
それでは11話でお待ちしています。19時10分頃に投稿予定です。タイトルは「夢か……」です!




