1話 クソまずいポーション
プロローグ
目の前に広がる炎の海。次々と家が崩れていく。誰がこんな事をしたのだろう?
足元に誰かが倒れている。中には幼馴染だった子もいる。誰がこんな事をしたのだろう?
すぐ近くから魔物の不気味な遠吠えが聞こえてきた。暗闇に潜む影がこちらを伺うように目を光らせている。
朦朧とする意識の中ぼんやりと見ていたら、突然その影がボクに向かって襲って来た。
「痛った‼︎」
右腕を噛まれて血が噴き出す。あまりの痛さに意識が戻ってきた。そうだ思い出した。全部こいつらのせいだ!
突然やって来てボクの家族と村を奪っていったんだ! 許せない!
今度はさっきよりも大きい影が襲いかかって来た。憎い……こいつらが憎い!
[だったら力を貸してやるよ]
(えっ?)
[こいつらを殺す力、逆境さ。存分に使うといい]
頭の中に直接、声が聞こえる。負傷した右腕は痛いけど体の底から力が湧いてきた。
俺は父の形見でもあるナイフを抜いてその影に突き刺してみた。影は悶絶し体をよじる。これを合図に、様子見をしていた影達が一斉に襲いかかって来た。
次から次へと飛びかかって来る影を相手に。俺はナイフを振り続けた。一体どれくらい経ったのだろう?
心も体もズタボロになりながら、ただ必死に戦いを続けた。夜の村がドス黒い血で染まって行く……
重要キャラクター紹介
ルーク
おとなしい性格。でも凶変することがある
リリー
優しくて真面目なエルフの少女
アリシア
ルークの師匠的な存在。
ドット
鳥の妖精。アリシアの相棒。
ドルマン
ドルマン王国の王様
* * *
「これは酷い有様だな、鳥肌が立つよ。鳥だけにな!」
私の肩に止まっている相棒のドットが羽をすくめて冗談を言う。
見た目は普通の小鳥で、赤色のほっぺたがチャームポイント。でも触ろうとすると口ばしで指を突かれる。
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ? 早く原因を調べないと!」
早速、私は辺りを注意深く観察してみた。村は完全に壊滅しており、地面は赤く染まっている。
それとは対照的に周りは木が生い茂り、川の流れる音がする。こうして見ると穏やかな自然の中に壊滅した村が紛れ込んでいるのは不自然に見える。
「おいアリシア、あそこに立っているのって人じゃないか?」
「えっ? あっ本当だ!」
ドットが口ばしで指し示す方を見てみると、少年? らしき人物がフラフラと歩いていた。
「ねぇ、そこの君!」
「……………」
手を振って呼び止めたけど返事がない。その代わりに……
「あれ? 笑った?」
少年は私達のことを見ると不気味な笑みを浮かべた。
手には真っ赤に染まったナイフを握り、体も返り血で染まっている。頭の中で警告音が鳴り響く。
「アリシア、嫌な予感がする。トリあえず離れよう……」
ドットも何か感じ取ったのか、口ばしで私の耳を引っ張る。痛いからやめてくれないかな?
「残念だけど無理みたいだね」
私は剣を抜いて腰を落とした。少年はゆっくりと近づいてくる。
「待てよ、ここはただの旅人をとり繕って逃げないか?」
「援護してほしい、私がなんとかする!」
「聞いてないし……分かったよ」
ドットはお喋りを止めると私の肩から飛びたった。それとほぼ同時に少年が私に向かってナイフを振り下ろす。
「っ……!!」
子供とは思えない一撃だ。なんとか受け止めたけど地面に膝が着く。
「ドット、今だよ!」
「分かってるって、”プラントバインド”!」
ドットが唱えた魔法が発動して、地面からツタが生えてきた。少年の足に巻きついて動きを止める。体勢を整える余裕はできたけど……
「だめだアリシア、こいつ強え!」
少年はツタを切り落として再び襲いかかって来た。仕方ない……私は剣を鞘にしまい浅く息を吐いた。
「アリシア、子供相手にそれは!」
「大丈夫、手加減はする。”一刀粉砕”!」
目にも止まらぬ速さで相手をぶった斬る。ただそれだけの技。もちろん手加減はしたつもりだけど少年は後方に吹き飛ばされる。
「やばい! また手加減できなかった!」
「だからやめとけって言っただろ!」
ドットが少年の近くまで飛んで顔を突いているけど起きる気配がない。
「どうするんだ?」
「とりあえずここに寝かせているのもまずいし一度王宮に帰るよ。ドット、その子の体を洗ってあげて」
「しょうがないな」
ドットは水の魔法を唱えて少年の返り血を洗い始めた。ここは任せればいいとして、どこか近くに馬車が走っていないかな……
* * *
「ここは……」
ほっぺたにやわらかい感触が伝わる。スベスベしていて寝心地がいい。
もう少し辺りを見渡そうと体を動かしたら背中に激痛が走り思わず顔を顰める。
「気がついたようだね」
すぐ近くから若い女性の声が聞こえてきた。周りを見てみると、そこは馬車の中だという事が分かった。少し太ったおじさんが馬の手綱を握っている。
それともう1つ、ボクは今知らない女性の膝枕で寝ている事も分かった。
「うわ! すみません!」
急いで飛び起きたら天井に頭をぶつけた。じんじんと痛む……
「大丈夫? まだ寝てていいよ」
女性が心配そうにボクの頭を撫でる。歳は20歳くらいかな? 鎧を纏い腰に剣をさしている。肩まで伸びた茶色い髪と澄んだ青い瞳が特徴的だ。それと何故か肩には鳥が止まっていた。
「あの……ボクは今まで何をしていたのですか?」
「覚えていないの? 君はあの村で生き残った唯一の生存者なんだよ」
鎧を着た女性が親切に教えてくれた。唯一の生存者……そうだ思い出した。ボクの村は突然現れた魔物によって壊滅したんだ……
「もう村のみんなには会えないって事ですか?」
「残念だけどそうなるね」
恐る恐る尋ねてみると、残酷な返事が返ってきた。もう村のみんなには会えない……とても信じられない……
「村の事はとても気の毒だと思う。だけど安心して! 今向かっているドルマン王国に着けばきっと王様が助けてくれるよ!」
女性がボクを元気付けるように明るい声で説明すると、
「でもその前にほら、これを飲んで!」
今度はそう言って謎の緑色の液体を取り出した。
「なんですかこれは?」
「ポーションだよ。ほら早く飲んで」
(早く飲んでと言われても……どう見ても飲んじゃいけない色をしている)
「えっと……どうして飲むのですか? 傷口に塗るんじゃないのですか?」
「確かに言われてみればそうだね……ドットどうしてなの?」
女性が肩に乗っている鳥に話しかけると、突然「さぁ? そういうものだろ?」っと返事が返ってきた。えっ? 鳥が喋っている?
「あの……どうして鳥が喋れるのですか?」
「そんな事はいいから早く飲みな少年。それと鳥じゃなくてドットだ」
ドットと名乗った小鳥が羽をバタづかせて文句を言う。
「それじゃあ……頂きます」
2人……じゃなくて1人と1羽に進められ意を決して飲んでみた。薬草をすりつぶした青臭さとドロッとした舌触り。控えめに言ってまずい。二度と飲みたくない味だ。
「もう少し美味しい味にできないのですか?」
「そう言われてもね……これ結構高い薬なんだよ? でも嫌なら魔法で治してもらったら? ドットできるでしょ?」
「できるけど少年の返り血を洗うのに魔力を使いすぎた。今はそれで我慢してくれ」
そう言ってドットさんは体に顔を埋めて居眠りを始めてしまった。
「だってさ、ごめんね。そういえば自己紹介がまだだったね。私の名前はアリシア。君の名前は? 年はいくつ? ご両親は?」
「えっと……ルークです。年は12歳。両親はいません……あの……魔法って何ですか?」
さっきドットさんが言っていた魔法というものが気になる。何となく疑問に思った事を口にすると……
「少年、魔法に興味があるのか⁉︎」
パッと顔を起こして、ドットさんがボクの前まで飛んできた。
「いいか少年、魔法というのは魔力という力を使って様々な現象を引き起こすロマン溢れるものなのさ!」
羽毛で覆われた胸を張ってドットさんが自慢げに語る。
「あの、魔力って何ですか?」
「そう言われると難しいな……イメージで言うと集中力みたいなものだな。体力とは違ってなくなっても死ぬことはない。だけど、枯渇すると頭がボーっとする。機嫌が悪い奴がいたら多分そいつは魔力切れさ」
「なるほど……面白いですね」
「そうだろ? そして一番重要なのが呪文さ!」
「呪文?」
新しい単語に頭を捻っていると、アリシアさんがボクの顔を覗き込む。
「ドットがルークの足元に植物を生やして拘束したでしょ? あの時何か呟いていなかった?」
「えっと……」
(よく思い出せないな……言われてみれば何か言っていたような……)
「魔法を使うには呪文を覚える必要がある例えばそうだな……”ファイアー”!」
ドットさんはそう呟くと口から小さな火が出てきた。アッツ!
「他にも水とかも出せるぜ!」
今度は口から水が出てきた。そういえばさっきボクの体を洗い流したとか言ってたな……まさか口から出した水で洗ったの?
「あの、素朴な質問なのですが、ファイアーって言いながら水を出すことはできますか? そのほうが相手の意表をつけると思うのですが……」
ふと気になって聞いてみたら、隣にいたアリシアさんが驚いた表情で頷いた。
「なかなか面白いことを言うね。ドットできるの?」
「無茶言うなよ! そんな器用なことはできるわけないだろ? 少年、右手で四角を描きながら左手で三角は書けるか?」
ドットさんが呆れた顔でため息をつく。試しにやってみたけど難しい……でも慣れたらできるような……
「お客さん、そろそろ着きますよ」
3人? で色々話していると、少し太ったおじさんがボク達の方をチラッと振り向いた。
「ほら、見えてきたよ!」
窓から顔を出して覗いてみると、大きな城門が見えてきた。鎧を着た兵士たちが見張りをしている。中の様子は分からないけど、賑やかな人々の声が聞こえてきた。
「着きましたよお客さん」
おじさんは手綱を引いて馬を止める。ボクは軽く荷物をまとめ……とは言っても形見のナイフがポケットに入っている事を確認して馬車を降りた。
* * *
「ようこそドルマン王国へ!」
アリシアさんがボクの肩をポンッと叩いて王国を指差す。
そこは住んでいた村の10倍……では足りない広さの街が広がっていた。道ゆく人たちはみんな楽しそうで活気がある。
「どうだい? すごいだろ少年!」
何故かドットさんが自慢げに胸を張っている。
「早速、王様のいる城に行くよ!」
アリシアさんは門番の人に軽く挨拶を交わすと、ボクの手を握って街並みを進んで行く。恥ずかしいからそれとなく離そうとしたら余計に強く握られた。ちょっと痛い……
しばらく歩いていると前方にお城が現れた。近づいて行くにつれその全体像が見えてくる。
白を基調とした綺麗なお城。それが第一印象だった。思わず見惚れてしまい見上げていたら首が痛くなってきた。
「早く行こうぜ、報告が遅れるとまた叱られる」
ドットさんに急かされてボク達はお城の門を潜った。廊下を進むと何人かの兵士さんとすれ違った。なぜかアリシアさんを見かけると敬礼をしている。もしかして偉い人なのかな?
「あの……ドルマン王はどんな方なのですか?」
ボクがそう尋ねると、アリシアさんはしばらく考えてから話し始めた。
「う〜ん……そうだね……やたらと責任感が強くて国民を守る事を第一優先している。あと弓の達人だね。どんなに離れていても標的を一発で仕留める腕の持ち主だよ」
「なるほど……」
(責任感が強くて弓の達人。何だか凄そう。ドルマン王な確かに頼れるかも!)
一体どんな王様なのか想像しながら廊下を進んでいたら、大きな扉の前まで来ていた。
「ドット、扉をあけて」
「あいよ」
ドットさんが口ばしで扉をコンコンっと叩くと、中から低い声で「入ってよい」と返事が返ってきた。今のがドルマン王の声かな? ゆっくりと大きな扉が開いていく。
「ただいま戻りました。ドルマン国王陛下」
アリシアさんに続いて中に入ると、いかにも王様らしき人物が少し高い場所に置かれた玉座に座っていた。
頭には王冠を被り、髪の色と同じ白い鬚をはやしている。鋭く獲物を見るような目でボク達を見下ろしているせいか少し怖い。
「ご苦労だったアリシア。それで、隣にいるその少年は?」
あの鋭い目で見られ体がビクッと震える。自己紹介をしようとしてもうまく言葉が出てこない……
「そう怯えることはない、ワシはこの国の国王、ドルマンじゃ、お主の名前は?」
「えっと……ルークです」
勇気を振り絞って自分の名前を言うと、一瞬ドルマン王が驚いたような……気がした。
「そうか、ルークというのか……アリシア、報告の続きをしてもらおうか」
アリシアさんは短く返事をすると報告を始めた。
2人の会話を簡単にまとめると、最近、凶暴な魔物が各地で出没しているらしい。
そこで、凶暴化した原因を突き止めるためにアリシアさんが各地を回って調査をしているようだ。
「ご苦労だった。してルーク、お主の望みはなんだ?」
「望みですか?」
「そうだ、生きていくために必要な食事と仕事が欲しければそれを与える事もできる。お主の望みを聞かせてくれ」
食事と仕事……これから生きていくためにはなくてはならない。でも……‼︎
「ボクは……ボクの村で起きた悲劇をもう二度と起こしたくないです! 魔物に襲われて村を無くす人はもう見たくない。それが望みです!」
震える体に力を込めて、ボクはそう強く宣言した。自分だけ平和に暮らすなんて考えられない。村の人たちの死は無駄にしたくない!
「よく言った少年! なかなか男前じゃないか!」
ドットさんがボクの方を向いてバサバサと羽を擦る。あれは拍手のつもりかな?
「そうと決まったら今日から私がルークの師匠だよ。みっちり戦い方を教えてあげるからね!」
師匠……試しに「アリシア師匠!」と呼んでみたら、満足そうに頷いて強く抱きしめられた。苦しい……
「では明日の朝、エルフの村に行ってもらう。そこに凶暴化した大猪が出現したそうだ。アリシアはここに残るように。誰かルークとドットを部屋まで案内しなさい」
ドットさんがパタパタと飛んでボクの肩に止まる。ボク達は兵士に案内されて部屋に向かった。廊下は広いし部屋もたくさんある。迷子になりそうだなぁ……
* * *
「アリシア……お主はあの少年が誰の子か分かっておるな?」
陛下は王室に誰もいない事を確かめるとそう切り出してきた。
「はい……もちろん」
「では話が早い。10年前にドルマン王国で争いが起きた。その時に敵味方関係なく暴れた男がいた。そいつの名前はハウロス。そして、そいつの息子の名は……」
「ルーク……」
私は国王の話を遮るようにその名を呟いた。
「あの男の息子なら少しは使えるかもしれん。凶暴化した魔物を食い止めるには1人でも大勢の戦士が必要不可欠じゃ」
国王は鋭い目をより一層細めて私を見下ろす。
「ただし、急に暴れ出して被害が出るようなら殺してでも止めろ。これは命令じゃ!」
「………」
殺してでも止める……その言葉は深く胸に突き刺さる。
「明日は早朝にエルフの村に向かうのでこれで失礼します」
私は話を無理やり切り上げて王室を後にした。
ご覧いただきありがとうございました。今後も作者の独断と偏見による魔法の仕組みについて書いてく予定です。
お馴染みの緑色の回復薬、あれ苦そうですね。もう少し美味しくすればいいのになぁ〜 と思います。
続きが読みたい、面白い! と思った方はブックマーク、高評価していだだけると泣いて喜びます(笑)
それでは2話の方でお待ちしています。タイトルは「スキルと魔法の違い」です。ご期待下さい♪