出自
今回も聖女様の出自についてです。少し大きな設定ですが、えらいポジションにしました。そして、周囲の仲間の進める方向とは違った方向へ、本人の意思で進んでいく感じになっています。
ナームは、要領良く指導を行なって行く。
使用出来る魔法属性が多いので、それでもかなりの手間がかかるのだ。
メルティアは寧ろ生活魔法を教えて欲しかったのだが、後回しにされていた。
何なら自分で覚えろと言われそうだ。
とは言え、何故か各属性魔法については、異常な程覚えが早く一度見せただけでも使えてしまうのだ。
「メルちゃんは、記憶が無いって言ってたけど、多分貴方は今教えた魔法は、以前使った事のある魔法だね。」
「はい・・・何か初めてじゃない感じします。」
「第一王子の調査が、気になりますね。」
僅か一か月で、ナームの使う固有魔法以外は、全てマスターしてしまった。
そして、秘密が明らかになる日が来た。
第一王子がやって来たのだ。
「大変な、事が分かったよ。まずはメルティア嬢の出自だけど、アンブロシア聖教国の教皇の娘さんだったよ。」
「・・・そ、それなら何故私は、殺されそうにならなきゃいけなかったの?」
第一王子は、難しい顔をして続ける。
「しかも、とんでもない事が分かったんだ。教皇や、その妻となる女性たちも、全て魔法特性の高い遺伝子を持つ人間を、何世代もかけて掛け合わせて来た、魔法強化人種だったんだ。」
ランスは驚き、メルティアの顔を心配そうに見つめているが、ナームは納得した様子である。
「なんて事だ、考えたくは無いが、目的はなんだ?」
「勿論、世界の覇権を得る為と考えるのが普通だろうな。」
第一王子は、少しだけ目を細めて、メルティアを見つめる。
「近親交配や色々失敗も多くて、かなりの奇形児や、生まれて直ぐに死んで行った血縁者も多かった。大変だったらしい。」
メルティアは、顔を青ざめさせて俯く。
「わ、私は・・・」
「そう、君は魔法強化種の数少ない成功者・・・しかも、突然変異種という事だった。アンブロシア最強の魔女だ。」
第一王子は、メルティアの傍に、座り直して話しかける。
「メルティア嬢、私に君を守ってやれる力はないかもしれない。でも、君を絶対に、最後まで1人にしないと誓うよ。私と一緒に、来てくれないかな?」
メルティアは、涙を流しながら呟く。
「私には、普通に暮らしていける選択肢は無いのね。」
「メルティア嬢、アンブロシアに於いて君は・・・君の心は、あまりに清廉すぎた。君は、教皇と意見が合わずに、反旗を翻してしまった。かなりの戦場になったらしい、君の率いた魔法師団は壊滅、アンブロシア側も、相当な被害が出たようだ。過去に例の無い大魔法戦だったらしい。その際、教皇は君を亡き者にする様に、命を下したと聞いている。」
「あぁ聞かなきゃよかったかな・・・でも、結果は一緒なんだよね。」
賢者ナームは、これから起きる狂気の戦乱を想像していた。
「これから、私はこの国をまとめて、対策を立てねばならない。ただし、メルティア嬢が協力してくれないと、降伏するしかないんだよ。」
「すみません。少し考えさせてください。」
メルティアには、選択肢は無いのである。たとえ、自分がアンブロシアに、投降しても戦争は、回避出来そうも無いのだ。
「レガル?話があるんだけど・・・」
メルティアは、薄い部屋着のままレガルの部屋に入る
「どうした?いや、遅かったな?決まったんだろ⁉︎王子様の所に行くのか?」
「アンブロシアに行く。1人で。」
「おい、それじゃ死にに行く様なものだろう。それだけはだめだ。」
「ありがとう。でも考えがあるんだ。生き残っている仲間を助けて、戦力にするの。」
「無理だろう、もう殺されてるって。」
「少しだけ憶えてるんだ。大切な仲間だったんだ。諦める訳にはいかないんだ。」
「・・・わかった。でもかならず帰ってこいよ。」
「うん。ありがとう。」
旅立ちは、直ぐに訪れた。
身体の線を強調する黒のサイドストライプの入った青い魔法着に白い外套を着た旅姿だ。
容量の大きな空間収納には食糧、ポーションや雑貨、野営の出来る準備一式をいれた。
国境の関門を越える為の身分証明書は、ギルドで作り直したものだ。
お金はレガルが、以前預けた金貨を全て持たせてくれた。
朝一番の乗り合い馬車に乗ると、顔が見えない様に、束の大きな魔法師用の帽子を深く被り寝たふりをする。昼には関門に到着、あっさりと通過する。夕方には、最初の町である『ロゼル』に到着した。
町は半分以上が壊滅的な被害を受けており、自分が関わった内戦の傷跡であるが、実感が無いのだ。本日泊まる宿は直ぐに決まり、情報収集を兼ねて食堂のカウンターに腰掛けた。
「宿泊の者だけど、食事をいただけますか?」
「お嬢さん一人かい?ここは、酒場にもなってるから気をつけておくれよ。」
「はい、ありがとうございます。」
帽子を取ると、その長く綺麗な銀色の髪に、大きなサファイアの様な瞳、幼さの残る可愛らしい容姿が露わになる。何処からともなくどよめきや、歓声が聞こえてくる。注目されていたのだ。
「お嬢さん何処から来たんだい?この辺で見かけない顔だね。」
「はい、ディオラス王国シーライオスから来ました。人を探しにきたんです。」
「少し前に、大変な魔法師団同士の内戦があってね、やっと街も落ち着いたところなんだよ。」
「はい、実は巻き込まれた魔道士に、兄がおりまして、探しているんです。何か情報ありませんか?」
「どちら側の魔道士だったんだい?」
「反乱側だったらしいんです。」
「あー、皇女様側の魔道士だったんだね。皇女様は、とても優しくてお綺麗な方でどうして反乱なんか起こしたのか、わからないんだよね。」
酒場の女将は、メルティアの顔をまじまじとみて一言呟く。
「あんた、皇女様に似てるね・・・」
「冗談はやめてください。」
帽子で顔半分顔を隠して誤魔化した。
「何処にいるのか、情報はありませんか?」
「東の砦に、監禁されてるみたいだけどきっと会うのは難しいだろうね。」
有用な情報が手に入った。
ご意見などありましたらよろしくお願いいたします。