病床
今回はお疲れの、聖女様と罪悪感を背負うシェスターのお話で、細々とした感じです。
夜会の翌日、メルティアはベッドから起き上がれなかった。
もちろん、病気というわけではないが、シェスターとの営みによる影響で、体力的に動ける状態ではなかったというのが正直なところだ。
シェスターは洗浄・乾燥・浄化などの生活魔法で現状を隠ぺいするが、メイドはごまかせない。
「シェスター様!あまりメルティア様を乱暴に扱うと嫌われますよ!」メルティアの看病に当たるメイドから指摘を受ける始末である。
メルティアの身体には、全身に無数の皮下出血、顔にも右の口角部分に明らかなキスマークが残っており、内出血には回復魔法が効きにくいので、隠しようもなかったのである。
ましてや、メルティアもまともに立って歩けない状況であるため、本日は城内の自室で一日休むことにしていた。
シェスターもメルティアの部屋につきっきりで様子を見ていた。
一晩中かなりの無理をさせたので、下腹部痛と高熱が出て改善しないのだ。ぐったりとしているメルティアを横で見守るしかできることはなかったのだ。
「大丈夫、心配しないで。今日一日眠れば、もう大丈夫だから、シェスも少し休んでよ。」メルティアは優しい。
「何か食べられそうな物ってある?」
「そうね、氷菓なら食べられるかも・・・」
「わかった。少し出てくるよ。」
「・・・別に、シェスが近くにいてくれた方がいいんだけどな・・・」
シェスはにっこり笑うと、「すぐに戻るからね。」と声をかけた。
メイドに近くの氷菓を売っている店を聞くと、外出した。
そこは城下町の中心部にある、菓子の専門店でジェラートや氷菓を多く扱っている店であった。店はとてもおしゃれで、女性が多く出入りしている。
シェスターが入店するや否や、彼女たちの歓声やどよめきが聴こえる。
「だ、だれ?あの王子さまは・・・」
口々に令嬢達はシェスターを評する。
カウンターでフルーツの氷菓を購入すると、時間停止効果付きの空間収納に入れると、振り返る。
すると、すでに帰り道は女性達に塞がれていた。
「あの、どちらの貴族様ですか?もしよろしければご一緒させていただけませんか?」
綺麗な令嬢が声をかけてくる。
困ったシェスターは、「皆さん、病床の妻に氷菓を買いに来ただけですので、失礼しますね。」と言い放つ。
何とか空間転移で雑踏を抜け出すことに成功したのだった。
町を歩きながら、城に向かっている途中、宝飾店に足が止まる・・・ショウウィンドウに飾ってある宝飾に目が奪われ思わず店に入る。
リーフ型で巧妙な細工が施されたピンクゴールドのブローチで、大きなピンクダイヤモンドを数個あしらった高級そうな宝飾である。
どうやら魔法付与もできるらしい。メルティアが良く着ている白い魔法着に似合いそうだ。白金貨1枚・・・非常に高価なブローチであったが、購入してしまった。
なんとなく、良いものを見つけて少し元気になった気がする。さて、何の魔法を付与しようか?楽しみに城への帰路に就くのだった。
帰り道、訓練中の王城の騎士に声がかけられる。
「あんた、今王城に滞在している賢者様だね。どうだい、俺たちと少し剣の手合わせをしていかないか?俺の女に手を出した賢者様がどれだけの腕前か見せてもらいたいんだが・・・」
どうも、昨日夜会でシェスターに群がった令嬢の一人が彼の彼女だったらしい。恨みを買ってしまったのだ。勝負をしない限りどうも返してくれる雰囲気ではない。
「勝ったら開放してくださいね。」
シェスターは確認して、練習場に向かう。武器はレイピアがおいていないので、シェスターとしては珍しいロングソードでの手合わせになった。
本来シェスターは、レイピア2本による双
剣使いである。少し重めのロングソードを使う事についてはハンデと考えていた。
試合は始まった。相手はラングレイとう若い腕の立つ上級騎士で、腕はかなり立つ方だ。
《カン キィン カキキィ》
剣を数合交わすが、シェスターは相手の力量を理解したようで、少しだけ本気になる。
「賢者様、なるほどいい腕してますね。これだけ俺と打ち合える戦士はなかなかいないですよ。」
大きく振りかぶる剣劇は隙がありそうでないのである。
「うん、君は確かにひとかどの戦士のようだ、僕も本気で行くね。」
シェスターはスッと少し腰を沈めると、残像を残して相手に何もさせずに胴を薙ぎ払う。
「ぐはっつ」
ラングレイは膝をつく。
「何をした。姿が見えなかった・・・」
「少し溜を作って胴を薙ぎ払っただけですよ。今回は私の勝ちで良いですね。それでは失礼!」
シェスターは練習場を出て、城に戻っていく。早く戻る約束であるが、少し寄り道をしてしまった。
「ただいま、少し時間がかかってごめん。」
メルティアは眠っていた。
シェスターは、メルティアの寝顔を見つめながら、さらさらとした髪の毛を指で梳いて感触を確認している。
「昨日はごめんね。君が僕を必要としてくれてる以上に自分の方がメルを必要としているのが良く分かったよ。」
メルティアの手を握ると、独り言を続ける。
「君が居なくなったら、僕はもう生きていけない。本当にメルは僕で良いのかな?」
「・・・いいよ、私はシェスがいいんだ。他じゃ代わりにならないよ。」
メルティアはゆっくり目を開ける。
「起こしてごめんね。買ってきたけど氷菓食べる?」
「うん!もらうね。」フルーツの氷菓を手渡す。
「起きてたの?」
「今起きた。シェスがまた変な事言ってるから起きちゃったよ。」
「いつも恥ずかしい所見せてるね。」
「いつもかっこよすぎるから、たまにはいいとよ思うよ。」
ベッドの上に座ると氷菓を食べばがら、話を続ける。
「シェスがそんなに私に依存してくれるなんて嬉しいな・・・私だけ迷惑をかけてるのかと思った。昨日も辛かったけど、シェスが居なくなるよりは、いじめられてた方がましだから我慢したんだよ。」
「ごめん、僕は、昨日はメルが他人の者になってしまうくらいなら、壊してしまおうと・・・そう思ったんだ。」
「いいよ、壊しても・・・もともと貴方のものなんだから。」
「ありがとう・・・」
シェスターはメルティアを抱きしめた。
よろしくお願いいたします。