後遺症
今回は覚醒後の反動で性格ごと変ってしまった聖女様が、一人の男性に支えられ、旅立っていく決心をつけるお話です。ご閲覧お願いいたします。
メルティアは、シーライオスに帰還した。
しかし、戻ったメルティアは別人の様になって帰ってきた。
一部の人間以外とは、ほとんど会話しなくなってしまった。
研究所で受けた仕打ちがトラウマになってしまったのだ。
逆に、一部の人間・・・と言うよりは、シェスターにべったりになってしまった。
笑顔もシェスターや従者の2人以外には、見せなくなってしまった。
本来評価すべき変化としては、ステータスと魔力量・戦聖女としての能力が格段に上がった事であり、もはや彼女一人でアンブロシア軍が迎え打てる程に成長していたのだ。
文字通り覚醒してしまったのだが、まだ力の調節が上手く行かず、持て余している一面も有り、危なっかしいのだ。
「おはようシェスぅ。私が朝食作るから食べてくれる?」
「姫・・・私なんかにそんな気を使わないで下さい。」
やたらと世話を焼きたがる上に、常に繋がっていないと落ち着かない。
夜も一緒のベッドでないと寝ないのだ。
バカップル並みにベタベタなのだ。
「よかったね、シェス〜姫様は、もう君に任せたから宜しくね。」アルフィンは、呆れ顔である。
「姫、最近私に対しての接し方にしてもそうですし、他の方達への対応がまるで変ってしまったのが、とても気になります。何か心配な事でもおありなんですか?」
シェスターは心配そうに、メルティアの強い魔力を帯びた真っ青な瞳を見つめる。
メルティアはゆっくりとシェスターの隣に座ると、静かに話し始める。
「どうしてかな・・・なんかとても心細くなって、周囲の人達は優しくしてくれるけど、とても遠くに感じるの・・・親身になってくれるのに、すごく遠い存在になってしまっていて、今までと同じに接することができないの。まるで皆んなが人形になったみたい。シェスター、貴方すら遠くにいるんだよ。」
ふっと窓の外に視線を向けるメルティアは、身体の線がくっきりとわかる女性らしい真っ白なドレスを纏っている。隣にいるというだけで照れてしまうほど美しいのだ。
メルティアはゆっくりとシェスターの肩にもたれかかると小さな声で呟く。
「私、まるで同じ人じゃない気がするんだ。誰が一緒にいても一人なの。あの実験室で自分の魔力世界の中でいろいろなものを感じたの。生物・世界・宇宙・異次元あらゆる空間の広さを見せられたの。そしたら私の中にある何か大事なものが弾けたの。そうしたら、何もかもが真っ白になって、あんなに大切だった自分個人の空間が力ずくでほんの塵のようなものになってしまったの。」
シェスターの左腕に絡めた両手に痛いくらいに力が込められる。
「私何もなくなっちゃった。どうしよう。怖くてたまらないの。」
ボロボロと涙を零しながら、シェスターの顔をまじまじと見つめる。
「こんなに、近くにいるのにそこに貴方は居ないの。」
シェスターは、思わずメルティアを抱きしめる。
「姫!僕はここにいる。絶対に姫を一人になんてしない。」
「ありがとう、わかってるよ。あの日シェスが好きだと言ってくれた事がどれだけうれしかったか・・・でも、分かってるんだけどそれでも一人なの。だから、貴方とつながっていたいの。実感できるものがないと、壊れちゃう・・・」
ふと涙が血液になっている事に気づいて、必死に拭って意識を集中させる。
「ごめんね、自分の中の魔力をコントロールできないの。気を抜くと力が溢れ出してきて、何もかも壊しちゃいそうなんだ。」
シェスターは、愕然とした。この少女の中にある力がここまでメルティアの心を蝕んでるとは、思わなかったのだ。
「姫、一緒に旅に出ようか。二人だけで・・・」
メルティアは、キョトンとしてシェスターのブルーグレーの瞳を見つめる。
「もういいよ。悩まないで。僕が、僕だけは、姫と一緒にいるから・・・これからは、僕が姫様のためだけに生きるから、もう一人にならないで・・・」
メルティアを抱きしめ口づけをする。メルティアは、なすがまま抵抗しない。
「お願いだ、苦しんでる姫を見ていると、僕の心も引きちぎられそうだ・・・僕からもお願い・・・その壊れた心も含めて姫の全てを僕にください。」
シェスターは、メルティアを抱きしめたまま、いつのまにか泣いていた。
「いいよ。こんなのでよかったらシェスにあげるよ・・・」
その日、メルティアはシェスターのものになった。
シェスターは、同僚に同意を得てメルティアと旅立つ事にした。アンブロシアが攻めて来た時は、カルセドとアルフィンが時間を稼いでる間に、二人が遠隔転移で駆けつける作戦だ。
「そっか、本当にいっしょになっちゃったんだ、よかったね。」
アルフィンは、すこし寂しそうに俯くと、シェスターの背中に抱きついた。
「シェス・・・気づいてた?私も狙ってたんだけどなぁ。姫が相手じゃ勝負にならないもんね。・・・大好きだったよ。」
アルフィンは、シェスターが幼少期にメルティアの傍付きとして選ばれてから脇目も振らずひとすじに、メルティアだけを見つめてきた事を知っている。
アルフィンは、振り向くことはなく離れていった。
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