プロローグ
今回は、地理的な設定と記憶喪失の少女が自分の才能に気づき、自分という存在に興味を持ち始めるお話です。少し魔法が発現する場面や、少女の周りの人間関係を構築する回でしょうか。ご閲覧よろしくお願いいたします。
ディオラス王国は、貿易の要所となる、多くの都市を持つ豊かな外交国家として栄えている。
中でも、海にも山にも面しており、主要交通経路を複数持つ交易都市シーライオス。
多くの人種を受け入れ栄えているこの街に、ある日一人の女の子が逃げ込んできたのである。
この少女は、3か月前に聖教都市アンブロシアに続く街道で行き倒れている所を発見され、現在はシーライオス市街の小さな酒場の店主に助けられ、現在は酒場の給仕として働いている。
名前は本人が持っていたネームプレートから判明している。
名前はメルティア、年齢は15歳。
発見時から本人は記憶がなく、何者かに危害を加えられたであろうと思われる傷が全身にあり、必死に逃げてきた事がうかがえる状況だったのである。服装は血と泥に汚れていてあちこち酷く裂けていたものの、それは白い立派な法衣であり、何らかの術士であった事が伺える姿であった。
酒場の店主はレガル。一人暮らしの28歳になる気の良い男である。気にしない性格が災いして、今まで女性とは縁がなく、今回メルティアとの生活については、案外気分を良くしている側面があるのだ。
そんなメルティアは、華奢な肢体に、きれいな銀髪の長髪、大きな瞳はサファイアのような深い青色。幼さは残すものの、整った容姿はだれの目から見ても絶世の美人さんなのである。
「やぁ、あのままにしていたら、攫われて奴隷商に売られていただろう」とは、店主の話である。
彼女が働くようになってから、客足は途絶えることはなく、連日満席となっているのだ。客のお目当ては、その天然少女の美貌であったり、不思議な雰囲気から交わされる会話を楽しみにして来店してくれるのだった。
「いらっしゃい。」元気に客に声をかけると、笑顔でさっと席に誘導する。てきぱきと仕事をこなす彼女は、仕事は早いとは言っても、急いでいる感じではなく、むしろ優雅さすら感じる程の案内をするのだ。もうすでにこの時点で客達は彼女の魅力に堕とされているのだ。
「メルちゃん、何処から来たの?」
「ごめんなさい。わからないんです。多分アンブロシアなのかな?」
客は、メルティアの身の上話に興味津々である。当の本人は、全く覚えていないので、困るのだが会話の材料には事欠かないのだ。
《ガッチャン!》
客が皿が床に落ちてしまい、その破片が客の足に当たり切り傷を作ってしまう。
「いたたっ」
「大丈夫ですか?・・・結構深く切れちゃいましたね。」
メルティアは手持ちの布で傷口を抑える。
何もしていないのに傷口を抑える手が淡いピンク色の光を放ち始める。
「あれ?何だろうこの光・・・」不思議そうに自分の手を見つめるメルティア。
「メルちゃん、もう痛くないんだけど、何かした?」
「何もしてないですよ?」
静かに傷を抑えていた布切れを外すと、そこにはもう傷は存在していなかった。
周囲にどよめきが起こる。
「メルちゃん治癒術士なの?」
「わかりません。でも、ここにたどり着いた時は法衣を着ていたという事ですから、何かの術しかもしれないですけど覚えていないんです。」
一連の様子を見ていた、上級冒険者らしい姿の男が、近づいてきて、メルティアに話しかける。
「君は、治癒魔法が使えるようだね。それもかなり高度な魔法が・・・どうだろう、一度ギルドに付き合ってもらえないかな?」
「うん、そうですね・・・冒険者の仕事には興味があったので、明日ならご一緒できると思います。」
「君の過去を知る切っ掛けになるかもしれないよ。明日迎えに来るよ。あっ、僕はランスだ。冒険者をしている。」
「えっ、あの王宮の首席魔剣士だった、あのランス・ナルサス様ですか?!」
周囲にさらにどよめきが起こる。
「魔剣士様、うちのメルティアをそそのかさないで下さい。」
心配そうに店主のレガルが口をはさむ。
「レガルおじさん、私も前から自分の事をもっと知りたかったの。それに、冒険者にも興味があって・・・もし、お金を稼げるようになれば、おじさんにも楽させてあげれるかもしれないし・・・」
「俺は、メルが居ればそれだけでいいんだけどなぁ・・・お前がそういうなら・・・」
しぶしぶ、レガルは引き下がるしかなかった。
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翌日
「お待たせしました、ランスさん。」
メルティアは、白地にゴシック調の小さな柄物のワンピースを着て、つばの広いピンクの大きなリボン付きの麦わら帽子をかぶり、町娘で通るような姿で、ランスについて行く。長い銀髪は先のほうでまとめてあり、風に靡くことはない。それでも、垣間見る青い大きな瞳は、特徴的ですれ違う人たちの目を引くのであった。
「混んできたから、手をつなごう。君は目立つから危ない!」
「・・・はい。」少しうつむきながら、右手を差し出す。
ほどなくギルドが見えてくるが、胡散臭い大男を含めて、大勢の男たちがギルドの入り口に屯していて、ギルドの建物に入りずらい空気を醸し出している。
「中に入れてもらえるかな?」
男たちに声をかける。
「なんだ、俺様たちが邪魔だっていうのか?」
男たちが、ランスとメルティアを囲む。
「やれやれ、ギルドの教育がなってないのは考え物だな。」
黒い大剣を抜くと、大剣に一瞬にして稲妻が付与される。ほどなく大剣は、大男の顔先に突き付けられると、行儀の悪い冒険者たちは急に顔色が変わる。
「ま、魔剣・・・」
大男はすぐに下がると、「貴様魔剣士か?」
「Sランク冒険者のランス!『雷光』と呼ばれているが知らないかね?」
男たちはすごすごとギルドの門から退いていった。
「ランスさん、私ここへは一人では近づくこともできないかもしれません。」
不安そうにメルティアは、ランスの顔を覗き込む。
「大丈夫、そのうち慣れるよ。」
二人はカウンターに向かう。カウンターには、栗色のウエイブのついた髪の長い女性が窓口で対応してくれた。
「ご用件をどうぞ。」
「この子の、冒険者登録とステータス確認をお願いしたい。」
「了解しました、少々お待ちください。お嬢さんはこちらに必要事項を記載お願いします。」
用紙を記載している間に、魔力測定の宝玉と、ステータスセンサーが準備される。
「それでは、こちらに手をかざしてくださいね・・・」
メルティアは手をかざす。
「・・・す、すごいステータスです。レベルもすでに12もあります。」
体力152 攻撃力67 防御力84 魔力9999 魔法防御9999 素早さ1086 器用さ1282 運1525 魔力と魔法防御が限界値に達していた。称号;戦聖女
すでにレベル12というのは、おそらくシーライオスに逃げてくる際に戦って稼いだ経験値によるものなのだ。かなりの戦闘を経験してきた可能性が垣間見えるのである。
「属性は・・・主体は聖属性と思いますが、周囲に虹色のオーラが見て取れます。厳密には全属性に適性があると考えられます。」
「よ、予想以上の才能だな。」
ランスほどの経験を積んだものでも相当のショックを受けているのだ。
「申し訳ありませんがマスターに報告義務がありますので、奥の応接室で待機してもらえますか?」
二人は応接室に案内され、大きなソファーに腰かけて待つことになった。
ほどなく、ギルドマスターが足早に応接室に入室。大きな声で話し出した。
「おい、ランス!お前すごいの連れてきたな。冒険者登録してくれたのか?」
「あぁ、いま登録中だよ。」
ギルドマスターが矢継ぎ早に話し始める。
「私がこの街のギルドマスターのモーゼスだ。君ほどの人材を見たことがない。よろしく頼む。」
「わ、私ですか?わたしは、そんな大それた者ではありません。あっ、私はメルティアです。よろしくお願いいたします。」
モーゼスとランスの混乱も紅茶が入るとともに落ち着きを取り戻していく。
「や、お嬢さんのステータスは、通常の事態ではない。おそらく賢者でも、このようなステータスにはならないだろう。運の高さから考えてもやはり聖女であることは疑いないのだが、魔法攻撃力のステータスの説明ができない。何か説明のできない力を内包した、大聖女という括りになりますな。」
「や、私もここまでとは予想もしていなかった。これは、ギルド管理で保護すべきかもしれませんね。それに称号にある戦聖女って見たことないんだが・・・」
「えっ、だめです。私リガルおじさんのところに戻らないと・・・」
この、秘密が漏れてしまうと、メルティアを手に入れようと、王族・貴族や巨大組織が動き出す可能性が高いのだ。
「そうな・・・そうしてやりたいんだが、危険なんだよ。安全なところで独り立ちするまでは、生活してもらう必要があるんだよ。」
「やっ!!、私、リガルおじさんのところに戻ります。」
メルティアは助けてもらったリガルに大変恩を感じており、彼のもとを離れる事に強い抵抗を感じていたのだ。
「ふぅ、レガルさんに相談して、じゃぁ護衛として僕もあの酒場に住まわせてもらうよ。」
仕方なさそうに、ランスはメルティアに告げる。
「あと、モーゼス。賢者ナームにも連絡とってくれないか?教育係につけようと思う。」
「うむ、分かった。とりあえず、冒険者ランクはExとしておくよ。すべての依頼を受けられるようにしておくからな。」
怒涛のように、メルティアの運命の歯車は急速に回り始めるのであった。
多分、行き当たりばったりでお話は進行しますが、帳尻が合うようには考えていきました。ありがとうございました。