7ヶ月目
今日は、祈豊祭だ!
街には露店がたくさん並び、そこかしこに小麦の焼けるいい匂いが立ち込める。迷宮都市の外に広がる穀倉地帯の、秋まき小麦のお祭りなのだ。
昨年神様に豊作を祈り収穫した小麦で作った加工品を感謝と共に迷宮に捧げ、また今年、今から蒔く種も寒い冬を越えてたくさん実りますようにと祈りながら皆で大いに食べ、呑み、そして踊る。
それから、独身の男女は頭に葉と実のついた野ぶどうのツルで作った冠を被り出会いを探す。豊作を祈る祭りなので、あなたとの間に実がなりますように、ということで告白のお祭りでもある……らしいのだ。
今日はレオヴァルトさんと一緒にお祭りに行こうと約束している。毎年、ついつい財布が緩んでしまい翌日から赤貧にあえぐはめになってしまう大変なお祭りだが、今年は1年かけて堅実にお祭り貯金を貯めてきたし、いつも何気なく約束する食べ歩きも今日という日に狙いを定め予定を立ててきた。今年は、かんぺきなのだ……!
私はうきうきと待ち合わせ場所に向かった。
§
街は大変な賑わいだった。
この街は、迷宮への入口を中心に円を描くように広がっている。迷宮入口の周囲は丸く庭園になっていて、ぐるりと一周柵で囲われて、前門と後門が設けられている。前門が教会で、後門が冒険者組合本部だ。
祈豊祭は教会のお祭りなので、大きな催しは教会側の大通りで行われる。いつもいく場所とは迷宮を挟んで反対側なのだ。こちらの大通りも大変賑わっているけれど。
今日だけは教会側の前門が一般開放され、迷宮入口に組まれた祭壇に皆思い思いに供物を捧げる。迷宮入口は四方に建った柱の上に屋根が乗った、美しいガゼボのようになっていて、その中に立って願うと迷宮に招かれる。
特に選定があるわけでもないので、今日は一般人、特に子供が誤って迷宮に迷い込まないように神殿騎士が入口を固めるのだ。捧げられる供物は神官様が受け取って祭壇に捧げるらしい。
そういうわけで、今日は迷宮に出入りできないので冒険者たちも皆完全にお休みだ。組合本部側の後門は閉じられ、皆でこぞって街に繰り出す。大いに盛り上がり、大いに呑んでいるので、大変な騒ぎだ。
こぞって街に繰り出すとは言っても、冒険者たちは基本的に教会側にはあまり行かない。特に出入りが制限されているわけでもないのだけれど、やっぱり、強い力を持つ者が集団で騒ぎながら押し寄せるのは怖いだろうと、冒険者の間にはなんとなく暗黙の了解がある。盛り上がるなら組合側だ、と。
有名な上位冒険者たちも一気に街に繰り出すので、レオヴァルトさんが教えてくれたように深く潜るほど一度にたくさん食べられるようになるなら、去年までは財布とにらみ合うばかりだったこのお祭りも、おいしいものを求めるとなればこちらこそが激戦区なのかもしれなかった。
「行こう、レオヴァルトさん……!」
私は決意を込めてそう呼びかけた。
「プレッツェルが食べたい!あと、あの具を挟んだパンも!わあああのクレープもおいしそう!!」
私はすっかりはしゃいでいた。いいのだ、私は今日この日のために1年間お祭り貯金をしてきたのだから!
「いいね、全部いこう」
レオヴァルトさんもがぜんやる気だった。
そして1日はしゃぎまわって、食べまわり、おなかもいっぱいになった頃、私はきらきらと光る飴がけされた野いちごを見つけた。その横には同じく飴がけされたぶどうも並んでいた。きちんと並んで串に連なり飴がけされたきれいな果物たちは、お祭りの最後を締めくくるのにぴったりに見えた。
「いちご……ぶどう…………いち……ぶ……」
私はどちらかを選べずすっかり悩み込んでしまった。
「僕も買うから、別々の種類を買ってひと粒ずつ交換する?」
レオヴァルトさんは天才的な意見を出してくれた。まさに天才だと思い、私は彼を尊敬に輝いた瞳で見上げた。
「する……!」
「リナリアはどちらを買う?」
「の……野いちご!」
「じゃあ僕はぶどう」
そうして買った飴がけの野いちごはとてもおいしかった。飴は薄くかしゅりと砕け、中の野いちごは柔らかくつぶれその果汁を口に広げた。
「甘、酸っぱ!あま……!」
私は歓声を上げた。
「こっちもおいしいよ」
レオヴァルトさんはぶどうの串を差し出してくれた。
こちらは飴のカリっとした感触に続くぶどうの皮のさっくりとした歯ごたえと、果肉のみずみずしい甘さがなんともすばらしく、どちらも大変おいしかった。
私たちはひと粒といわず、おいしいねと言いながら分け合ってそれを交互に楽しんだ。
そんな楽しいお祭りの帰りがけ、レオヴァルトさんが新年祭にも一緒に行こう、と誘ってくれた。
私は、楽しみな約束がまたひとつ増えて嬉しくて、うん行こうね、と約束した。