ナンパは許さない
「おい、お前今なんて言った?」
「いえ………その……」
サフィーにナンパしやがった男は、私に睨まれて生まれたての子鹿のように震えている。
こんな奴がサフィーの婿になるなんて、今この瞬間、天変地異で世界が滅び、また天地開闢が起こるくらいの確率であり得ない。
あまりにもつり合わなすぎる。
それに、サフィーの恋人は私なんだ、この座は例え神が相手でも渡さない。
「ナンパするのは自由だが、相手を考えろよ?お前は既婚者にまでナンパするのか?」
「いえ!しません!!」
「サフィーには、決まってる相手がいるんだ。今回は知らなかったで許すけど……二度は無いからな?」
私がそう言うと、男は壊れた機械のように首を縦に振り続けた。
「行くよサフィー。ここに居たら何言われるか分からないからね。」
「はい、先に行ってて下さい。」
「そう?すぐに来るのよ。」
私は、サフィーからリン姉を回収すると、先に宿に向かった。
「大丈夫ですか?」
「え?あ、ああ。なんともないぞ?」
「そうですか…次は気を付けて下さいね?」
私は、それだけ言って帰ろうとしました。
しかし、
「『光槍の聖女』さんの決まってる相手って…」
これは…教えた方がいいのか、それとも言わない方がいいのか。
別に、恥ずかしい事でもないですし、言っても大丈夫ですよね?
「姉様です。」
「はい?」
「だから、姉様です。皆さんに分かるように言うなら、『焔です戦乙女』ですね。」
突然の事に、理解が追い付かないのか、周囲が静かになります。
そして、
「「「「「「えええぇぇーーーー!!!?」」」」」」
信じられない物を見たかのように、驚愕の声が上がります。
「お前…姉と恋人関係なのか!?」
「そうですよ?」
「噓だろ…」
すると、何故か男性陣が落ち込んでいた。
「お姉さん、認めてくれてるの?」
「両想いですよ?いつも私の事抱きしめてくれますし。」
「凄い…」
落ち込む男性陣とは対象的に、女性陣は凄く楽しそうです。
恋バナでもするんでしょうか?
「キスとかするの?」
「はい、いつもしてますよ?」
「じゃあ、どっちが攻めてるの?」
「私が攻めです。」
「え!?」
私の発言に、落ち込んでいたはずの男性陣まで、バッ!と顔をあげた。
「姉様って結構奥手で、かなり慎重なんですよね〜。いつもはずんずん進んでくんですが、私が相手だと、私に合わせようとして、ゆっくりになるんですよね。」
「そ、そうなんだ…」
「それに、姉様は体力があるはずなのに、いつも朝起きると疲れた顔をしてるんですよね〜」
何故でしょう、何処か遠くを見る同情の目と、私を見る畏怖の目が入り混じっています。
「あ、あの人に止められてて良かった〜」
私にナンパしてきた人が、何故か安心したような顔をしています。
まるで、私がヤバい奴みたいな扱いを受けてる気が…
「お姉さんの事ってどれくらい好きなの?」
どれくらい…ですか…
「正直、姉様以外の奴に興味なんてありません。例え、血を分けた他の姉様でも。例え、私のことを一生愛してくれる優しい人でも。例え、命の恩人でも。姉様以外の奴に興味なんてありません。私は、姉様のことを愛してますし、姉様も私のことを愛してくれてます。だから、姉様は私を誰かに取られたくないし、私も姉様を誰かに取られたくないです。きっと、私も事を狙うやつが居たら、姉様は相手が神でも私のためにそいつを殺しに行くでしょう。私も、姉様を狙うやつが居たら、そいつが神でも姉様を選んだことを魂の奥底まで後悔させてから殺します。だから、覚えておいて下さいね?私に手を出したら姉様が誰であっても殺しに来ます。姉様に手を出したら私が誰であっても殺しに来ます。姉様に灰にされて死ぬか、私に拷問されて死ぬか、楽しみですね?」
おや?どうして皆して顔を青ざめてるのでしょう?
…誰も話しかけて来ませんし、帰りますか。
「あら?思ってたより早かったわね?」
「そうですか?」
「ええ、もっと根掘り葉掘り聞かれてると思ってたけど。」
別に、話すのが面倒くさいからサフィーに押し付けてたって訳じゃないよ?
ただ、こういうのは、サフィーにやってもらって、人に慣れてもらおうって思っただけで。
それに、ずっとあそこにリン姉を置いとくのもあれだから、先に帰ってただけよ。
「ビーノ姉様、もし私が連れ去られたらどうしますか?」
「どうしたの?藪から棒に」
「いえ、単純にビーノ姉様ならどうするのか聞きたくて。」
サフィーが攫われたらか…
「なんとしてでもサフィーを探し出して、その後に首謀者、協力者を皆殺しにするわね。」
「ふふっ、私の予想通りですね。」
まぁ、そうでしょうね。
私もさっきの例と同じ状況になったら、サフィーが何をするか大体予想出来る。
「ビーノ姉様、これからもずっと一緒ですよ?」
「どうしたの?そんな当たり前のことを言って。もしかして、あそこで何か言われたの?」
「そんなこと無いですよ〜」
あれかな?
サフィーには決まってる相手がいるって言ったから、その事を聞かれたのかな?
まぁ、聞かれて恥ずかしい話じゃないし、別にいいけど。
それよりも、サフィーのあの笑顔をずっと守れるように、もっと強くならないと。
サフィーは、さっきの会話で嬉しい事があったのか、嬉しそうにニコニコしてる。
「サフィー、浮かれてるところ悪いけど、ちゃんと前は見なさいよ?」
「分かってますよ〜、わわっ!?」
サフィーは、少し出ていたタイルの段差に足を取られて、転びそうになる。
「ほ〜ら、言わんこっちゃない。」
「むぅ…」
ほとんど何もない所で転びかけたのが、恥ずかしかったのか、顔を赤くしてる。
恥ずかしがってるサフィーもかわいいわね。
そんなことを考えながら、宿に向かった。
「え!?明日出発!?」
宿に帰ってきた私達に告げられたのは、突然の出発についてだった。
「本当ならもう少しここにいるはずなのですが、急用が出来ましてね。ちょうど、古代神殿がある方向に向かうので、ビーノ様達も連れて行こうかなと。」
「なるほどね、分かったわ。旅は道連れって言うしね、古代神殿に行けるなら別にいいわよ?」
ヘリスとハーウェイ、後はメリーちゃんにも挨拶しておかないとね。
取り敢えず、リン姉は置いて行くか…酔っ払ってるし。
「挨拶は、今日中に済ませて貰えると嬉しいですね。明日は、早朝から出発するので。」
「そのつもりだから大丈夫よ。…リン姉を置いて行くから、起きたらここで待つように言っておいて。」
「分かりました。」
私は、取り敢えずリン姉をソファーに寝かせて、立ち上がる。
サフィーもそれについてくる。
「じゃあ、行ってくるわ。」
「はい、お気を付けて。」
まずは、ヘリスの所に行こうかな?
私は、取り敢えず侯爵邸に向かった。




