二つ名
次の日の昼
私達は、『薬屋』の前に来ていた。
「リン姉、この店のバアは、かなり癖のあるやつだから、覚悟しておいてね?」
「それ三回目よ?ちゃんと覚えてるから大丈夫。」
ちなみに、リン姉というのは、
『タメ口?』
『そう、ビーノが私に敬語を使うのが、違和感しかないから、タメ口で読んでほしいの。』
『私は、どうしますか?』
『サフィーはそのままでいいわ。昔からそんな感じだしね。』
『昔からって言うほど、昔でもないけどね。』
『そこはあれよ、雰囲気的にってやつ。』
という感じで、タメ口で読んでほしいとのことなので、普通に話す事にした。
リン姉は、シトリン姉からシトを取って、リン姉だ。
普通に愛称で、私のビーノとか、サフィーアのサフィーとかと一緒。
こっちの方が、話しやすくていいわ。
「じゃあ、行くよ?」
「確認しなくても大丈夫だよ。」
リン姉から早く開けろと、催促されたのでドアを開ける。
「フン!久しぶりじゃないか。姉は無事に助けられたみたいだな。」
私は、店に入った瞬間にかけられた言葉に耳を疑った。
「どうして、貴女がそれを知ってるの?」
私が警戒心MAXで質問すると、バアは笑って、
「足はすっかり遅くなっちまったが、情報の速さは現役時代以上だよ。」
現役時代…このバア何者だ?
後ろの二人も状況を重く見て、警戒態勢だ。
「そんなに警戒しなくても、あんたらをどうこうするつもりは無いよ。」
これ以上警戒するのは、逆に敵対行動になるか…
「まぁ、お婆さんの昔については、あまり詮索しないでおくわ。」
「それがいい。それで、例の指輪を探しに来たんだろ?出来てるぞ。」
そう言って、小さな袋を投げてきた。
すると、中で金属製の物がいくつかぶつかる音がした。
「一つじゃないんですね。」
「ああ、作ってたら楽しくなってきてね、いつの間にか四個も作ってたよ。」
魔力を偽装し、隠蔽するこの指輪をいくつも作れる、このお婆さんは何者なんだろうか?
いや、詮索はしないって言ったんだ、これ以上は踏み込まない。
「代金は要らないよ。」
「え?」
「金が欲しくてやった訳じゃ無いからね、持ってきな。」
店の経営とか、大丈夫なんだろうか?
取り敢えず、いくつかポーションを買ってくか。
経営の足しになるでしょ?
「あの、麻痺毒が欲しいんですけど…」
「麻痺毒?また、変わった物を欲しがるね。そこの棚にあるよ。」
リン姉は、以外な物を買った。
麻痺毒なんて、どこで使うんだろうか?
「お前さん、あれ持ってるんだろ?」
お婆さんが話しかけてきた。
「あれ?」
「何?蜂なのに持ってないのかい?」
蜂…あぁ、蜂蜜か。
私は、蜂蜜が入った瓶を取り出す。
「これですね?」
「そうそう!黄金の蜜を見るのは久しぶりだね。」
「前にも見たことが?」
「ああ、あの時は城のパーティーに呼ばれた時だったかな?」
城のパーティー…いやいや、詮索はしない!
「このババア、本当に何者?」
サフィーが、耳の良い私達にしか聞こえない程度の大きさで呟く。
前は、私とサフィーの会話が聞こえたらしいけど、今回は小さ過ぎて分からなかったらしい。
リン姉も私も黙っておいた。
まぁ、リン姉は後でサフィーの事を叱りそうだけど…
「本当に代金を払わなくて良かったんですか?」
「金が欲しけりゃ、この蜜を売ればいいだろ?魔導具より、ずっと金になる。」
確かに、黄金の蜜を売れば大金が手に入るだろうけど…
その後、ポーションの会計を済ませて、店を出た。
冒険者ギルド エリーレ支部
「ビーノ様とサフィー様ですね?こちらをどうぞ。」
受付嬢に渡されたカードには、Cランクと書かれていた。
「シトリン様のカードはこちらです。流石に、Cランクからは難しいので、Eランクからだそうです。」
流石にCランクからは無理があったか。
ハーウェイに頼んで、シトリン姉もCランクということにしてもらおうと思っていたが、それは難しいと言われていた。
まぁ、もともとAクラスの力がある、女王候補の私達なら、すぐにあがれるでしょ?
「リン姉様はこれから頑張ってくださいね?」
「サフィー、貴女も頑張るのよ?」
「うぅ〜!」
サフィーは、カッコよく言ったつもりだったのか、恨めしそうに私のことを睨んできた。
取り敢えず、ナデナデして落ち着いてもらおう。
「おい」
サフィーの頭を撫でようとした時、後ろから声を掛けられる。
「何かしら?」
ハァー…
このタイミングでテンプレかよ…
冒険者登録した時にしてほしかった。
…いや、今リン姉の登録したところだった。
「お前みたいな華奢な女がCランクなんて「フフッ」は?」
サフィーが急に笑いだした。
「ビーノ姉様が華奢…フッ」
「サフィー、どういうことかしら?」
笑いを堪えきれないサフィーに、ついカチンと来てしまった。
「フフッ…良かったですね、華奢な女として見てもらえて…フフッ」
「あー…サフィー、後で話があるから。」
ずっと笑ってるサフィーと、明らかにキレてる私を見て、絡んできた男が困惑してる。
「あれ?あの笑ってる子、もしかして…」
絡んできた男の仲間が、サフィーのことを知っているみたいだ。
「知ってるのか?」
「スタンダードの時、回復魔法で何十人もの人を助けてた、回復術師じゃない。」
「何だと!?」
男が、おもしろくらい驚愕してる。
サフィー、そんなにヤバイことしてたのかしら?
「まさか、『光槍の聖女』か!?」
何その厨ニネーム。
「それ、どういう事?」
「知らねえのか?光の槍で、ワイバーンを二匹も倒したのに、何百人の冒険者を救ってるんだぜ!?」
「確かに、サフィーはそれくらいしてたわね…」
それだけで、聖女なんて言われるだろうか?
「しかも、助けられた奴は後遺症が一切無くて、切られた手足すら再生させるんだぜ!?それを何百人に!」
「というか、貴女って魔族と戦ってたよね?」
「魔族と戦ってたのは私ね。それがどうしたの?」
すると、急にギルド内が騒がしくなる。
さっきから、サフィーを噂する声で賑わってたけど、急に騒がしくなった。
「マジかよ…あんた、『焔の戦乙女』なのか…」
「は?」
私にも二つ名あるの!?
めっちゃ恥ずかしいんだけど!?
「一応、どんな理由でそう呼ばれてるか、聞きたいんだけど?」
「理由?そりゃあ、高威力の炎魔法で敵を薙ぎ払って、なおかつ魔族と対等に渡り合ったんだぜ?それくらいの二つ名は付くだろうよ。」
何、当然かのように言ってるの?そんな恥ずかしい二つ名要らない!!
というか、炎魔法で敵を薙ぎ払うって何?私そんなことしてないけど!?
あるとしたら、ワイバーンを爆殺したくらいだけど…
「にしても、納得いかねえな。」
「はあ?」
「あんた程の実力者が、Cランクなのがだよ。ギルマスは何考えてるんだ?」
そこか〜
別にいいじゃん、地道に上げていけばいいんだから。
…なんて言ったら、殺されそう。
結局、恥ずかしかったからすぐに逃げた。
結論、ワイバーンがかわいそう。




