三女
「…」
「そんなに、お二人が心配ですか?」
「まあな」
俺の専属執事が聞いてくると
ゲスノ子爵は、筋金入りのクソ野郎だ。
ビーノの気に触れるような発言をして、怒らせよう物なら一体どんな責め苦をっ!?
「今、凄まじい怒気を感じたんだが!?」
俺が、執事の方を見ると、冷静な顔を保とうと、執事は頬を引き攣らせていた。
「あれは…凄まじい魔力が放出されています。その魔力には、ビーノ様と思しき怒気がこれでもかと…」
「ゲスノ子爵は…いったい何をビーノに吹き込んだんだ!?」
そして、街から見ても分かるほどの大爆発が起こった。
「なん、なのだ…あの、魔法は…」
「分かりません…もしや、あれこそが、あの頑強なマンイータービーの巣を破壊したという大爆発?」
それなら納得がいく、あれ程の大爆発が内部で起これば、いくら難攻不落のマンイータービーの巣でも、粉々になるだろう…
ビーノ達は、生きているのだろうか?
…そうだ!
私は、通信用の魔導具でハーウェイと連絡を取る。
「ハーウェイ、聞こえるか?ハーウェイ?」
「あれが…マンイータービーの巣を破壊した、大爆発…」
ビーノが、大量の魔力を放出した後、小さな火を出した。
ロウソクの火くらいの、小さな火だ。
しかし、その炎はあっという間に燃え広がり、大爆発へと姿を変えた。
「周囲に放たれた魔力…あれに引火したのか?だが、魔力は燃えないはず…」
火属性の魔法は、魔力が燃えているのではなく、魔力が燃えるためのエネルギーを生み出しているのだ。
しかし、あれは魔力が直接燃えているように見えた。
いったいどうやって…
『ハーウェイ、聞こえるか?ハーウェイ?』
ヘリスから、通信が届く。
「ああ、聞こえるぞ。やはり、この大爆発の事か?」
『そうだ…あれは、何が起きたんだ?』
「何が起きたか…」
取り敢えず、分かっている事を伝えるか…
「アイツは、魔力に火を付けた。」
『何?』
「ビーノは、周囲に放った魔力に、火を付けたんだ。」
ヘリスが無言になる。
ヘリスも火魔法を心得ている、魔力が燃えない事くらい知っているはず。
実にあり得ない事だ。
『お前がそう言うなら、ビーノは本当にそんな事を、やってみせたんだろうな。』
「それよりも、先に考える事がありそうだ。」
『何だ?』
大爆発があった所には、分かりやすく爆発跡と、めちゃめちゃになった森があった。
「後始末を、どうするつもりだ。」
『あ…』
盗賊のせいにするのには無理がある。
こんなとんでも魔法を使える盗賊が居れば、国が動くほどの大問題だ。
「取り敢えず、ビーノに聞くか…」
『そうだな、張本人にやらせよう。』
結局、ビーノに押し付ける結果になった。
「で?どうするのですか?」
私は、助け出したお姉様の横で、正座させられていた。
「あの魔族の置土産に、たまたま子爵が引っ掛かったとか…」
「国際問題になりそうですね。」
「そもそも、革命派がスタンダードを起こしたって事は知られてるから、今更じゃない?」
スタンダードは国際問題にならないのに、子爵が死んだら国際問題になるのはおかしい。
あのスタンダードは、一種の侵略行為だ。
王国を弱体化させて、帝国と戦争させようという狙いがあったんだから。
「あの、私はどうしたら…」
「取り敢えず、これでも食べて下さい。」
話についていけないお姉様に、作り置きの蜂蜜トーストをあげる。
汚いって?
空間収納内の時間は止まってるから、問題なし!
うん、なんか食べ方を私やサフィーよりお上品。
「何故でしょう、負けた気持ちになるのは…」
「姉様が上品だからじゃない?」
可愛さなら、サフィーがダントツだが、お上品さで勝っている。
結局、3つも食べてしまった。
「取り敢えず、街に戻り…ハーウェイ?」
空から、ハーウェイがふわふわと降りてきた。
「ビーノ、お姉さんは助けられたようだな。…で?これはどうする気だ?」
やっぱりその話だ。
「“魔族の”置いていった置土産に、“たまたま”子爵が引っ掛かったみたいよ?」
「そうか…“魔族が”やったんだな?」
「ええ、“魔族が”やりました。」
すまんリセナ、君はこの国で指名手配されるよ…いや、これが無くても指名手配されるか。
「この人間は?」
私は、街の方を指さして、
「あの街の冒険者ギルドの、ギルドマスターだよ。」
すると、姉様は警戒体勢になる。
そう言えば、まだ蜂の姿だったわね…
「味方だから大丈夫ですよ。…本来なら、姉様を買った馬鹿の後始末をしてくれるはずだったから。」
「この状況じゃあ、後始末も糞もありませんしね。」
「サフィー、なんか冷たくない?」
私のやり方が駄目だったのかな?
「お姉様、全部殺しちゃって、私の分が無いじゃないですか!」
「あー」
まだ何人か生きてる…なんて言い訳は、サフィーを怒らせるだけね。
正直に謝るか。
「ごめんなさいサフィー。貴女をよこせなんて言われて、頭に血が登っちゃったの。」
「それは嬉しかったですよ?でも、一人くらい無事な奴が居てほしかったですね。」
サフィーからは、あまり怒ってる感じがしない。
まぁ、私の愛してる宣言が効いたのかな?
「妹に甘いのは、変わってない…いや、むしろ悪化してるんじゃ…」
「恋人同士になってるからな、毎日体を重ねてるとか…」
「流石に毎日はしてないよ!人聞きの悪い!!」
ったく、こいつも爆破してやろうか?
「ねえ、サフィーって何?」
ああそうか、名前のこと言ってなかった。
「サフィーってのは、妹の名前だよ。サフィーアだからサフィー。」
「サフィーアです。」
改めて、自己紹介をする。
「私はルビーノ、ビーノって呼んで。」
「分かったわ、ビーノ。」
姉から名前で呼ばれるのって、こんな感じなんだ…
そうだ!
「お姉様も、名前を付けてもいいですか?」
「ええ、もちろん。」
三女のお姉様の目は、美しいく明るい黄色。
黄色の宝石といえば、オパールとかトパーズだけど、なんか名前に合わない。
なら後は…
「シトリン…シトリンでどうですか?」
「シトリンね…いい名前ね。ありがとうビーノ。」
?
なんだかかなり優しいような…
昔はもっと、サフィーにきつく当たってたのに…
「姉様、どうしたのですか?」
「何が?」
「昔はもっときつかったので…」
すると、姉様は悲しそうな顔をして、
「自分の弱さと、愚かさを知っただけよ。」
そうか、奴隷にされてたから…
「ビーノ、貴女達は幸せそうね。」
「そうですね、確かに私達は幸せです。だから、」
ここで姉様を引き込む。
「私達と一緒に旅をしませんか?」
ペンダントで人化したあと、もう一つペンダントを取り出す。
よし、興味を持ってくれた!
「このペンダントを使えば、人に化ける事が出来るんです。これを使って、一緒に旅をしませんか?」
「そうね…分かったわ、貴女達と一緒に旅をするわ。」
やった!シトリン姉様が仲間になった!!
私は、シトリン姉様を連れて、ヘリスの所に戻った。
申し訳ございませんでした!!
ガーネット(柘榴石)を黄色の宝石だと勘違いしていました。
確かに、ガーネットとにも、黄色い物はあるようですが、和名が『柘榴石』である以上、ガーネットは赤い宝石として区別したほうがいいと判断し、急遽三女の名前をガーネットから、シトリン(黄水晶)に変更することにいたしました。
ご迷惑をお掛けした事を深くお詫び申し上げます。




