三女奪還作戦
オークション会場
豪華な服を着た人間達が、汚らわしい顔をして歩いていた。
「お姉様、私、ここ嫌です。」
「分かるわ、ハーウェイとヘリスに任せて、外で待機する?」
さっきから、身体を舐め回すような視線が絶えない。
正直、こんな所いたくない。
今すぐサフィーを連れて逃げ出したい。
「ここに居たか。」
「ヘリス!ちょうど良いところに!」
「は?」
事情を説明した私は、ヘリスの返事を待たずにサフィーの手を引いて、会場の外に出た。
「大丈夫でしょうか?」
「男は押されると弱いから大丈夫よ。」
「そうじゃないです…」
サフィーが、何故か呆れてるけど、気にしないでおく。
私は、サフィーの手を引いて、近くの酒場に向かった。
「よう、ハーウェイ。」
「ヘリス坊ちゃんじゃないか、久しぶりだな。」
「坊ちゃん呼びはやめてくれ、俺ももうそんな年じゃない。」
俺は、恥ずかしい思いをしながら、ハーウェイにビーノから聞いた話をする。
「なるほど、侯爵を使いっぱしりにするなんて、あの子らしい。」
「俺は、あいつに恩がある。だから、文句は言いえないんだよな…」
「それで、恩を使って好き放題してると。」
「分は弁えてるみたいだがな。」
俺の評価を落とすような事はしないし、無茶振りも、出来る範囲内だ。
それに、スタンダード含めて、重要な情報はしっかり教えてくれる。
まぁ、サフィーと幸せに生きる事が、あいつの一番の目標だから、それを邪魔しなければ問題ないだろう。
「それで、そっちの根回しは?」
「万全だ、どこから出ても“盗賊”に襲われる事になっている。」
「そうか、こっちも“後始末”の準備は出来てる。」
あの二人…得に、ビーノを怒らせると何かが起こるか分からない。
あいつは、魔物だから平気で人を殺す。
民間人を虐殺することもあり得るだろう。
「ビーノは、かなり狡猾な手段を使う。ギルドで広まっている情報だと、ビーノが討伐した魔神教アルスは、未知の毒のような何かでかなり弱っていたらしい。」
未知の毒?
「どんな毒何だ?」
すると、ハーウェイは真剣な顔をして、
「どんな鑑定士や魔道具を使っても、感知出来ない謎の毒。まるでそんなもの存在しない、そう言われてるような毒だ。」
「そもそも、本当に毒を盛られたのか?あの、アルスだろ?」
ハーウェイは、ため息をついて、
「そこが謎なんだ。症状からして、毒にやられていた事は確かだ。しかし毒が見当たらない上に、どうやって盛られたのかも分からない。」
「何だそれ?アルスが自分から毒を飲んだのか?」
「揮発性の高い毒を空気に紛れ込ませた、というのが今のところ、有力な説だ。」
ハーウェイ達を悩ませる、謎の毒。
その正体は、二酸化炭素と一酸化炭素だ。
もっと言うと、ビーノが周囲の酸素を焼き尽くした事が、毒の正体だ。
有毒の一酸化炭素と、二酸化炭素による酸欠、この2つがアルスの体を蝕んでいた。
酸素や二酸化炭素という考え方が存在しないこの世界で、酸欠で死ねば毒や呪いを疑われるだろう。
だからこそ、彼が正体を突き止める事は無いだろう。
『ご来場の皆様、まもなくオークションが始まります。ご自由に席にお座りください。』
勇者の遺産、魔導スピーカーだ。
きっと、ビーノが聞いていれば、驚いていた事だろう。
そして、『また勇者か!』と、言っていただろう。
ハーウェイとヘリスは、オークションが見られる席に向かった。
「今回のオークションは、魔獣や魔物が多いな。」
「そうなのか?俺は初めてだから、よくわからんが。」
希少な魔物や、市場に出回らない魔獣、貴族御用達の魔獣など、さまざまな魔物や魔獣が落差された。
『本日最後の商品は、お待ちかねの大目玉!かの、マンイータービーの、女王候補です!!』
そして、運ばれてきた檻に被せられていた布が、盛大に剥がされる。
そこら中で、感嘆の声があがる。
「あれが二人の姉か…」
「三女らしいぞ?残り二人居るらしいな。」
檻に入れられた三女は、明らかに元気が無い。
それに、ぐったりしている。
「おい、ちゃんと世話してるのか?」
『ええもちろん。ですが、こいつは食事を頑なに拒絶してくるので、このように元気が無くなってしまったのです。』
それでか…
「無理矢理食わせればいいじゃねえか。」
『私達もそうしましたが、すぐに吐き出してしまうので、水しか与えられていません。』
断食で、商品価値を下げようとしてるのか?
それでも、女王候補は魅力的だ。
体はボロボロだが、商人も、顔には手を出さなかったようで、
美しい顔が残っている。
「本当に、落差しなくていいのか?」
「姉を奴隷にした、人間への復讐も兼ねてるんだろう。好きにさせてあげたらいい。」
復讐か。
家族を奴隷にされたら、それくらいするか。
そして、オークションが始まると、やはり大金が積まれた。
その額は、どんどん膨らんでいく。
最終的に、豪商とある子爵の戦いになった。
「あれは…ゲスノ子爵?」
ハーウェイが首を傾げる。
しかし、俺にとっては好都合だ。
「あいつは貴族派の人間だが、金儲けのために情報を横流しにする馬鹿だ。いい機会だ、ビーノのには復讐と粛清を一緒にしてもらおう。」
ゲスノ子爵は、領内にダンジョンとミスリル鉱山を持ち、水運にも携わっている。
賄賂なども積極的に行っており、儲ける事しか考えていない、金の亡者だ。
さらに、貴族派の情報を、王族派に流すことで金儲けをするゲス野郎だ。
「遅かれ早かれ、もうすぐ粛清される。ゲスノ子爵には、“不慮の事故”に合ってもらおう。」
盗賊に襲われると言う、不慮の事故に。
「…そう、蠅がお姉様に付いたのね。…なるほどね、粛清対象か、報酬を出してくれると嬉しいな。」
私は、借りていた通信用の魔導具でヘリスと通話する。
…見た目が、まんまスマホなことは触れないでおこう。
「本当?じゃあ期待してる。」
私は、通信を切ってサフィーの所に向かう。
すると、
「嬢ちゃん、俺と遊ばない?」
サフィーは絡まれていた。
私は、速攻で四肢を砕く。
「ぎゃあああああああ!?」
サフィーに絡んでいた男が無様な悲鳴をあげる。
「サフィー、治してあげて。」
「は〜い」
サフィーは、一瞬で男の四肢を治療する。
「な、何だお前!」
男が、座り込んだ状態で無様に吠える。
「何だ?私の妹がずいぶんとお世話になったみたいだけど…何してくれてんの?」
私が、殺意マシマシで睨みつける。
「見てよ、こんなに可愛い私の妹が、怯えちゃってるじゃない。どう責任取ってくれるのかしら?」
サフィーは、わざとらしく私にしがみついて、泣いている。
「絶対うそ「なんだって?」いえ!何でもありません!!」
「ここじゃ店の迷惑になるね?おい、表出ろ。」
男は、なかなか動かなかったので、サフィーにドアを開けてもらって、外に放り投げた。
外に出る途中で、
「あいつ死んだな。」
とか、
「可哀想に。」
とか、
「俺も殴られたい。」
とか、聞こえた。
もちろん、全身の骨を砕いて捨てておいた。
「あいつがターゲット?」
「ああ、ゲスノ子爵。汚いことを山程している上に、敵に情報を流して、金儲けをするゲス野郎だ。」
名前から、ゲス度合いが分かる。
ゲスノ子爵だよ?絶対クソゲス野郎じゃん。
「粛清対象何でしょ?報酬出るの?」
「俺が出そう。」
私は、しばらく考えたあと、
「じゃあ期待してる。」
何を貰うかは、ヘリスに任せる事にした。
ヘリスは、苦笑いをしていた。
何を渡せばいいか悩んでるんだろう。…普通に金でいいのに。
「出発したわね。」
ゲス野郎は、最後の検問を抜けて、出発した。
護衛が多い、夜中でも進めるようにか…
私は、先回りして襲撃地点行く。
「ハーウェイ、そっちは?」
『問題ない、もう少しで決行の場所だ。』
「そう…」
馬車は、想像の何倍も速かった。
あっという間に決行の場所に付くほどに。
「ギリギリになりそうね。サフィー、大丈夫?」
「はい、愚かな人間共を、血祭りに上げる準備は出来てます!」
サフィーも殺るき満々だ。
これなら問題ないだろう。
そして、私達が襲撃地点についた頃、すぐそこまで馬車が来ていた。
そして、
「何者だ!!」
道の中心人間立っていると、護衛隊長らしき人間が怒鳴り付けてきた。
すると、馬車から醜い豚人間が現れた。
「貴方がゲスノ子爵?」
「そうだ、私がクズダーナ・ゲスノ子爵だ。」
ひっどい名前。
親のネーミングセンス疑うわ。
「そう、私は姉を連れ戻しに来たの。その、檻の中にいる私達の姉を解放してくれるなら、何もしないけど?」
私は、そう言って人化を解く。
ついでにサフィーも。
「ほぅ、女王候補か…いいだろう解放してやる。ただし…」
ただでさえ醜い豚子爵は、醜く笑って、
「その、後ろのと交換だ。」
「は?」
コイツは、今なんて言った?
「いや〜、こんなにも可愛らしい魔物が居るとは思わなかった。お前らの姉なら解放してやる、そいつと交換だがな。」
そいつ?サフィーのことをそいつだと?
「どうした?そいつを私に差し出せば、姉は助けてやるぞ?」
・・・
「どうした?」
「人間風情が…」
「何?」
サフィーは、危険を感じて空に逃げる。
「人間風情がぁああーーー!!!!!!」
私の怒気が詰め込まれた魔力が、全方位に放出される。
それも、ただの魔力ではない。
「サフィーを差し出せだと!?私の、この私が世界一愛する妹を、人間風情が差し出せだと!?ふざけるなぁああーー!!」
私は、仮にも女王候補。
人間如きが、本気で怒った私を前に、まともに立てるはずがない。
今立っているものは、恐怖で体が硬直しているのだ。
「地獄の底で己の強欲さを悔いろ!!愚かな人間共が!!『可燃魔力粉塵爆発』!!!」
この魔法は、アルスを殺すときに使った技だ。
粉塵爆発という物を知っているだろうか?
燃えやすい物、小麦粉を例にあげよう。
小麦粉の山に火を付けても、なかなか燃えない。
表面から燃えていくだろう。
物体が燃えるために必要な、酸素が表面にしか無いからだ。
しかし、小麦粉が空気中に舞っていて、全部が燃えるのに十分な酸素があると、一瞬で燃え広がり爆発する。
その威力は、火を付けたロウソクの周りに、小麦粉を置いて、空き缶を被せてから空気を送り込むと、空き缶が、空高く飛び上がるほどだ。
他には、木材を加工する工場で木粉が舞っており、それが何らかの原因で火が付き、粉塵爆発で多数の死傷者が出るという大惨事が起こるほどの威力がある。
私は、それを魔力で代用した。
それも、可燃性を持たせた、特殊な魔力を。
魔力は、火薬などとは比べ物にならないほどのエネルギーを秘めている。
それが、可燃性を持ち爆発するのだ、恐怖でしかない。
私の爆発は、辺り一帯を吹き飛ばした。
外に出ていた人間は、全滅。
中にいた人間も全身火傷に、複雑骨折のコンボが決まった。
お姉様の馬車は、あらかじめ結界を張っておいたので無傷。
…サフィーが、張っておいた結界で。
「お姉様」
「サフィー、私はまだ人間共を炭にしてない!!」
「後始末どうするのですか?」
「あ…」
私は、証拠を消せないくらいの被害を出していた。
…どうしよう?
ブチ切れたサフィーはヤバい奴(精神的)ですが、ブチ切れたビーノもヤバい奴(物理的)です。
怒らせるなら、どっちがいいですか?
精神的に苦しめるサフィーと物理的に苦しめるビーノ。
…どっち選んでも最終的に殺されるけど。




