サフィーの狂気
後ろか…
私は、後ろから飛んでくるリセナの剣を、弾く。
「煙に紛れてたはずなんだけど?」
「虫の知覚能力を侮るなよ?空気の微振動で物体の動きが分かる。」
ペンダントの力を弱めて、触角を出している。
『人化』のペンダントなんて名前だけど、人に化けるじゃなくて、人に近い姿に化けるだ。
触角を髪の一部のように見えるよう、調節してる。
そして、リセナのいる方向に剣を振り下ろす。
「チッ、浅かったか。」
「ほぼ勘で動いてたけどね。」
「そりゃあそうでしょ。音は頼りにならないもの。」
「どういうこと?」
転生者だからこその知恵だ。
「音は、空気の振動なの。空気が振動して、その空気の振動が耳に伝わる事で、音を知覚出来るの。その、音が進む速度の事を『音速』って言うの。」
「なんだか難しい話ね。それが、さっきのとどう関係があるの?」
「物体が、音より速く動いたら、どうなると思う?」
音より速く動く、超音速というやつだ。
「音より先に、物体が飛んでくる?」
「正解。私は、剣を音より速く振った。だから、剣の次に音が来るから、音で攻撃を判断しない方がいいよ。」
流石、ファンタジーの世界という感じね。
生身で、超音速の速度を出せるなんて。
そのうち、本当に光速で移動する奴とか出てきそう。
「教えてくれてありがとう、じゃあその音速とやらを超えて動かせば、貴女の触角も機能しないんじゃ?」
「確かにね。空気の振動を感知してるなら、触角も機能しないだろうね。」
リセナって、意外と頭いいのかな?
音速で攻撃すれば、私の触角が機能しない、ねぇ?
確かに機能しないだろうね。
でも、目の悪い昆虫たちは、触角で物を調べてるのよ?
触角は、虫たちの目であり、耳であり、鼻であり、舌でもある。
触覚?元々触れて確かめるのが触角なんだから、あるに決まってるでしょ?
そして、ファンタジーの怪物昆虫である私の触角が、音速如きで欺けると思ったら、大間違いだ!
「フン!」
私は、確かに音速で飛んできたリセナの剣を受け止める。
「な!?」
「音速程度で、私を欺けると思わない事ね。走り回っても無駄よ?空気の振動、熱感知、魔力の動きで貴女の位置が分かる。」
位置を変えたところで、最低でも、音速を超えて移動しないと、空気の振動で感知出来る。
もちろん、それ以外でも感知出来るけど。
「煙の外に出たか…ここじゃ私の方が有利だからね。」
私は、リセナが煙の外に出た事を確認すると、私も外に出る。
そして、壁がワイバーンに攻撃されているのを見た。
「そう言えば、壁の破壊が目的だっけ?あれ、まずいと思うよ?」
「へぇ?どういう風にまずいの?」
「どうって…」
私が何か言う前に、ワイバーンに幾つもの光の槍が刺さる。
「な!?」
そして、第二射が飛来して、ワイバーンの命を刈り取る。
「ほーら、言わんこっちゃない。」
「お前、何をした!?」
リセナが、剣を捨てて掴みかかってきた。
「ちょっと!服が伸びるでしょ!」
「黙れ!そんなことはどうでもいい!」
胸ぐらを掴まれて、服が伸びている。
「あーもう!サフィーよ!あそこには私の妹がいるのよ!」
「妹?そいつがやったのか?」
「私の妹よ?弱いわけないでしょう。」
サフィーは、強くて、可愛くて、私のことを心の底から愛してくれてる、私の自慢の妹よ?
『お姉様、恥ずかしいです…』
『声に出してないから、大丈夫。』
サフィーに怒られてしまった。
「あ、翼だけ攻撃した。」
「飛べないワイバーンなんて、ただの的でしかない…貴女の妹は、とんでもない事をするわね。」
「一思いに殺せばって事?サフィーって結構残虐な事、平気でするわよ?」
『お姉様?』
『あ…』
まずい、サフィーに聞かれた。
『何がまずいんですか?』
『えーっと…サフィーが怒るでしょ?』
『そうですね、堂々と残虐非道な奴、なんて言われてキレない方がおかしいですよね?』
ブチ切れてらっしゃる。
「ん?顔が青いけど…何かまずい事でも?」
なんで、ニヤニヤしてんだこいつ。
「私の持ってる恩恵を介して、サフィーがこの状況を見てるの。」
「それがどうした…あ」
「今、サフィーがブチ切れてる。」
「あー…」
何故か、リセナから同情の目を向けられた。
敵に同情される何て…
『そうですね、さっさとその女殺して、私の所に来てください。お話があります。』
『いや、でも。』
『速くしてくださいね?』
反論は許されなさったよ。
「さっさと貴女を殺して、帰ってこいですって。」
「貴女の妹って、そんなにヤバい奴なの?」
「姉と一緒に呼ぶと、私は特別なんだって言って、姉の事を殺そうとするくらいには…」
「うん、本当にヤバい奴だった。」
サフィーが、ヤバい奴って言われるのは不快だけど、事実だからなぁ。
『お姉様?私のこと嫌いですか?』
『そんな事無いよ。ちょっと困ってるだけ。』
う〜ん、サフィーがヤンデレの道を突き進んでる。
そのうち、後ろから刺されそう。
「大丈夫?」
「何が?」
「凄い困った顔してたけど…」
そんなに顔に出てたか…
「サフィーが良くない方向に愛を傾けてるから…」
「ヤンデレってやつ?」
「そう」
なんで知って…コレも勇者か?
世界に影響与えすぎでしょ。
「それが本当なら、私、貴女の妹に拷問されて殺されそうなんだけど…」
「ありえる…というか、そっちの方が自然なくらいね。」
「う〜ん、逃げていい?」
「逆に、逃げるなら今のうちだと思うよ?」
そろそろ、サフィーが飛んできそう。
…いや、こっち向かって来てる。
「サフィーがこっちに来てるよ?」
「は?」
「貴女への、殺意で真っ黒になりながら。」
リセナの顔が、どんどん青くなる。
「死ぬなら、もっといい死に方したいから、逃げるね。足止めお願い出来る?」
「気乗りはしないけど出来るよ?」
「じゃあよろしく!」
そして、リセナは一目散に逃げ出した。
「逃げるは恥だが役に立つ…今回に関しては、マジで当たってるわね。」
「ええ、そうですね。お姉様は逃しませんよ?」
「サフィー、どうしたら許してくれる?」
サフィーは、にっこり笑って、
「許しません♡」
かわいい言い方と、顔をしているが、私は恐怖しか感じなかった。
リセナ、賢明な判断だ。
逃げてなかったら、どうなっていた事か…
結局、エリーレの街は無事、サフィー(の狂気)によって守られました。
…ビーノは無事ではなかったもよう。




