剣術の鍛錬
エリーレの兵士訓練場
「ハァ!!」
力強い女性の声が、訓練場に響く。
ビーノだ。
「その調子だ、ビーノ嬢。君は本当に物覚えが良いな。」
ビーノを褒めている男がいた。
ヘリスが手配した剣術の教師、フィリップ・ラドキンだ。
ある男爵の三男だで、剣の才能で生きる道を選び、爵位の継承権を捨てた男だ。
「剣聖様の所で修行していたが、その中で見た奴らよりも物覚えが良い。将来、剣聖になれるんじゃないのか?」
「ハハ、これで剣聖になれたら、誰も苦労しないよ。」
「そうだな、剣聖が何人もいるなんて、考えたくもない。」
フィリップは、そう言って豪快に笑った。
大剣を扱うビーノに、大剣の剣術を教えられるフィリップも、大剣使いだ。
フィリップは、筋肉質で身長も高い。
ついでに、結構なイケメンだ。
街に出れば、多くの女性が振り向く、いい男だ。
「どうだ?一回俺と模擬戦してみるか?」
「ええ、お願い。」
フィリップは、不敵な笑みを浮かべる。
ビーノは、その体格からは想像出来ない程の怪力の持ち主だ。
そして、物覚えがいい。
そんな彼女が成長して高名な剣士になれば、フィリップはその師匠として、注目を浴びるだろう。
自己顕示欲が強いフィリップからすれば、ビーノが強くなるのは、とても喜ばしいことなのだ。
だから、模擬戦で自分の技術を盗んでほしい、という狙いがあった。
そして、ビーノとフィリップが向き合い。
ぶつかり合った。
「ハハハ!怪力だけじゃ、俺には勝てんぞ?」
私の剣を受け流したフィリップは、出来た隙きを見逃さず、私の腹に向けて剣を振ってきた。
「くっ!」
私は、受け流されて地面に着いた剣に力をかけて、棒高跳びのように飛んだ。
「へぇ、器用な事するじゃねえか!」
「そりゃあどうも、どう?少しはマシになった?」
出会ったとき、力だけで戦ってたら負けてた。
策と魔法を使って喰い付いていたとはいえ、技術の無い私の相手は簡単だったはず。
その時に比べてどうなったか…
「ああ、かなり良くなったぜ。」
「良かった、今度は剣だけでいけるかしら?」
「そりゃあ無理だ。嬢ちゃんの剣術は付け焼き刃だ、無駄が多い。俺の剣をよく見ろ、そして盗め。」
そのつもりだ、少しでも強くなって魔族に勝てるようにする。
そのために、剣術の習得は必須だ。
無駄の多い剣では駄目。
それではサフィーを守れない。
「ぐはぁ!?」
突然、腹に痛みが走る。
蹴られたんだ、剣に気を取られて、他への警戒を怠っていた。
「そんなに焦ってどうしたんだ?腹でも痛いのか?」
「ええ、今蹴られたばかりだもの。」
「そうだった、すまんすまん。」
皮肉かと思ったけど、気付いて無かっただけか。
…脳筋か?
「何悩んでるか知らねえが、一人で悩むくらいなら、誰かを頼ったらどうだ?昔、旅してた時に聞いたんだ、『聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥』だったか?勇者様の言葉だ。」
だろうね。
日本のことわざだもん。
というか、三百年前の話しなのに残ってるとは…ことわざって凄いのね。
「革命派の魔族に目を付けられた。」
「なに?」
「スタンピードの情報を持ち帰ったのは私達なの。私が少し睨み合って、あっちが引いてくれた。私達の事を警戒してるはず。」
危険存在として、殺されるかもしれない。
サフィーは、絶対殺させないし、サフィーのためにも、死ぬわけにはいかない。
それに、奴隷にされたお姉様を助けられるのは私だけだ。
絶対に死ねない。
「そうか…よし、なら本気で相手してやる。だが、魔法は使うな。それで勝ってみろ!」
そう言って、フィリップは突っ込んで来た。
私は、軽く身体強化を使ってフィリップに向き直った。
「お姉様、大丈夫ですか…」
「大丈夫、よ。」
もう、殆ど日は落ちていて、あたりは暗くなっている。
お姉様は、ずっと鍛錬をしていたらしい。
「無茶しないで下さいね?」
お姉様は、地面に大の字に転がっている。
私は、今日一日ハーウェイさんの所で魔力操作の練習をしていた。
確かに、疲れている。
でも、お姉様に比べれば、大して疲れていないはずです。
「サフィー、起き上がるの手伝ってくれないかしら?」
「いいですよ、はい。」
私は、お姉様の手を引っ張って、お姉様を起こします。
「ありがとう。さぁ、帰りましょうか。」
お姉様は、起き上がってすぐに歩き出しました。
私は、お姉様が倒れてしまいそうで、心配しながらお姉様の後ろを歩いていました。
「お姉様…」
「ん?どうしたの?」
「本当に、無茶しないで下さいね?」
お姉様は、不思議そうな顔をして、
「何言ってるの?これくらい大した事無いわ。」
お姉様は強いので、本当に大した事無いのでしょう。
でも、無茶を続ければ、いずれ身体を壊してしまいます。
しっかり休むことも、強くなる為に必要な事です。
きっと、私が言わないと、お姉様はそのことを忘れてしまうでしょう。
「…」
ですが、言葉が喉まで来て出てきませんでした。
お姉様は、私のために頑張ってくれているのです。
それなのに、私が口を出していいのか…そう、思ってしまいました。
「どうしたの?」
「いえ…何でもありません…」
私の様子の変化に気付いたのか、手を繋いでくれました。
お姉様の手は、ボロボロになっていて、明日にはまめが出来ている事でしょう。
きっと、痛いはずです。
私は、そっと回復魔法を発動しました。
「ありがとう、サフィー。」
「いえ…」
お姉様、絶対私が守ります。
だから、無茶だけはしないで下さいね。




