薬屋
工房を後にした私達は、中級街の店を見回っていた。
「お姉様、あれは何でしょう?」
「えーっと、薬屋?」
「薬屋ですか…ん?どうされました?」
いやいや、なんと言うか…凄い、のか?
「店の名前が『薬屋』なのよ。」
「は?」
そうだよね、文字が分からないとしか思えないような店名だよね。
でも、店の中身が凄く気になる。
いや、多分これが狙いなんだろうけど…
「入ってみる?」
「はい。名前からどんな店かわかりますが、雰囲気は入ってみないと分かりませんし…」
「じゃあ行きましょう。」
私は、『薬屋』のドアを開けた。
「いらしゃい。」
中は、思っていたより狭く、棚にびっしりと瓶に入った薬が並んでいる。
店の奥に、ヨボヨボの老婆が一人。
さっき、声を掛けてくれた老婆だ。
「ポーションを売って欲しいんだけど…」
「そこの棚だよ、自分で見な。」
相手にしてもらえない。
でも、イメージ通りの老婆だ。
私は、言われた棚に向かう。
「なんですか、あのババア。客を何だと思ってるんでしょう?」
「やめなさい、サフィー。失礼でしょ?追い出された訳じゃないんだから良いでしょ?」
「ですが…」
「聞こえてるよ?」
老婆から、声が掛かり、サフィーがビクッと固まる。
「妹が失礼しました。」
「別に良いよ、こんな老いぼれに気なんて使わなくて。その分、妹を大切にしな。」
このお婆さん、結構良い人なのかも知れない。
私は、ポーションを手に取ると、老婆の前に持っていった。
「これかい、1ルシだよ。」
1ルシというのは、銀貨一枚の事だ。
私は、ポケットから銀貨を一枚取り出す。
「まいど、ほら、持ってきな。」
「ありがとうございます。また来ます。」
私が、店を出ようとしたとき、
「おいババァ!!」
柄の悪そうな男達がやってきた。
「このポーション不良品なんじゃねえの?傷が治んねえんだが?」
店の中で怒鳴り散らして…
不良品ねぇ、分かりやすいいちゃもんね。
不良品と怒鳴り散らす男の傷口は、明らかに自分で切った物だ。
「ちょっとお兄さん、それ本当?」
「あん?おい、そのポーション不良品だぜ?今なら返品出来るだろ?」
私は、傷口にポーションをかける。
「おい!何してッ!?」
「あらあら、これのどこが不良品なの?」
「チッ!だが俺の怪我は…」
「あの怪我、どうしたの?」
私は、わざとらしく質問する。
「それは…魔物にやられたんだよ!」
「魔物?まるでナイフで切ったような傷口だったけど、この辺りに、あんな傷口を作る魔物はいないわよ?」
「チッ!もういい!!」
男は、悪態を付きながら、仲間を連れて帰っていった。
「言っただろう、こんな老いぼれに気なんて使わなくていいって。」
「じゃあ、これはお節介という事で受け取っておいて下さい。」
「フン!好きにしな。」
なんとも天邪鬼なお婆さんだこと。
今度こそ、帰ろうとした時、
「これ、持ってきな。」
お婆さんが何か投げてきた。
「指輪?」
「お守りにでもしな。」
「分かりました、貰っておきます。」
私達は、店を出た。
「その指輪、結局何なのでしょう?」
「さぁ?魔力を感じるから、魔導具か何かなことは確かだけど…」
私は、指輪をはめて見る。
すると、
「っ!?魔力が…」
「お姉様!急に魔力が消えましたよ!?」
「魔力を隠す指輪?」
確かに性能はいい。
魔力を隠すのは、相手に自分の力を見抜かれないようにするための、一つの方法だ。
私は、少しだけ魔力が放出してみる。
「?なんか違和感が…」
「お姉様、魔力が別人みたいですよ?」
「魔力が別人?まさか!?」
私は、指輪を外してみる。
いつもの魔力だ。
指輪をつけると、魔力が変わる。
でも、これが私の魔力である事に変わりはない。
「そうか…魔力の偽装…」
「お姉様?」
「これをつけると、魔力を偽装出来る。魔物特有の魔力を隠せるの。」
これで、魔力で魔物だということがバレる事は無いだろう。
バレない?
「そうか、あのお婆さん、気付いてたのか…」
「え!?…あー、なるほど。」
サフィーも理解出来たらしい。
私達が魔物と知って、この指輪をくれたんだろう。
「でも、どうして一つだけ何でしょう?」
「他に在庫が無かったとか?」
あったら、サフィーの分もくれるはず。
くれないという事は、他に無いのだろう。
けど、結果的に、行ってよかったと思える買い物だった。
「はぁ、ようやく帰ったか…」
老婆がため息をつく。
老婆は、先程までいた魔物の少女二人の事を考えていた。
妹の方は、少しトゲがありそうだか、二人ともいい子だろう。
姉の方は、こんな老いぼれ相手でも、丁寧に接してくれるいい子だ。
しかし、二人ともまだまだ未熟だ。
魔力を隠しきれていない。
あれでは、気付かれて討伐されてしまうだろう。
ついこのあいだ作った指輪をあげたが、一つしかない。
「もう一つ、作るとしましょうか。」
これで、二人が魔物だということがバレる事は無いだろう。
しかし、一部の強者が相手では、魔力を隠した程度では、バレてしまう。
「それをどうにか出来るかは、あの子達次第か…」
魔法くらいなら教えられる。
数十年ぶりに、『砦の魔女』として、重い腰を上げようかしら?
そんなことを考えながら、もう一つの指輪作りに向かったのは




