立ち直りの早いビーノ
もうすぐ話が一段落つきそうなので、交易都市を出たら、しばらく投稿ペースを落とします。
詳しく事は、また後日説明いたします。
「ビーノ姉様…」
「サフィー、今はそっとしておいてあげて。」
私は、ビーノに近づこうとするサフィーを止める。
今のビーノは、サフィーを傷付けてしまった事で、心に深い傷を負っている。
こればっかりは、どうすることも出来ない。
「リン姉様…ビーノ姉様を放置して大丈夫なのでしょうか?」
「仕方ないわ。今のビーノには触れないほうがいい。」
「側に居るだけでも、駄目ですか?」
「それは…まあ、側に居るくらいならいいんじゃない?」
私がそう言うと、サフィーはビーノのもとに走って行った。
実は、私も後悔している。
二人が本気で喧嘩するなんて珍しい、そう思って、二人を止めなかった事を。
私なら、あの状況で二人を止められたのに…
「はぁ…」
「お二人の様子はどうですか?」
「駄目ね。ビーノは完全に落ち込んで小さくなってるし、サフィーはそんなビーノを心配して動けない。あの時、私が止めていれば、こんな事にはならなかったのに…」
「リン様も後悔されているのですね…」
せっかく交易都市に戻ってきたのに、幸先が良くない。
これでは、二人をメリーという少女の元に連れていけない。
「ビーノ様が部屋に引き籠もるのは久しぶりですね。」
「え?前にもそんなことがあったの?」
「はい。あの時は、自分が何者なのか理解できなくなって恐怖していたからですが…」
「自分が何者か理解できない…精神誘導のことか…」
確かに、自分が何者なのか分からないというのは、かなり恐ろしい。
ビーノは、それに恐怖を覚えて引きこもったのか…
「その時は、どうやって解決したの?」
「サフィー様に喝を入れられて、元気になりましたね。」
「なるほどね、今回もそれが効くといいんだけど…」
しかし、今回はサフィーを愛し過ぎているからこそ、ビーノは落ち込んでいるんだ。
少し傷付けるくらいなら、サフィーが励ましせばなんとかなる。
けど、今回はサフィー頭にかなり深い傷が出来ていた。
一歩間違えれば、後遺症が出るほどの怪我。
それをしたのは、自分で、誰かに当たったり、サフィーを傷付けた相手を殺して、落ち着く事も出来ない。
あるのは、自分がやってしまったという責任感。
そして、後悔だ。
「サフィーに頑張ってもらうしかないわね。」
「そうですね。時間はかかるかも知れませんが、しばらく経てば、ビーノ様の心に傷も癒えるでしょうしね。」
私達は、サフィーがビーノを励ましてくれる事を祈ることにした。
「…サフィー」
「なんですか?」
私が、姉様の隣に座ると、姉様が消えてしまいそうな声で話し掛けてきました。
私が返事をすると、姉様は抱きついてきて、私の背中を撫でています。
「ごめんなさい、姉様。」
「…サフィー?」
私が謝ったことで、姉様は不思議そうに声をかけてきました。
「私のせいで、姉様の心に深い傷が出来てしまいました。」
「そんなことない!!」
「っ!?」
私が謝ると、姉様は勢いよく顔をあげて、私の肩を掴み、怒鳴りました。
姉様の目は血走っていて、頬には涙の跡がありました。
しかし、その顔には、悲しみではなく、怒りの色が浮かんでいました。
「サフィーは悪くないわ。私がサフィーを突き飛ばしたから…」
「違いますよ。」
「え?」
私は、肩に置かれた手を退けて、その手を両手でしっかり握ります。
「確かに、私の頭の傷は、姉様がつけたものに違いはありませんよ。」
「だから…」
「しかし、姉様がここまで負い目に感じているのは、私が色欲で、姉様を歪めてしまったからなんです。」
「それは…」
私が、姉様に精神誘導をかけていなければ、姉様がここまで落ち込むことは、なかったでしょう。
つまり、姉様が落ち込んでいる原因は、わたしなのです。
「姉様、私は両方悪いと思ってます。」
「…私は、サフィーの体を傷付けて、サフィーは、私の心を傷付けた。」
「そうです。つい、カッとなって私を傷付けた姉様は、確かに悪いです。でも、その後に、姉様をここまで追い込んだのは、私の精神誘導のせいです。だから、私は姉様を傷付けている。」
「それで、サフィーも悪いと?」
「はい」
しかし、姉様は不満そうでした。
私だってそうです。
元々、どちらか一人を悪くするよりも、二人とも悪くして、苦しみを分かち合うほうがいいと考えて、私は両方が悪くなるように言いました。
しかし、姉様は私を悪者にしたくないのです。
私だって、姉様を悪者にしたくないです。
かと言って、どちらかを悪者にすれば、悪者にならなかったほうが不満を感じます。
だって、お互い悪者になってほしくないから。
「はぁ…倫理と感情は相触れないものね。」
「ですね。考えるのが、面倒くさくなってきました。」
「なんだか、深く考えすぎたせいで、お腹空いてきたわね。今は…ちょうどお昼頃ね。」
「お昼ごはんを貰いに行きましょう!!」
「そうね。温かいスープがあるといいんだけど…」
「私は、お肉が食べたいです!!」
んー、なんだかよく分からない理由で、姉様が元気になってるような…
きっと、私の励まし方が良かったに違いありません!!
そうだ!
「元気になった?お姉〜ちゃん!」
「…」
あれ?反応がない…
え〜!?恥ずかしいの我慢してやったのに〜!
「…」
「…姉様?」
ビーノ姉様の様子がおかしい。
…もしかして、私が可愛すぎて気絶しちゃった?
気絶は言い過ぎか…
「あのー、姉様?」
「…」
うん、フリーズしてる。
「…えい!」
「痛っ!?」
私は、筋力強化の魔法と身体強化を使って、姉様にデコピンしました。
力の加減を間違えたのか、姉様が頭を抱えて震えています。
…これ、怒られないよね?
「サフィー…」
「はっ、はい!!」
姉様が顔をあげました。
そして、ギロリと私を睨むと、
「後で覚えておきなさい。」
「はい…」
これは…息ができなくなるまで、くすぐられるパターンですね。
終わった…
あれ、結構…いや、かなり苦しいんですよ?
姉様に、嫌なお仕置きの方法を見つけられてしまいました。
「でも、さっきのあれは可愛かったわよ。」
「本当ですか!?」
自分でもわかるくらい、パーっと顔が明るくなりました。
それを見て、姉様は満足そうにしています。
取り敢えず、姉様が元気になって良かったです!
「あれ?ビーノ、もう元気になったの?」
「ええ。難しいこと考えたら、いつの間にか元気になってたの。サフィーのおかげでね。」
「えへへ~」
ビーノが、ひたすらサフィーを可愛がってる。
いつもの光景だ。
しかし、かなり落ち込んでいた割に、復活が早い。
難しいことも考えたと言っていたけど、いったい何を考えていたのやら…
「それでね、元気になったらお腹が空いてきたの。そろそろお昼どきでしょ?」
「そうですね。昼食を用意してもらいましょう。」
「私は、お肉が食べたいです!!」
「わかりました、伝えておきますね。」
ローケンは、近くの従業員に指示を送って、昼食の用意をさせる。
私も、温かいスープが欲しいって言っておけば良かった。
そう言えば、リン姉の好物って知らないような…
「リン姉って、食べ物だと何が好きなの?」
「私?私は…甘い物かな?」
「甘い物…リン姉って、意外と女子力高い?」
「私達が豪快すぎるだけじゃないですか?」
「確かに…」
私は…うん、大剣ぶん回して、敵を薙ぎ払いながら、屈強な男をぶった斬るような奴が、女子力高いわけがない。
…家事全般は、完璧レベルで出来るんだけどね?
サフィーは、普段静かで小動物みたいだ。
でも、お酒と肉が大好きで、私のことしか考えてないからなんとも言えない。
家事は普通に出来るけどね。
「あっ、でも、リン姉って家事できる?」
「やったことないから、分からないわ。まあ、多分出来ると思うけどね。」
流石リン姉、姉妹の中で何気に一番まともなだけはある。
だってさ、
長女→ザ・脳筋
次女→?
リン姉→普通
私→妹大好き(手を出した)
サフィー→姉を洗脳するほぼメンヘラ
こうして見ると、サフィーがいかにヤバい奴かわかる。
「どうしました?」
「いや、サフィーって結構ヤバい奴だなー、って」
「なっ!?酷くないですか!?」
いや、メンヘラなうえに、姉を洗脳するような妹だよ?
普通、何が何でもそんな妹から逃げると思う。
それを言ったら、私も妹に手を出したヤバい奴だけどさ。
「どうして私がヤバい奴なんですか!!」
「いや、姉を洗脳するような妹だよ?これをヤバい奴と言わずに、なんと言うの?」
「むぅ~…それなら、姉様だって私のことを洗脳してるじゃないですか!!」
「え?」
私がサフィーを洗脳?
そんなことした覚えはないんだけど…
「誰も頼れる人が居ない中で、一人救いの手を差し出して、ずっと味方だよなんて言い続けて…それって、軽い洗脳じゃないですか?」
「まあ、考え方次第ではそうなるけど…」
精神的に弱った奴を説得する。
それは、やり方によっては洗脳と変わらない。
かつてナ○スが、不景気に陥った国の国民から、強気の政策で支持を集めたり。
人生に疲れた社会人を宗教団体が勧誘したり。
私が、味方の居なくなったサフィーに、救いの手を差し出したり。
精神的に弱った者の説得は、時に洗脳になりうる危険な行為。
私も、無意識にサフィーを洗脳していたらしい。
「じゃあ、今の関係に不満があるの?」
「いえ、無いですけど…」
「それなら、問題ないでしょ?」
「そうじゃなくて!私だけヤバい奴みたいになるのは、嫌なのです!!」
「大丈夫、私も妹に手を出すヤバい奴だから。」
そう言って、サフィーの頭を撫でてあげると、サフィーは納得してくれた。
サフィーは昔、周りの人から見捨てられた。
弱気だった為に利用され、身体能力の低さから見捨てられた。
その時に、サフィーは心に深い傷を負った。
しかし、その心の傷を私が優しく覆ってあげた。
それから、サフィーは私について来るようになった。
私なら信用出来るから、私なら見捨てたりしないから。
そして、いつしか依存するようになっていた。
サフィーにとって、見捨てられるということはトラウマであり、二度と感じたくない苦痛だ。
そして、そのトラウマを覆い隠している私に見捨てられる。
それは、サフィーが一番恐れていること。
私に見捨てられたくない、その一心で私のことを洗脳し、深層心理に愛を焼き付けた。
「姉様?」
「ん?どうしたの?」
「いえ、何か深刻そうにしてたので…」
「大した事じゃないから安心して。」
そのせいか、私はサフィーが何をしても愛しく感じる。
そして、その事を疑いはしても、否定することはない。
だって、深層心理に焼き付いた愛は、私の個性になっているから。
個性を否定することは、自分自身を否定すること。
だから、この愛を否定することない。
「サフィー、蜂蜜食べる?」
「食べる!!」
私は、パンに蜂蜜を塗って、サフィーに食べさせてあげる。
美味しそうにパンを食べるサフィーを見て、私はまた満たされた。




