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交通事故にあった私、蜂になる  作者: カイン・フォーター
古代神殿と遥かなる旅の始まり
125/142

立ち直りの早いビーノ

もうすぐ話が一段落つきそうなので、交易都市を出たら、しばらく投稿ペースを落とします。

詳しく事は、また後日説明いたします。

「ビーノ姉様…」

「サフィー、今はそっとしておいてあげて。」


私は、ビーノに近づこうとするサフィーを止める。

今のビーノは、サフィーを傷付けてしまった事で、心に深い傷を負っている。

こればっかりは、どうすることも出来ない。


「リン姉様…ビーノ姉様を放置して大丈夫なのでしょうか?」

「仕方ないわ。今のビーノには触れないほうがいい。」

「側に居るだけでも、駄目ですか?」

「それは…まあ、側に居るくらいならいいんじゃない?」


私がそう言うと、サフィーはビーノのもとに走って行った。

実は、私も後悔している。

二人が本気で喧嘩するなんて珍しい、そう思って、二人を止めなかった事を。

私なら、あの状況で二人を止められたのに…


「はぁ…」

「お二人の様子はどうですか?」

「駄目ね。ビーノは完全に落ち込んで小さくなってるし、サフィーはそんなビーノを心配して動けない。あの時、私が止めていれば、こんな事にはならなかったのに…」

「リン様も後悔されているのですね…」


せっかく交易都市に戻ってきたのに、幸先が良くない。

これでは、二人をメリーという少女の元に連れていけない。


「ビーノ様が部屋に引き籠もるのは久しぶりですね。」

「え?前にもそんなことがあったの?」

「はい。あの時は、自分が何者なのか理解できなくなって恐怖していたからですが…」

「自分が何者か理解できない…精神誘導のことか…」


確かに、自分が何者なのか分からないというのは、かなり恐ろしい。

ビーノは、それに恐怖を覚えて引きこもったのか…


「その時は、どうやって解決したの?」

「サフィー様に喝を入れられて、元気になりましたね。」

「なるほどね、今回もそれが効くといいんだけど…」


しかし、今回はサフィーを愛し過ぎているからこそ、ビーノは落ち込んでいるんだ。

少し傷付けるくらいなら、サフィーが励ましせばなんとかなる。

けど、今回はサフィー頭にかなり深い傷が出来ていた。

一歩間違えれば、後遺症が出るほどの怪我。

それをしたのは、自分で、誰かに当たったり、サフィーを傷付けた相手を殺して、落ち着く事も出来ない。

あるのは、自分がやってしまったという責任感。

そして、後悔だ。


「サフィーに頑張ってもらうしかないわね。」

「そうですね。時間はかかるかも知れませんが、しばらく経てば、ビーノ様の心に傷も癒えるでしょうしね。」


私達は、サフィーがビーノを励ましてくれる事を祈ることにした。



















「…サフィー」

「なんですか?」


私が、姉様の隣に座ると、姉様が消えてしまいそうな声で話し掛けてきました。

私が返事をすると、姉様は抱きついてきて、私の背中を撫でています。


「ごめんなさい、姉様。」

「…サフィー?」


私が謝ったことで、姉様は不思議そうに声をかけてきました。


「私のせいで、姉様の心に深い傷が出来てしまいました。」

「そんなことない!!」

「っ!?」


私が謝ると、姉様は勢いよく顔をあげて、私の肩を掴み、怒鳴りました。

姉様の目は血走っていて、頬には涙の跡がありました。

しかし、その顔には、悲しみではなく、怒りの色が浮かんでいました。


「サフィーは悪くないわ。私がサフィーを突き飛ばしたから…」

「違いますよ。」

「え?」


私は、肩に置かれた手を退けて、その手を両手でしっかり握ります。


「確かに、私の頭の傷は、姉様がつけたものに違いはありませんよ。」

「だから…」

「しかし、姉様がここまで負い目に感じているのは、私が色欲で、姉様を歪めてしまったからなんです。」

「それは…」


私が、姉様に精神誘導をかけていなければ、姉様がここまで落ち込むことは、なかったでしょう。

つまり、姉様が落ち込んでいる原因は、わたしなのです。


「姉様、私は両方悪いと思ってます。」

「…私は、サフィーの体を傷付けて、サフィーは、私の心を傷付けた。」

「そうです。つい、カッとなって私を傷付けた姉様は、確かに悪いです。でも、その後に、姉様をここまで追い込んだのは、私の精神誘導のせいです。だから、私は姉様を傷付けている。」

「それで、サフィーも悪いと?」

「はい」


しかし、姉様は不満そうでした。

私だってそうです。

元々、どちらか一人を悪くするよりも、二人とも悪くして、苦しみを分かち合うほうがいいと考えて、私は両方が悪くなるように言いました。

しかし、姉様は私を悪者にしたくないのです。

私だって、姉様を悪者にしたくないです。

かと言って、どちらかを悪者にすれば、悪者にならなかったほうが不満を感じます。

だって、お互い悪者になってほしくないから。


「はぁ…倫理と感情は相触れないものね。」

「ですね。考えるのが、面倒くさくなってきました。」

「なんだか、深く考えすぎたせいで、お腹空いてきたわね。今は…ちょうどお昼頃ね。」

「お昼ごはんを貰いに行きましょう!!」

「そうね。温かいスープがあるといいんだけど…」

「私は、お肉が食べたいです!!」


んー、なんだかよく分からない理由で、姉様が元気になってるような…

きっと、私の励まし方が良かったに違いありません!!

そうだ!


「元気になった?お姉〜ちゃん!」

「…」


あれ?反応がない…

え〜!?恥ずかしいの我慢してやったのに〜!


「…」

「…姉様?」


ビーノ姉様の様子がおかしい。

…もしかして、私が可愛すぎて気絶しちゃった?

気絶は言い過ぎか…


「あのー、姉様?」

「…」


うん、フリーズしてる。


「…えい!」

「痛っ!?」


私は、筋力強化の魔法と身体強化を使って、姉様にデコピンしました。

力の加減を間違えたのか、姉様が頭を抱えて震えています。

…これ、怒られないよね?


「サフィー…」

「はっ、はい!!」


姉様が顔をあげました。

そして、ギロリと私を睨むと、


「後で覚えておきなさい。」

「はい…」


これは…息ができなくなるまで、くすぐられるパターンですね。

終わった…

あれ、結構…いや、かなり苦しいんですよ?

姉様に、嫌なお仕置きの方法を見つけられてしまいました。


「でも、さっきのあれは可愛かったわよ。」

「本当ですか!?」


自分でもわかるくらい、パーっと顔が明るくなりました。

それを見て、姉様は満足そうにしています。

取り敢えず、姉様が元気になって良かったです!


















「あれ?ビーノ、もう元気になったの?」

「ええ。難しいこと考えたら、いつの間にか元気になってたの。サフィーのおかげでね。」

「えへへ~」


ビーノが、ひたすらサフィーを可愛がってる。

いつもの光景だ。

しかし、かなり落ち込んでいた割に、復活が早い。

難しいことも考えたと言っていたけど、いったい何を考えていたのやら…


「それでね、元気になったらお腹が空いてきたの。そろそろお昼どきでしょ?」

「そうですね。昼食を用意してもらいましょう。」

「私は、お肉が食べたいです!!」

「わかりました、伝えておきますね。」


ローケンは、近くの従業員に指示を送って、昼食の用意をさせる。

私も、温かいスープが欲しいって言っておけば良かった。

そう言えば、リン姉の好物って知らないような…


「リン姉って、食べ物だと何が好きなの?」

「私?私は…甘い物かな?」

「甘い物…リン姉って、意外と女子力高い?」

「私達が豪快すぎるだけじゃないですか?」

「確かに…」


私は…うん、大剣ぶん回して、敵を薙ぎ払いながら、屈強な男をぶった斬るような奴が、女子力高いわけがない。

…家事全般は、完璧レベルで出来るんだけどね?

サフィーは、普段静かで小動物みたいだ。

でも、お酒と肉が大好きで、私のことしか考えてないからなんとも言えない。

家事は普通に出来るけどね。


「あっ、でも、リン姉って家事できる?」

「やったことないから、分からないわ。まあ、多分出来ると思うけどね。」


流石リン姉、姉妹の中で何気に一番まともなだけはある。

だってさ、

長女→ザ・脳筋

次女→?

リン姉→普通まとも

私→妹大好き(手を出した)

サフィー→姉を洗脳するほぼメンヘラ

こうして見ると、サフィーがいかにヤバい奴かわかる。


「どうしました?」

「いや、サフィーって結構ヤバい奴だなー、って」

「なっ!?酷くないですか!?」 


いや、メンヘラなうえに、姉を洗脳するような妹だよ?

普通、何が何でもそんな妹から逃げると思う。

それを言ったら、私も妹に手を出したヤバい奴だけどさ。


「どうして私がヤバい奴なんですか!!」

「いや、姉を洗脳するような妹だよ?これをヤバい奴と言わずに、なんと言うの?」

「むぅ~…それなら、姉様だって私のことを洗脳してるじゃないですか!!」

「え?」


私がサフィーを洗脳?

そんなことした覚えはないんだけど…


「誰も頼れる人が居ない中で、一人救いの手を差し出して、ずっと味方だよなんて言い続けて…それって、軽い洗脳じゃないですか?」

「まあ、考え方次第ではそうなるけど…」


精神的に弱った奴を説得する。

それは、やり方によっては洗脳と変わらない。

かつてナ○スが、不景気に陥った国の国民から、強気の政策で支持を集めたり。

人生に疲れた社会人を宗教団体が勧誘したり。

私が、味方の居なくなったサフィーに、救いの手を差し出したり。

精神的に弱った者の説得は、時に洗脳になりうる危険な行為。

私も、無意識にサフィーを洗脳していたらしい。


「じゃあ、今の関係に不満があるの?」

「いえ、無いですけど…」

「それなら、問題ないでしょ?」

「そうじゃなくて!私だけヤバい奴みたいになるのは、嫌なのです!!」

「大丈夫、私も妹に手を出すヤバい奴だから。」


そう言って、サフィーの頭を撫でてあげると、サフィーは納得してくれた。

サフィーは昔、周りの人から見捨てられた。

弱気だった為に利用され、身体能力の低さから見捨てられた。

その時に、サフィーは心に深い傷を負った。

しかし、その心の傷を私が優しく覆ってあげた。

それから、サフィーは私について来るようになった。

私なら信用出来るから、私なら見捨てたりしないから。

そして、いつしか依存するようになっていた。

サフィーにとって、見捨てられるということはトラウマであり、二度と感じたくない苦痛だ。

そして、そのトラウマを覆い隠している私に見捨てられる。

それは、サフィーが一番恐れていること。

私に見捨てられたくない、その一心で私のことを洗脳し、深層心理に愛を焼き付けた。


「姉様?」

「ん?どうしたの?」

「いえ、何か深刻そうにしてたので…」

「大した事じゃないから安心して。」


そのせいか、私はサフィーが何をしても愛しく感じる。

そして、その事を疑いはしても、否定することはない。

だって、深層心理に焼き付いた愛は、私の個性になっているから。

個性を否定することは、自分自身を否定すること。

だから、この愛を否定することない。


「サフィー、蜂蜜食べる?」

「食べる!!」


私は、パンに蜂蜜を塗って、サフィーに食べさせてあげる。

美味しそうにパンを食べるサフィーを見て、私はまた満たされた。



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