交易都市のギルドにて
冒険者ギルド
「ん?おい!あれ見ろよ!!」
「どうし…あっ!?」
「帰ってきたのか…」
フードをとったのがいけなかったのか、あっという間に気付かれた。
そして、尊敬や畏怖の念があちこちから向けられる。
尊敬は主に私に、畏怖はサフィーに。
まあ、サフィーがやった事を考えると妥当か…
「はぁ…うるさい奴等ですね。」
「やめなさいサフィー。余計なことは、言わないようにしなさいよ?」
「わかってますよ。これでも、私達はこの街の英雄なんですから。理想の英雄像を演じる事くらい、私にだって出来ますよ。」
サフィーは、不満そうに言い返してきた。
サフィーだって馬鹿じゃないし、前世では天才と言われるような頭脳の持ち主だった。
当然、私には遠く及ばないけどね?
「あとで、沢山かまってあげるから怒らないでね?」
「はいはい。姉様はいつもそうやって私を釣ろうとしますよね?」
「…記憶が戻ってから、ずいぶんと生意気になったわね。」
「私は、対等な立場で、姉様と愛し合いたいんです。自分の意見は、はっきり言いますよ?」
自分の意見をはっきり?
「それは、他人にも?」
「…ずるいですよ?」
「ごめんごめん。ちょっと意地悪したかっただけなの。許して?」
「いいですよ?でも、その分たっぷりかまってくださいね?」
「いいよ。いつもみたいに甘えに来なさい。」
イチャついている間に、受付まで来ていた。
私は、気持ちを切り替えて前を向く。
「ようこそ冒険者ギルドへ。早速で申し訳ありませんが、ギルド長が会いたいと言っておりまして…」
「ハーウェイが?別にいいけど?」
「ありがとうございます。では、案内させていただきます。」
私達は、受付嬢に連れられて、ハーウェイの部屋に向かう。
ここを通るのも久しぶりね。
私は、なんだか新鮮な気持ちになりながら、通路を見渡す。
すると、見慣れない絵が飾られていた。
「これは?」
「ああ、その絵ですか?ビーノ様の魔族との戦いを聞いた画家が、様々な人の話を聞きながら描かれた絵です。」
「つまり、私の絵なのね…」
その絵には、顔こそあまり描かれていないが、大量の魔物と、それを引き連れる魔族に立ち向かう私が描かれていた。
なんと言うか…この画家はいったい誰から話を聞いたのやら…
何度も言うが、私は一人で魔物と魔族を相手したわけじゃないからね?
「ご不満ですか?」
「ええ。私は、一人で魔物と魔族を相手したわけじゃないの。私が戦ったのは魔族だけだよ。…多少の魔物は蹴散らしてるかもだけど…」
「そうだったのですか?私はてっきりビーノ様が一人で倒したものだと…」
「私は、そんな化け物みたいな力は持ってないよ。」
不味いな、勘違いがどんどん広まってる。
このままだと、私がとんでもない実力者だと誤解されそう…
…既にされてるか。
「はぁ…」
「大丈夫ですか?」
ため息をつく私を見て、サフィーが心配してくれる。
「ありがとうサフィー。私は大丈夫よ。」
「そうですか?疲れたらいつでも言ってくださいね?」
その時は、サフィーが私のことを甘やかしてくれるだろう。
はぁ…どうせなら、今日一日サフィーに甘えてようかな?
そのためにも、早く用事を終わらせないと!!
「失礼します。ビーノ様達をお連れしました。」
「入ってくれ。」
中からハーウェイの声がする。
受付嬢が、扉を開けて私達に入るよう促してくる。
私を先頭にして部屋の中に入る。
「久しぶりね。二、三ヶ月ぶりかな?」
部屋の中には、ハーフエルフの男性、ハーウェイがいた。
「そうだな。古代神殿には行けたのか?」
「ええ。とても良い収穫があったわ。」
謎だった私の前世と、妹との再会。
これ以上ないくらいの収穫だ。
…お宝は最後まで見つからなかったけどね?
「自分が何者だったのかわかったのか?」
「ええ。それに、前世で失った愛する妹も見つけたわ。」
「それは…どういうことだ?」
私は、サフィーが、前世の私の妹、菜々の生まれ変わりであることを話した。
「そうか…謎が解けたうえに、妹とも再会出来たのか。」
「そうよ。私の愛する妹は二人とも同じだった。これで、浮気したと二人から殺されることはなくなったわ。」
「もっとも、ビーノ姉様の浮気性は治ってないようですが。」
サフィーに冷たい視線を向けられて、身震いをする。
浮気すると、本当にサフィーに殺されそうだから、絶対しない。
私を殺せなくても、相手を殺しに行く事は確かだ。
「そうか…あー、恋愛事情には触れないでおこう。何が飛び出してくるかわからないからな。」
「そう言えば、最近姉様と喧嘩することが増えました。」
「そうなのか?」
「そうね。サフィーも私やリン姉に対しては、意見を言えるようになったから、それで喧嘩することが増えたのよね。」
意見を言えるようになったけど、自分の意見が一番だと考えてる節があるからね。
否定されると、癇癪を起こしかねないから、やんわり否定してる。
そのせいで、喧嘩になることが増えた。
まあ、私が相手ならすぐに仲直りするし、リン姉が相手でもすぐに忘れて普通に話してる。
だから、そこまで困ってない。
「それは、大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。喧嘩してる時のほうがイチャついてるからね。すぐに仲直りしてるんだよ。」
ハーウェイは、確認を取るようにリン姉の方を見る。
「そうね。お互い無言で顔を合わせないけど、ぴったりくっついてイチャついてるから、すぐに仲直りしてるの。」
「それは…喧嘩なのか?」
「この二人は、喧嘩が出来ない姉妹だからね。喧嘩というよりは、ちょっと怒ってるだけなのよ。」
見ればわかるんだけど、私とサフィーはずーっと一緒にいるから、なかなか喧嘩することがないんだよね。
いつものあれは、喧嘩というよりお互い怒ってるだけで、本気で喧嘩したことはない。
「まあ、元気そうで良かった。」
「そうだ!!あの廊下にあった絵。あれ、いくらで買ったの?」
「廊下の絵?ああ、ビーノの絵か。あれは貰い物だから金は出してないぞ?」
「貰い物?」
あんなに立派な絵が?
「何でも、画家が納得出来なかったらしい。」
「あれで?」
「そうだ。それで、いらないからあげるよと譲り受けてな、それからあそこに飾ってあるんだ。」
「ふ〜ん、あれで納得出来ないのか…」
絵か…私も描こうかな?
前世じゃあ、世界的な名画として飾られる物を、四、五歳から描いてたから、こっちでもできるでしょ?
「それで?要件は何かしら?」
「これを受け取って欲しいんだ。」
そう言ってハーウェイが差し出してきた物は、小さな箱だった。
「開けていいの?」
「ああ、もちろんだ。」
私は、受け取った箱を開いてみる。
「これは…何?」
「知らないか…これは、『ポッポロ』というお菓子で、中にベリーソースが入った、カップケーキみたいな物だ。」
「なるほどね…」
「これは、この辺りでは余り作られていない、『コメ』と呼ばれる穀物の粉を使用しているんだ。」
コメ…米か?
となると、これを作ったのは勇者かな?
にしても、贅沢なことしてるね。
材料は、ベリー、砂糖、米粉、卵辺りは確実に使ってるはず。
そして、砂糖と卵は値段が高い。
更には、米粉はこの辺りでは、稲作がほとんど行われてないだろうから、輸入しないといけない。
となると、また値段が高い。
ベリーは、大した事はないだろうけど、ベリーソースには大量の砂糖が使われてるだろうから、こいつも値段が高い。
つまり、この『ポッポロ』というお菓子、贅沢の塊だ。
ギルマスの財力で手に入れたのか?
「食べていいの?」
「もちろんだ。3人で食べてくれ。」
「そうね、じゃあ3等分するから、ちょっと待っててね。」
私は、空間収納からナイフを取り出して、ポッポロを3等分する。
そして、一口食べてみる。
「うん!!美味しいじゃない!!」
「本当ですね!!」
「思ったより甘さ控えめね。でも、これがいいわね~」
「あー、そうだな…」
ん?
何かあるんだろうか?
「どうしたの?」
「実は、コスト削減のために、砂糖の量を普通の三分の一減らしてるんだ…」
「なるほどね…それで、甘さ控えめなのね。」
でも、私もこれくらいのほうがいいわね。
リン姉も同じみたいだし。
サフィーは…
「私はもっと甘い方がいいです!!」
「もっと?糖尿病になるわよ?」
「トウニョウビョウ?」
「知ってるでしょ?とぼけないの。」
「チッ」
ふ〜ん?あっそう。
私は、サフィーの手からポッポロを奪い取ると、そのまま食べた。
「なんてことするんですか!?」
「サフィーは、もっと甘い方がいいんでしょ?なら、これは食べなくてもいいわよね?」
「そうですか…」
サフィーは、私のことを殺意のこもった目で、睨みつけている。
すると、私の髪を掴んで引っ張ってきた。
「痛い痛い痛い痛い!!」
「姉様が悪いんですよ!」
「はあ!?サフィーが余計なことを言うからでしょ?責任転嫁しないの!」
リン姉は、私達のことを無視して紅茶を飲んでいるが、ハーウェイはオロオロしている。
「これが…ちょっと怒ってるだけなのか?」
「いや、普通の喧嘩ね。放っておいても、そのうち仲直りするから大丈夫よ。」
「いいのか?結構な大喧嘩だと思うんだが…」
「大丈夫。」
その間、私はサフィーの頬を引っ張っていた。
サフィーは、私の怪力に涙を流しながらも、私の頭に噛み付いてきた。
「いっ!?」
「う〜!!」
「くう〜!馬鹿サフィー!!」
「ぎゃあ!?」
私は、勢い余ってサフィーを突き飛ばしてしまった。
サフィーは、大きな音を立てて頭から倒れ込む。
そして、その先に机があったのだ。
「痛っ!?」
サフィーは、机の角に勢いよく頭をぶつけてしまった。
「サフィー!?」
「痛い…姉様、なんで…」
「ごめんなさい、そんなつもりじゃなかったの…ごめんなさい…」
サフィーは、頭から血を流していた。
血の気が引くと言うけど、まさにそんな感じだった。
「すぐに治してあげるからね!」
「姉様…」
私は、傷口に回復魔法が掛けようと、サフィーを動かす。
「っ!?」
そして、思わず息を呑んでしまった。
傷口が、予想以上に深かったのだ…
もしかしたら、骨が欠けているかも知れない…
「どうしたの、ですか?」
「なんでもないわ…」
「そうですか…」
私は、慎重に回復魔法を使う。
共鳴は使えない。
もし、共鳴を使えば私の見たものがサフィーにバレてしまう。
知らぬが仏。こんなものをサフィーに見せるわけにはいかない。
「ビーノ…」
「大丈夫。幸い、サフィーに回復魔法を習ったばかりだから。」
つい最近、サフィーがいない状態でも回復魔法を使えるようにと、サフィーから回復魔法を教わっていたのだ。
私は、それ使って治療を進める。
「姉様…凄い汗…」
集中すると、汗が出てくる。
オペを済ませた医者が、汗まみれなのも納得出来る。
緊張で冷や汗が止まらない。
「大丈夫よ。もうほとんど終わっわてるから…」
噓だ
まだ、3割程度しか終わっていない。
でも、サフィーが弱気にならないのように、励ましてあげる。
すると、リン姉が手を私の手に絡ませてきた。
「手伝ってあげるわ。落ち着いて。」
「ありがとう、リン姉。」
リン姉が、回復魔法の演算をしてくれている。
これで、私は回復魔法を制御するだけでいい。
心做しか、傷の回復が早くなった気がした。
「大丈夫、大丈夫よサフィー。すぐに終わるからね。」
そう、サフィーに言い聞かせているが、それはサフィーへと言うよりは、自分に言っているようだった。
その後、何事もなくサフィーの治療を終えたが、私は、緊張が解けて倒れてしまった。




