四至宝
「それで?『四至宝』ってどんな物なの?」
神々の道具なんて言われてるんだ、きっとすごいものに違いない。
「『四至宝』とは、古代神殿にて発見された、『宝具』と呼ばれる所有者に神にも勝る力を与えると言われる、魔導具の究極系です。」
「魔導具の究極系…」
「何でも、世界の理を無視した戦いが出来るようになると言われ、その力は絶大で他の追随を許さないんだとか。」
世界の理を無視した戦いができる?
つまり、物理法則とかを完全に無視した事が出来るってこと?
それって、チートとかのレベルじゃないよね?
「世界の理を無視したってのは?」
「これは、勇者様がおっしゃっていたことだそうですが、とある宝具を使った時、エネルギーが完全消滅したとか…これがどういう事かわかりますか?」
「エネルギーの完全消滅…まさか、比喩じゃなくて、ほんとに“消滅”したの!?」
だとしたら納得がいく。
エネルギー保存の法則を無視している。
例えば、石油を燃やして電気を作る、火力発電をイメージに使おう。
まずは、石油を燃やして熱エネルギーを発生させて、水を沸騰させる。
次に、水を沸騰させて出来た水蒸気でタービンを動かす。
すると、タービンが回転して電気エネルギーが生まれる。
それを電線を伝って家庭や工場等へ送られる。
その最中にいくらかの電気エネルギーは熱エネルギーに変わってしまう。
そして、家庭まで行き着いた電気を、扇風機に使ったとする。
すると、電気でモーターが回転する、つまり、運動エネルギーに変換されているのだ。
この過程で、エネルギーは何度も姿を変えているが、エネルギーの総量は変わらない。
これがエネルギー保存の法則だ。
「けれど、完全な消滅…エネルギーが無に帰している。」
宝具に何らかのエネルギーを加えたとき、何かしらのエネルギーへ変換されるのではなく、消滅している。
これがエネルギー保存の法則を無視した宝具の力。
やっぱり、チートなんてレベルじゃない。
チートとは、不正行為や本来無いはずの力を使うこと。
例えば、攻撃力が通常なら十のとき、チートを使うと百や千にできる。
通常の体力が百のとき、チートを使うと千や万にできる。
チートのことを裏ワザと思っている人が居るようだけど、チートはれっきとした不正行為だ。
転生チートというのはよくあるが、世界の常識を逸脱した力だからこそ、転生チートと呼ばれるんだ。
けど、宝具は違う。
チートは、ルールの範囲内で不正行為をすること。
宝具は、ルールそのものを改変してしまう。
オセロで例えてみよう。
チートとは、オセロで2回駒を置けるようなものだ。
或いは、最初から角を取っているとか。
しかし、それは不正行為だが、一応オセロをしている。
だが、宝具は違う。
宝具は、オセロをやっていたのに、急に将棋やチェスに変わるというイメージだ。
チートは、そのゲーム内で不正行為をすること。
宝具は、ゲームそのものを変えてしまうこと。
まるで違うのだ。
「とんでもない力を秘めてるのね…『四至宝』と呼ばれるのも納得だわ。」
これが、どれほどイカれた力なのか、3人にも教えてあげた。
「不正行為すら凌駕するとんでもない力…」
「ビーノ姉様が驚愕するのも納得ですね。」
「これってつまり、常に自分に有利な状況で戦えるってこと?」
流石リン姉、飲み込みが早い。
でも、
「有利なんてレベルじゃないわ。自分が絶対に勝てる状況を作り出すことが出来るのよ。理論上、赤子が神を一方的に殺せるわ。」
「よくそんな物があって、世界が滅びなかったわね…」
まったくもって、その通りね。
世界の在り方を根底から覆すような道具があるのに、よくこの世界は滅びなかったものだ。
「『四至宝』は、使える者が限られているそうなので、使用される事が殆ど無かったんだと思いますよ?」
「なるほどね。」
とは言え、世界を滅ぼしかねない道具であることに変わりはない。
ろくな事を考えない奴に渡らないといいけど…
「それで、『四至宝』って言われるくらいなんだから、4つあるのよね?」
「はい。『四至宝』についてまだ話してませんでしたね。」
さっきまでは、宝具とその能力について話してたからね。
『四至宝』どんなものか楽しみだ。
「では、まずはこれからにしましょうか。」
そう言って、ローケンは紙を取り出した。
そこには、一本の剣が描かれていた。
「これは、『龍王の剣』と呼ばれる至宝で、龍の模様が描かれていたり、持ち手が鱗のようであったり、何かと龍をイメージした至宝だそうです。」
「龍をイメージした剣ね?それにはどんな効果があるの?」
「あらゆるものを切り裂き、その断面は触ると氷のように滑るほど綺麗な断面だそうです。」
なるほどね、何でも切れる剣って事か…
それに、びっくりするほど綺麗に切れるという特徴もあるのかな?
もしかして、原子切断とかじゃないよね?
原子は、破壊できないわけじゃないんだよ?
壊そうと思えば理論上壊せるからね。
でも、原子一個破壊するのに、一体どれだけのエネルギーを使うと思ってるのか…
…普通に有り得そうなのが怖い。
「また、他の至宝の守りを貫通することが出来るそうですよ」
「守りを貫通…なるほどね、本質は理を斬る事に、あるのか。」
「そのようですね。」
理を斬るって事は、あらゆる防御が意味をなさない事になる。
あらゆる物を切り裂くというのは、理ごと断ち切ってるからで、物理法則とかその他の法則も切られてる。
もっと分かりやすく言うなら、全てを切ることが出来る法則を作り出してるようなもの。
防ぐ方法はただ一つ、同じように理を操る力を使うこと。
けど、それは扱いに慣れてないと、操った理ごと断ち切られる。
「『龍王の剣』が一番強いんじゃないの?」
「そうですね。他の至宝を貫く事が出来るようですし、逆に他の至宝の攻撃は防ぐ事が出来るんじゃないでしょうか?」
「『攻撃は最大の防御』とは、よく言ったものね。」
これを聞いた後だと、他の至宝がショボく感じるんじゃないかな?
まあ、取り敢えず聞いておこう。
「次はこれですね。」
今度は、やたら豪華な盾が描かれていた。
「これは、『護王の盾』と呼ばれる至宝です。『龍王の剣』以外ならどんな攻撃も防ぐ事が出来るそうです。もちろん、他の至宝の攻撃も。」
「やっぱり『龍王の剣』の方が強いのね…」
「あの剣は至宝の中でも別格なんですよ…」
四至宝と言うより、至宝剣とかにしたほうがいいんじゃ…
「とにかく!『護王の盾』は全ての攻撃を防げるんです!」
「はいはい。どうせ、壊れない法則とか、動きを止める法則が組み込まれてるんだよね。」
至宝も、仕組みが分かってしまうと大したことないね。
…効果はえげつないんだけどね?
「次はこれです。」
「ペンダント?」
「そうです。『保存の首飾り』と呼ばれる至宝です。」
保存?一体何を保存する首飾りなんだろうか?
「この首飾りには、収納限界が無いんです。つまり、いくらでも詰め込めます。」
「ふ〜ん?で?」
「それだけじゃないんですよ?この中には魔力を保存することもできて、使わない魔力を入れて必要なときに使えるように出来るんです。」
「それは便利ね。だから?」
正直しょぼい。
まだ何かしら能力があるんだろうけど、さっきの2つに見劣りするね。
「後は、生き物を収納出来たり、収納した物の時間の流れを弄ったり、後は…」
「魔力を収納出来るのが一番いい所かな?」
「そうでした!!収納した魔力は、首飾りの中で増え続けるんです!!」
「は?」
魔力が首飾りの中で増え続ける?
魔力って言うのは、精神力や思考力といった意志の塊だ。
少しでも意志を持つ存在なら、例え雑草でも魔力を持っている。
つまり、魔力が増え続けるのは、その存在が生き続ける限り起こることなのだ。
しかし、意志を持たないはずの首飾りの中で、魔力が増え続ける。
つまり、首飾りに意志を持った魂が存在している事になる。
「それってつまり、その首飾りには誰かの命が使われてるってことじゃない。とんでもない道具ね。」
「それが、あの首飾りには魂が無いらしいのです。」
「は?」
魂が無いのに、魔力が増え続けるの?
おかしくない?
…そうか、そういう事か。
「魔力を増幅させる法則か何かが存在しているのね。それなら、機械のように魔力を増やすことが出来るしね。」
「なるほど、やっぱりビーノ姉様は天才ですね!」
「どうしたのサフィー?急に、そんな事言い出して…」
「いえ、誰も何も言わないので、私だけでも励ましてあげようと…」
サフィー、それ逆効果なのよ。
お情けで褒められるのが、一番キツイの。
でも、サフィーは可愛いから私のやる気を漲らせてくれる。
「ありがとう、サフィー。貴女のおかげで、私はとっても元気になったわ。」
「えへへ〜」
「流石の愛ですね…」
「ここまで来ると、もう不眠不休でも、サフィーがいれば生きていけるんじゃないかしら?」
外野がなんか言ってるけど気にしない。
私達の愛は、誰にも邪魔させない。
邪魔しようものなら、二人で生まれてきたことを後悔するような、拷も、ゲフンゲフン!!お仕置きをしてあげないと。
「さて、再開しますよ?」
「サフィーを可愛がりながら聞くから、始めて。」
「ハァ…次はこれです。」
ローケンが出してきた絵には、二つの指輪?が描かれていた。
「これは、『最愛の指輪』と言って、愛する者同士が着けると、二人が一緒である限り、決して外れることはありません。」
「「これ欲しい!!」」
「言うと思いましたよ…」
こんなの、私とサフィーのためにあるような宝具じゃない。
なんとしてでも手に入れる!!
「ちなみに、心の底から愛し合っていない者が着けると、お互いの指が弾け飛ぶそうですよ?」
「ふ〜ん?」
「へぇ〜?」
「な、なんですか…?」
ローケン、余計なこと言ったね。
さて、どうしてくれようか…
「ローケン、それは不味いわ。まるで、二人が本気で愛し合ってないみたいな言い方じゃない。」
「あ…」
「気付きました〜?」
「もう遅いけどね~」
ローケンの顔が、真っ青どころか、真っ白になっていく。
そこでリン姉が助け舟を出す。
「やめなさい。それは、恩を仇で返す行為よ?」
「そうですね、やめておきます。…命拾いしましたね?」
「リン姉に感謝することね。」
「やめなさい!!」
また怒られたけど、まったく気にしてない。
私達は、リン姉を無視してお互いの体を触り始めた。
「ハァ…それでローケン、他に効果はないの?」
「ありますよ。まずは、お互いの思考を好きなときに覗けるようになることですね。」
「思考が筒抜けになるのね。」
「次は、片方が受けたダメージを、もう片方が肩代わりするというものです。あの二人には、最高の相性の効果ですね。」
なるほどね、私がサフィーのダメージを肩代わりして、再生とサフィーの回復魔法で傷を癒やす。
これなら、サフィーが怪我をせずに済む。
素晴らしい効果だね。
ますます欲しくなってきたわね。
「他には、どちらかが死んでも、もう片方が生きていれば何度でも蘇る事が出来るらしいですよ?」
「なんか、中ボスにありそうな能力ね。」
「後は、愛の強さに応じて、あらゆる攻撃を防ぐ結界とか、愛の強さに応じて、力が増すとか…」
「本当に私とサフィーのためにあるような宝具ね。絶対見つけて、私達の物にするわ。」
誰が持ってるのか知らないけど、それは私達の物だから。
快く渡してほしいね。
「ビーノ姉様、もっと私で遊んでくれていいんですよ?」
「そう?じゃあ、このままずっと抱きかかえてるね。」
ああ、早く『最愛の指輪』が欲しいな〜。




