古代神殿に向かって
翌朝
「で?結局甘やかしてるじゃない。」
朝からイチャついてる私達を見て、リン姉が呆れている。
「やっぱり、無理に厳しくするよりも、優しく甘やかしながら教えてあげたほうがいいって思ったの。」
「私はビーノ姉様に甘やかしてもらって、ビーノ姉様は私が甘えてくるので、お互い良いことしかないんです。」
「私は苦労しかしないけどね?」
どうやら、この方法でリン姉は損をするらしい。
昨日は絶対無理だとか言ってたのに、いざ辞めたらこの反応。
結局、どうして欲しいんだか…
「ところで、昨日の男は何だったの?」
「あー…今から説明するね。」
私は、魔神教について、リン姉にわかっていることを話た。
「そんなにヤバい連中なのね…」
「それで、昨日のアイツの階級は何だったのですか?」
「おそらく『教祖』」
「なっ!?」
魔神本人なのでは?と言われる程の力を持ち、神に勝ったという伝説があるくらいだ。
関わらないほうがいい。
「本当なんですか?」
「ペンダントの色は赤だったわ。」
「偽物という可能性は?」
「魔神教のペンダントは、偽物を作れないらしいわ。」
『使徒』が作成する特別製の物だから、偽物を使ってると本物の魔神教に粛清されるだろうね。
にしても、どうして『教祖』が下級竜なんかを使役してたんだろう?
上位竜でも簡単に使役出来そうだけど…
「あまり深く考えない方がいっか。」
相手は、魔神教の教祖。
下手に突いて殺されるくらいなら、何もしない方がいい。
「おはようございます。今日も仲が良さそうですね。」
一仕事終えたローケンが帰ってきた。
私達が起きる、ずっと前から仕事に出ていたらしい。
商人も大変だね。
「今日は、古代神殿に向うつもりなんですが…どうしますか?」
「もちろん行くわ。というか、どうしてそこで行かないなんて選択が出てくるの?」
「…外を見てないんですか?」
私は窓の外を覗いてみた。
外は、台風のような大雨だった。
「…どうして、今日行こうと思ったの?」
「ビーノ様が神殿で何を仕出かすか分からないので、人がいなそうな今日にしました。」
「私を何だと思ってるのよ…」
確かに、サフィーに何かあったら自分でも何仕出かすか分からない。
だからって、本人に向かってそれを言うのは失礼極まりないと思うんだけど?
「ビーノ、貴女を連れて行くなら、夜か今日みたいな人が来なそうな時じゃないと…ね?」
「そうですね。もしかしたら、神殿を吹き飛ばすかも知れないじゃないですか…」
「嬢ちゃんなら、それくらいしてもおかしくないな。」
「もしかしなくても、私バカにされてる?」
「「「「別に?」」」」
「絶対ウソね!」
揃いも揃って、私を何だと思ってるのかしら?
それに、神殿を吹き飛ばすって、それもう歩く災害なのよ…
…出来ないこともないかも。
「分かったわ。そこまで言うなら、今日行きましょう。今日!!」
「ビーノ姉様…どうしてそんなに怒ってるのですか?」
「サフィー、貴女気は確かかしら?」
というか、どうして皆してそんな『信じられない』みたいな顔するのよ。
何?私いじめられてるの?
「これ以上すると、ビーノ姉様が拗ねちゃいそうですね。」
「ちょっとサフィー?貴女、悪意があってこんなことしたの?」
「そうですね。」
「分かったわ、じゃあその喧嘩買ってあげる。」
私は、サフィーの頬を引っ張って、ビヨーンと伸ばす。
「痛い痛い痛い痛い!!」
「サフィー、貴女ちょっと太ったんじゃないの?」
「なっ!?酷いじゃないですか!!私のモチモチのほっぺを引っ張っておいて、太ったなんて!!」
「自分でモチモチって言うのね…」
サフィーがポカポカと私の体を殴ってくる。
可愛らしいけど、人外の筋力があるから普通に痛い。
「姉様、また胸が減ったんじゃないですか?」
「はあ!?そんなわけないでしょう?サフィーの勘違いよ!勘違い!!」
「貧乳姉様…」
「だまらっしゃい!!」
…もっと、カロリーの高い物を食べないと、本当に胸が無くなるんじゃ…
いやいやいや!きっと、サフィーの勘違いよ!
…一応、お菓子でも買っておこう。
「サフィー、やっぱり貴女太ったんじゃないの?」
「そうですか。なら運動のためにも、私のサンドバッグになってくださいよ?」
「その程度で痩せるのかしら?」
「痩せますよ。それに、姉様も私に殴られて、貧相な胸も腫れ上がって大きくなるんじゃないですか?」
「私の胸は、貧相じゃないわ。肥満サフィー?」
「痣だらけにしてあげるので、動かないでくださいね?貧乳姉様?」
久しぶりに、マジな喧嘩になるかも知れない。
普段は、癇癪を起こしたサフィーを私が叱って起こるけど、今回は普通に罵り合って喧嘩してるからね。
と言っても、サフィーは私の傍を離れないだろうし、私もサフィーを殴ったりはしない。
ちょっと険悪ムードになるだけで、普段とあんまり変わらない。
「大丈夫でしょうか?」
「そのうち、忘れてイチャつきだすわよ。放っておきましょう。」
「そうですね。」
リン姉やローケンは、もう慣れたらしい。
私達がちょっとしたことで喧嘩するのは、いつものことだからね。
既に、サフィーは私の膝に座ってきてるしね。
私も、視線は外してるけどサフィーの頭を撫でてあげてる。
「この調子なら、明日には仲直りしてそうね。」
「ですね。」
相変わらず、私達は喧嘩の出来ない姉妹らしい。
正午
「晴れてきましたね。」
「そうね…………出発するとか言わないよね?」
「しましょうか。」
「…泥道の中を?」
旅の中で、雨が降ったことがあった。
その時は、道が泥だらけで、何度もぬかるみに足を取られていた。
「神殿までは舗装されているそうなので、大丈夫だと思いますよ?」
「そう?なら安心ね。」
「姉様〜もう少し右です〜」
「ここね?ふん!!」
「ふあ〜!!」
私は今、暇だったからサフィーにマッサージをしてる。
仲直り?いつの間にかしてたよ?
やっぱり私達は喧嘩の出来ない姉妹だったよ。
「それでは、馬車で待ってますね。」
「私も先に行くわ。ビーノ、早めに終わらせてね?」
「わかってるよ~」
サフィーが満足するまで続けてると、なかなか終わらない気がするから、もう少しだけしたら馬車に行こう。
にしても、やっぱりサフィーの体は贅肉が増えたような…
「姉様、今私が太ったって思いませんでした?」
「え?どうしたの急に。」
「…そうですか、気にしないでください。私の気のせいだったみたいなので。」
あっぶねー!!
やっぱり、サフィーは勘が鋭すぎる。
もはや、テレパシーの領域なのよ…
「ごめんなさい、サフィー。さっき嘘ついたの。」
「ですよね?偉いですよ、ちゃんと正直に話してくれて。」
「許してほしいとは言わないけど、リン姉には言わないでね?」
「そんなことしませんよ。変わりに、後でお仕置きしてあげますね。」
サフィーのお仕置きは、大体私を独占したいがためのものだ。
だって、お仕置きの話をする時は、いつも私が他の人…主に女に色目を使った時だから。
ちょっと、可愛いな〜って思うだけでも、サフィーは怒ってしまう。
その時に、いつもお仕置きと言って、私を独占しようとする。
「今日は、何をすればいいの?」
「ん〜?神殿に着くまで、一回も私を離さないでください。」
「つまり、ずっと抱きしめてあげればいいのね?」
「はい。」
それなら、いつもしてるのに…
確かに、ずっとではないけれど、いつもサフィーを抱きしめてあげてる。
それでも足りないなんて、本当にサフィーは甘えん坊なんだから。
「さて、そろそろリン姉達が待ってるだろうから、行きましょう。」
「わかりました。じゃあ、お姫様抱っこして連れて行ってください。」
「もう始めるのね…」
私は、サフィーを抱きかかえて馬車に向った。
「あれが…」
ちらほらと、建物の残骸が見え始めた頃、遠くに大きな建物が見えた。
神殿というだけあって、かなり大きい。
見た感じ、五階くらいはありそうだ。
「記録では、五百年以上前から存在しているようですが、あれ程立派な神殿が、いつ、誰に、どのような理由で建てられたのかは不明だそうです。」
「不思議ね。五百年以上前の建物が、こんなに綺麗に残ってるのに、何一つわかっていないなんて…」
「祀られている神が何かすら、わかっていないそうですからね。」
古代神殿が祀る神。
これ程立派な神殿に祀られている神なのだ。
きっと、主神くらいにすごい神か、全ての神を祀っているかだろうね。
「古代神殿では、どんなお宝が見つかっているの?」
「お宝ですか?『四至宝』のことですか?」
「『四至宝』?それは、どんなものなの?」
至宝って、つくくらいだ。
とんでもないお宝なんだろう。
「神々の道具とも言われる、とんでもない力を秘めた、神器だそうです。かつて、勇者召喚によって呼び出された、伝説の工匠でさえ、何一つ模倣することが出来なかったそうです。」
「そんなに…」
「その時、工匠が残した言葉が、『世の中には、人が決して触れていけない領域がある。身の程を弁えぬ愚か者は、そこへ土足で踏み込み、身を滅ぼす事になるだろう。』と。」
「人に、身の程を弁えろと言いたかったのね。」
「それから、至宝を模倣しようとする動きは衰退していきました。」
当然だ。
伝説の工匠がそんなことを言うんだ、触れない方がいい。
しかし、それほどの物か『四至宝』
ますます気になってきたね。




