衝撃と騒がしい二人
古代神殿の街ピペリ
「古代神殿の街ねえ?」
「ただの商売文句ですね。」
「古臭く見せただけの、普通の街ね。」
宿についた私達は、辛口な評価をしていた。
だって、『古代神殿の街』なんて呼ばれてるのに、古代の建造物はおろか、神殿すらない。
ただ、無駄に教会は多かったけど…
「かわいい見習いシスターまで商売のことしか頭になかったからね。」
「…ゴホン」
「ごめんなさい、許して。」
来る途中、一度教会に寄っていた。
よく、イメージする異世界の宗教というと、女神を信仰しているイメージがあるけど、全然そんなことない。
多神教で、守護神を筆頭に、世界を守護する神々を信仰しているという感じだ。
宗教の特徴としては、個人の力を重視していて、己の心身を鍛え、得た力を正しく使う。
そう、見習いの八歳くらいのシスターが言ってた。
「ビーノ、貴女ロリコンだったのね…だから、血の繋がった妹にも…」
「ちょっとリン姉!人聞きの悪いこと言わないで!!」
「間違ってないでしょう?ビーノ姉様は、ロリコンで「え?」浮気性な「そんなこと…」駄目な女なんですから。「…」」
「サフィー、もう辞めてあげて…」
そんな…
私、サフィーに駄目な女って思われてたのか…
もう、立ち直れないかも…
「実際そうじゃないですか。八歳くらいの女の子に、ホイホイついて行って、私が居るのに聖水なんか買って…」
「どうせ、私は駄目な女ですよー…」
「…何拗ねてるんですか?」
「サフィー、貴女がそれを言うの?」
やっぱり、リン姉が居ると話が盛り上がっていいね。
でも、サフィーはちょっと辛辣過ぎるような…
よし、しばらく甘やかさないようにしてみるか!
…出来るか分かんないけどね?
「とにかく、他に何も買わされてないですよね?」
「護符を買ってあるけど?」
「そんなもの買って…何に使うんですか?」
「きっと、いつか使う日が来るよ。」
あの護符は、サフィーへのプレゼントだったんだけど、サフィーを甘やかさないって決めたから、絶対渡さない。
何処かで仲良くなった人にでもあげよう。
…サフィーが、猛烈に嫉妬しそう。
「あの護符って、サフィーへのプレゼントだよね?」
「そうだね。でも、しばらくサフィーに厳しくしようと思ってるから、そのうち誰かにあげようと思ってる。」
「絶対無理ね。ビーノが、サフィーへ厳しくするなんて信じられないもの。あと、護符を誰かにあげるのは辞めておきなさい、その人がサフィーに殺されそうだから。」
なるほど…本来、サフィーへのプレゼントの護符が、よくわからない奴の手に渡るなんて、サフィーなら、発狂してそいつ殺しに行きそう。
というか、普通にありそうなのが怖い…
っ!?
「ビーノ…」
「分かってる。」
私は、サフィーを抱きしめて、守りの体勢をも取る。
リン姉が、槍を構えて警戒してくれてるから、私はサフィーを守ることに集中出来る。
そして、ドアがノックされる。
「どうぞ」
槍を仕舞い、普通の顔を貼り付けたリン姉が、ドアに近付く。
そして、ドアが開かれて、フード付きのローブを羽織った、分かりやすくヤバそうな男が現れた。
「お前がドラゴンを倒したのか…」
「なんですって?」
私は、ギルドにドラゴンの素材を売ってない。
それに、ドラゴンを倒したという話もしていない。
あるとすれば、商隊の誰かがポロッと言ってしまったとかだろう。
それでも、ここに来るには早すぎる。
「お前…どうして、そのことを知っている?」
「認めるのか?」
「認めるさ。だが、私はドラゴンを討伐したなんて話は、外で話していないぞ?」
「そうか…」
そう言うと、男は踵を返して歩いて行った。
「何者…?」
「分からない。でも、絶対ろくな奴じゃない。」
「魔神教ですかね?」
「アルスとか、バカとかと気配が似てるような気もするね。」
いや、そいう事か…
「あいつに関する話は終わり。」
「え?」
「あいつ、私達よりも遥かに強いよ?それなのに、どうして私達に気配を感じ取れたの?」
「…なるほど。邪魔するなって事か。」
直接手を加えるまでもない、そう判断されたんだろう。
つまり、見逃された。
わざわざ勝てない相手に、戦いを挑むほど、私は勇者じゃない。
サフィーやリン姉のためにも、余計なことはしないでおく。
「取り敢えず、私達は何も見なかった。いいね?」
あの男については、特に何もしない方針に決まった。
「部を弁えているか…これなら警戒する必要は無いな。」
謎の男は、ビーノ達への警戒心を解いた。
警告に来ただけだが、ビーノ達の強さが想像以上だっのだ。
そのため、排除も視野に入れていたが、あの様子だと、こちらから手を出さない限り何もしてこないだろう。
男はそう考え、ビーノ達への警戒を解いた。
「下手に刺激せず、お互い不干渉を貫くべきだろう。そう、思うだろう?」
「そうね、貴方が何もしてこないなら、私が何かすることはない。」
ビーノが現れて、声をかけてきた。
ここは宿のすぐ近く。
この距離ならすぐに来れる。
「一応聞いておくけど、貴方、魔神教?」
「そうだ」
男は、ペンダントを取り出した。
その色は…
「っ!?それ、偽物じゃないよね?」
「魔神教のペンダントは、全て『使徒』の一人が作っている特別製だ。偽物ならすぐわかる。」
「まさか、こんなところで出会うなんて思わなかったよ。」
「そうか、では私はいくぞ?これでも忙しいからな。」
そう言って、男は転移で去っていった。
その去り際、月光に当てられてペンダントが“赤く”輝いていた。
翌日
「まだ喧嘩してるの?」
「姉様が私をいじめてくるんです!!」
「私は、サフィーに教育をしてるのよ。」
「いや、そんなことはどうでもいいのよ。」
サフィーに厳しく接する事を、ビーノが選んだ結果、すぐに喧嘩になった。
昨日の夜、一緒に寝たいというサフィーのお願いを、ビーノが拒否した事から始まる。
その後、ビーノがサフィーに厳しく接するようにしていることを知ったサフィーが、癇癪を起こしたのだ。
『ヤダヤダ!!何が何でもビーノ姉様と一緒に寝ます!!』
『駄目なものは駄目なの!!言うことを聞きなさい!!』
ずっと、これの繰り返し。
サフィーの癇癪は酷くなるばかりで、ついにはビーノに掴みかかったりした。
しかし、ビーノとサフィーでは、筋力に差があり過ぎる。
そのため、すぐに引きはざされ、叱られる事になった。
そこで学習したのか、サフィーは言葉で攻撃を始めた。
しかし、そこでビーノが怒ってしまい、口論になってしまった。
『うるさいから、防音の魔法掛けてやって。』
そして、ビーノはそれを聞いて防音の魔法をかけた。
しばらくしてから見てみたら、お互い胸ぐらを掴んで。顔を真っ赤にして怒鳴り合っていた。
かなりの大喧嘩になっている。
私は、二人を止めに入り、なんとかその間は止めることが出来た。
しかし、私か居なくなった途端、すぐに喧嘩を始める二人。
「厳しくするのはいいですよ?でも、軽いキスくらい良いじゃないですか!!」
「別に駄目とは、言ってないでしょ?」
「言いましたぁ〜!」
「言ってませぇ〜ん!」
別にそんなこと、どうでもいいでしょ?
ビーノは極端にやりすぎで、サフィーは突っかかり過ぎ。
まったく…二人は私のかわいい妹に変わりはない。
しかし、問題が多すぎてそれどころじゃない。
「愛する妹にそんなことを言うなんて…姉様の愛は、その程度なんですね?」
「なんですって!?それなら、すぐに癇癪を起こして、私のせいにするサフィーの方が、その程度の愛なのよ。」
「なっ!?…姉様のヘタレ!!」
「うるさいわね!!私はヘタレじゃない!!」
ほら始まった。
本当に、いい加減にしてほしい。
ずっと、喧嘩を見せられてるこっちの気持ちにもなって欲しいものね。
「なら、私の愛を姉様に証明してあげるので、姉様もその程度じゃないことを証明して見せてくださいよ。」
「いいわよ。溢さず受け止めなさいよ?」
「え?今するの?」
「「駄目?」」
「そりゃあ、駄目でしょ。夜にしなよ。」
こんな昼間から何してるんだか…
この二人は、私が見てないと何仕出かすかわからないから、目が離せない。
はぁ〜、どっちか姉様が見つかってほしい…
そうじゃないと、いつか禿げる気がする…
「本当に、一人で大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。だいぶ慣れてきたので。」
夜になり、念の為部屋を変えてもらった。
そのせいで一人部屋になっちゃったけど、一人で寝るのもだいぶ慣れてきた。
これで、少しは二人の騒がしさから開放される。
「でも、ここって隣ですよね?」
「そうだな。まあ、ビーノ嬢は防音の魔法が使えるから、問題ないんじゃないのか?」
「…そうですね。きっと大丈夫でしょう。」
これで、音が漏れてきたら相当だからね。
流石にそれはないだろう。
「それじゃあ、おやすみ。」
「おやすみなさい。」
私は、一人部屋に入った。
「やっぱり静かね…」
こんなに静かだと、不安になってくる。
なんだかんだ言って、あの騒がしさが好きだったのかも知れない。
『本当に大切なものは、失って初めてわかるものだよ。』
ビーノが言っていた言葉だ。
確か、ビーノは転生者だったはず。
となると、あの知識は前世のものなんだろうか?
「失って初めて分かるか…誰が言ったのか知らないけど、いい言葉ね。」
大切なものを失う事は、止められないんだろうね。
だって、失わないと大切なものはわからないから。
そして、そこで初めて『どうしてもっとしなかったのか?』と、後悔するんだろう。
後悔することは仕方ない。
大切なのは、後悔したあとどうするかだ。
そこで諦めてしまうなら、その程度。
前に進むなら道は開かれる。
「その時、私は耐えられるのかな?」
私が耐えられるのか。
そこが一番の問題だろうね。
決めつけるのは良くないけど、あの二人を頼ることは出来ない。少し、不安が残るから。
でも、姉なら妹を信用してあげないと。
「…やっぱり怖い。」
私は、一人部屋が怖くなって、一度二人のところへ向った。




