魔女とトカゲ
「んん〜!よく寝た!!」
私はベットから起き上がると、サフィーに脱がされた服を探した。
そして、着替えると、サフィー達が寝ているのを確認して、素振りに向った。
「二百二十二、二百二十三、二百二十四。」
普段使っている黒鉄の大剣を素振りに使用する。
黒鉄は、硬くて重いので、重量級の武器によく使用される。
私が普段使っている大剣も、黒鉄製の重量級の大剣だ。
本気で戦うときは、精霊剣を出すけどね。
でも、それ以外では黒鉄製の大剣を使ってる。
「嬢ちゃん、朝から気合い入ってるね〜」
「えっと…宿の人ですよね?」
「そうだね。この宿は主人と私の宿だよ。」
やっぱり…
昨日は、眠すぎて覚えてられなかったからね。
にしても、ずいぶんふくよかな体だな〜
「嬢ちゃん、今余計なこと考えなかったかい?」
「いえ、何も?」
「ふ〜ん?」
この女将、なかなか鋭いな…
私の演技を疑うなんて、女の勘が鋭いのか?
どちらにせよ、只者じゃないね、私が感知できなかったんだから。
…ん?
「あんた…何者?」
私は、剣をいつでも振れるように強く握りしめて、警戒をあらわにする。
「ほぅ…私の思考弱化が効きにくいとは思ってたけど、まさか破られとは…」
「やっぱり、あんた、只者じゃないね。」
場合によっては、精霊剣を抜ことも視野に入れないと…
「あんたを襲う気はないよ。例え、貴女が人外の怪物であったとしても。」
「私が人外?」
「その首飾り、ずいぶん特徴的な魔力を放ってるじゃない。まるで、昔見た人化のペンダントとそっくりね。」
そこは盲点だった。
まさか、ペンダントの魔力で見破られるとは…
「貴女は、人に対する害意を持ち合わせちゃいないみたいだね。代わりに、手を出されるとタダでは済まさないみたいだけど…」
「そんなことまで分かるなんて…本当に何者?」
「何者ね?人は、私のことを『北の魔女』と呼んでるね。」
北の魔女って…ローケンが言ってた、人類最強格の一人…
確か、謎に包まれていて、魔女の近くはいつも吹雪が吹いているという…
「吹雪は?」
「街中でそんなことしたら、迷惑極まりないでしょ?」
「なるほど…割とまとも?」
「ええ、ちょっと怖い魔女だけど、まともな人間よ?」
まともな人間か…
「じゃあ、本当の姿を見せてもいいんじゃないの?」
「それは駄目。本当の姿を見たいなら、私の家まで来ることね。」
「は?」
そういった直後、魔女の姿がかき消えた。
転移魔法だ。
人類最強の一角なだけはある。
魔力の流れをほとんど感じなかった。
つまり、一瞬で転移魔法を構築して、どこかへ転移したんだ。
「未だに転移魔法が使えない私とは、比べ物にならないくらい強いわね。」
私は、世界の広さを改めて理解した気がした。
「沢山食べますね…」
「朝から運動したからね。お腹が空いてるのよ。」
「だからって、それ何杯目ですか?」
数えてないから分からない。
でも、確実に十杯は食べてる。
今私が食べてるのは、麦100%の麦ごはんだ。
米には遠く及ばないけど、食べられないことはない。
「そう言えば、今朝、妙な気配を感じたんだけど、なにかあった?」
リン姉は、何かを感じ取ったらしい。
「北の魔女って呼ばれている怪物がやって来た。」
「え!?」
サフィーが、グルンッ!という効果音が付きそうな動きで、こちらを振り向いてきた。
「それ、本当ですか?」
「ええ、何か妙な魔法を掛けられて気付くのが遅れたけど、この宿の女将に化けて、やってきてたよ?」
「それ本当かい!?」
噂をすればなんとやら、女将が驚愕の声を上げて、こちらへ振り向いてきた。
「ええ、よく分からない魔法を使って、いつの間にか背後に立たれてたの。」
「その時、私の見た目をしてたのよね?」
「え、ええ…」
そんなに変装されるのが嬉しかったんだろうか?
「魔女様の本当の姿を見たものはいないの。人前に出るときは、いつも誰かの姿をしてるからね。」
「それっていつから?」
「ざっと400年前って、言われてるわ。」
「「「400年!?」」」
おかしい人間はどんなに長くても、300年が限界のはず。
その300年も、上位種族である、真人の寿命だ。
人間の寿命ではない。
「何でも、魂を別の肉体に入れることで、擬似的に不老不死になったらしいわよ?」
「別の肉体?それは、どこから調達するの?」
魂を別の肉体に入れる技、それは納得がいく。
不老不死というよりは、疑似転生だから、あり得ない話じゃない。
ただ、その肉体をどこから持ってきているかが問題だ。
「確か、始末した悪党の身体を奪ってるんだとか…」
「なるほど…それって、本当の身体って言えるの?」
「言えないんじゃない?今の自分の姿を隠すために、変装して人前に出てきてるらしいからね。」
なるほど、北の魔女にとっては、肉体はいくらでも偽装出来るから、ただの入れ物でしかないのか…
けど、本当に悪党の身体を使ってるのかな?
いくら偽装できるとはいえ、そんな身体使いたくないと思うけど…
「ビーノ姉様…本当に悪党の身体を使ってるんでしょうか?」
サフィーが、小声で話しかけてきた。
「多分、別の肉体を使ってると思うよ。サフィーは悪党の身体なんて使いたい?」
「嫌ですね。」
「だよね。」
このことについては、行く機会があれば確認すればいい。
どの道、今の私達のか力では、魔女のところには行けないからね。
リン姉は、女将が話に入ってきた時点で、話に興味を失って黙々と朝食をとっていた。
「え!?北の魔女に出会った!?」
ローケンが、キャラ崩壊を起こすほど驚いてる。
まあ、相手は人類最強の一角だからね。
世界的アスリートに出会ったって言えば、みんな驚くでしょ?
それと同じだよ。
「確かに、北の魔女はこの街によく来るそうですが…」
「初見で人外だって事がバレた。」
「流石ですね…」
北の魔女に会いに行くのは、まだまだ先になりそうだから、この話は終わりにしたい…
「あの方は、400年以上の間、身体を変えて生き残ってきたそうですが…」
「その、変える身体に選ばれないようにしないとね。」
「目をつけられてないといいですね。」
ここだ!
私は、ローケンに背を向けて、サフィーに抱きつく。
私達がイチャつきだすと、ローケンは気を使って、距離を取ってくれる。
ローケンの話を切り上げたい時は、サフィーとイチャついて追い払ってる。
「ビーノ、昨日の続きは?」
「ちょっと待って、今出すから。」
私は、空間収納から将棋盤を取り出す。
上には、昨日のままの駒が並んでいた。
ちなみに、サフィーはこの間、ずっと私に抱きついてます。
「確か、私で終わってたから、リン姉からだね。」
「そうね、今日中に決着をつけられるかしら?」
正直、多少時間がかかっても問題ない。
その時、
「なにか来る…」
私達は、一気に臨戦態勢に入る。
強い力を持った何かが、こっちに迫ってきてる。
そして、すぐにその正体はわかることになる。
「ドラゴンだぁーーー!!」
外から、叫び声が聞こえてきたのだ。
ドラゴン…種類にもよるけど、三人で戦えば勝率は高くなるかな?
私達は、すぐに馬車から飛び出して、ドラゴンの姿を確認する。
「良かった…下級竜よ。」
「これで、勝率が一気に上がったわね。」
「このトカゲは、私達の血肉になってもらいましょう。」
私達は、いつでも戦え位置で、ドラゴンと睨み合っていた。
「流れ弾を減らすためにも、離れてくれない?」
「わかりました。健闘を祈ります!!」
そう言って、ローケン達は先に行った。
さて、私達も始めるか…
「いくぞトカゲ。八つ裂きにして、ドラゴンステーキとして食べてあげるわよ!!」
私の声を合図に、戦闘が始まった。
「くっ…硬い。」
「リン姉!鱗を削ぐように攻撃して!!」
「わかったわ!!」
私達は、一体の下級竜相手に、かなり苦戦していた。
下級とはいえ、竜は竜。
防御力、攻撃力、魔力。
全てにおいて最強の種族と呼ばれるにふさわしい実力も持っている。
「目を抉るようにす攻撃すれば、有効打になるかしら?」
「視界を奪えるので、色々と有効打になると思いますよ。少しずつ、コイツの五感と力を少しずつ攻撃して行きましょう。」
いくら鱗が硬くても、目は比較的柔らかい。
そして、柔らかい所は体内だろう。
コイツに爆弾を食わせて、内側から殺すか。
「取り敢えず、このまま行けば勝てるから、油断はしないでね?」
「わかってますよ!」
「それくらいわかってるわ!」
私は、少し不安になりながら改めてドラゴンと向き合った。
眠すぎて何も思い浮かんで来ない…




