賊と『武装』
何故でしょう、まったく頭が回らない。
疲れてるのかな?
護衛三日目
「初日に襲われた以外、音沙汰ありませんね。」
「そうね。きっと噂になって、他の連中も諦めたのよ。」
今、フラグが立った気がしたのは気のせい?
これ、絶対襲ってくるよね?
あ…
「リン姉様…」
「囲まれてるね…」
ほ〜ら、やっぱりね。
どうして余計なこと言うかな?
まぁ、知らなかったんだろうけどさ。
「ビーノ、一人強いやつがいるわよ?」
「それくらいわかってるわ。私が感知出来ないとでも?」
「そうね。余計なこと言ったわ、ごめんなさい。」
「別にいいよ。怒ってないし。」
にしても、周りの雑魚が空気に見えるほどの力があるね。
私ほどじゃないけど、結構強いね。
「商人さん、大人しく積荷を置いてくなら、許してやるぜ?」
「ずいぶんと舐められたものですね?賊相手に、そんなことするわけないでしょう?」
「そうかよ、じゃあし、ぐえぇ!?」
おっと、加減を間違えたかな?
これ、死んでるんじゃない?
ピクリとも動かないけど…
「こいつらは賊なので、殺しても問題ないですよ?」
「そう?じゃあ遠慮なくやらせてもらうわ。」
私は、近付いてきた賊共に向けて、炎の槍を撃ち込む。
これで蹴散らせるでしょ?
振り返ると、サフィーは光の槍を雨のように降らせて、リン姉は一瞬で間合いを詰めて殺してた。
こう、頭を掴んでグリッ!ってやってるリン姉を見てると、なんか怖くなってきた。
「な、なんだこいつら!?」
「ば、化け物!」
化け物?違う、私は魔物だ。
…うん、余計なこと言った。
「光の槍…まさか、光槍の聖女か!?」
「って事は、あの炎使い、焔の戦乙女かよ!!」
「嘘だろ!?どうして英雄がこんなところに!?」
英雄の名前は、賊にも知られるのか…
やっぱり恥ずかしいんだけど。
やめない?私その二つ名嫌いなんだけど…
それとも、英雄へ対抗するための、精神攻撃手段なの?
「焔の戦乙女ってあれだろ?数万の魔物の群れと、魔族を一人で追い払ったっていう。」
「魔物と魔族を、終始圧倒してたんだろ?」
「それどころか、出動した冒険者とか領主の私兵が、何もせずに帰ったらしいぜ?」
「って事は、全部一人で倒したのかよ…」
うん、私どんな化け物だと思われてんの?
魔物と魔族を一人で追い払うとか、英雄とか言うレベルじゃないでしょ?
それもう、救世主とかそんなレベルだよ?
化け物すぎるでしょ!?
「良かったですね。噂になってますよ?」
「やめて、恥ずかしいから。」
「よっ、焔の戦乙女!」
「ちょっとリン姉まで!!」
ハァ…どうして私ばっかり。
サフィーの噂はないの?
「じゃあ、光槍の聖女は何したんだ?」
「焔の戦乙女が到着するまでに、負傷した奴ら全員を完璧な状況に治療したって話だ。」
「光槍の由来は、治療しながら襲ってきたワイバーン二匹を、光の槍で撃ち落としたかららしいぞ?」
「それどころか、焔の戦乙女のうち漏らした魔物を一人で片付けてたとか…」
うち漏らしって…そもそも、サフィーほとんど戦ってないし…
確かに、ワイバーンを撃ち落としたのは良かったけどさ。
ん?
来るか…
「英雄がいるんだってな?」
「な!?お前は、『地割り』のオットガルム!?」
「何?二つ名持ち?」
地割りって、また凄い二つ名だね。
奥から現れた男は、三メートルは超えてそうな巨漢だった。
そして、その巨体に似合う大きな戦鎚を持っていた。
地割りと二つ名は、あの戦鎚から来てるのかな?
「焔の戦乙女。噂には聞いているぞ?魔物の群れを一人で撃退したらしいな?」
「それは、ただの噂ね。魔物とは戦ってないし、魔族もお互い手を出さない事を条件に引いたって感じだしね。」
「ほう?噂の独り歩きか…だが、相当な実力者であることに違いはなさそうだ。」
力ある者の、特徴的な気配を感じ取ったかな?
こいつが気配を偽装してなかったら、私はこいつよりも強いからね。
「行くぞ?」
オットガルムは、巨体に反して素早く動けるらしい。
ただ、私に比べると遅く、スピード勝負をする気は無いらしい。
そして、私との距離を詰めたオットガルムは、その戦鎚を振り下ろしてきた。
威力を測るのに、一番いい方法は食らってみること。
当然、防御するけど、その衝撃がどれくらいかを測るには丁度いい。
「ふんっ!!」
「くっ!」
重たい…
純粋に力がこもった攻撃。
防御はしやすいが、その分受けたときのダメージが馬鹿にならない。
衝撃で手が痺れた。
「ほう…これを防ぐのか。」
「相手の強さを測るなら、こうするのが一番手っ取り早いでしょ?」
「なるほどな。だが、その代償は大きかったんじゃないのか?」
今度は横薙ぎに戦鎚を振るってきた。
手が痺れてる状況でこれはキツイか…
けど、これなら、少し地面に突き刺すことで衝撃を分散させられる。
もちろん、それだけじゃあ防ぎきれない。
「はあっ!!」
「同じ事の繰り返しか?」
「何!?」
身体強化をすれば、痺れた状態でも防げる。
それに、再生を全力で回してる。
痺れはすぐにとれるようになってる。
「身体強化でも使ったか?」
「当然よ。素の状態で止められたら苦労しないわよ。」
「そうか…腕力勝負では俺のほうが上だな。」
何当たり前のことを…
そんな巨体を持つお前よりも、華奢な私のほうが力が強かったらおかしいでしょうが。
…確かに、もうちょっと鍛えれば超えられそうだけどさ。
普通おかしいからね?
「じゃあ、もう本気で戦っていい?」
「好きにしろ。」
「それじゃあ、遠慮なく。」
私は、地を蹴ってオットガルムと距離を詰める。
私の間合いまで来ると、袈裟斬りの要領で剣を振り下ろす。
ガルムは、防御したがそこで攻撃が止んだりしない。
何度も色んな方向から斬撃を放つ。
すると、ガルムは防御しきれなくなっていた。
「ぐぅ!」
「腕に負担を掛けすぎたんじゃないの?もっと回避しないと。」
「黙れ。この程度、大した事はない!!」
そして、そこから反撃してきた。
私も、それに合わせるようにして、剣を振るう。
大剣と戦鎚がぶつかり合い、轟音と共に火花が散る。
「くっ!」
「いった〜!?」
互いに全力で攻撃した結果、衝撃が自分に跳ね返り、手が尋常じゃないくらい痛くなった。
「クソ〜、余計なことするんじゃなかった…」
「何という威力だ。その華奢な体の何処にそんな力があるんだ?」
「さあ?魔力のおかげじゃない?」
私の強さは、大量の魔力で成り立ってるからね。
そもそも、魔力の多い者は肉体も強くなるから、私の馬鹿力はそれのおかげなのかな?
「なら、俺も本気で相手しよう。」
その時、オットガルムの気配が格段に強くなった。
何かした事は確かだけど、それがなにか分からない。
この特徴的な魔力の動きは…
「そうか…『武装』ね?」
「当たりだ。『剛腕武装』、俺は魔法が扱えないが、武装は体で覚えた。」
「脳筋にしてはやるわね。」
まあ、魔力操作技術の応用である、『武装』なら、繰り返して使えば覚えられるか。
『武装』
魔力を、特定の動かし方をすることで、全身を強化する技術。
また、属性を持たせることで、その属性の武装を扱うことができる。
属性の武装は、その属性に特化してを強化することができる。
「ふんっ!!」
「これを受け止めるのは危険かな?」
私は、流石に武装をを使った攻撃を受けるのはヤバいと思い、回避した。
「やはり、考えなしに振り下ろせば、回避されるか。」
「当然よ。流石に武装を使った攻撃を受けたくはないわ。」
受け流せばいいんだけど、経験が少ないから慣れないことはあんまりしないほうがいい。
失敗したら、洒落にならないからね。
おっと!?
「考え事をしてる時に狙うなんて、酷いわね。」
「…お前、ふざけてるのか?」
「冗談だよ。」
流石にふざけすぎたかな?
でも、アレを理解するには十分な時間ができた。
「こんな感じかな?」
「は?…まさか、見て武装を覚えたのか!?」
「魔力の流れを見れば、魔力操作技術の応用である武装は、簡単に使えるわ。」
後は、これに炎属性を乗せるだけ。
…よし、出来た!!
「まさか…本当に見ただけで武装を覚えるとは…」
これをサフィーやリン姉に覚えてもらえば、かなり強くなれるはず。
「リン姉様、ビーノ姉様が良くないこと考えてる気がするのは気のせいでしょうか?」
「気のせいじゃない?きっと、私達にも武装を覚えてほしいんでしょ?」
「それが嫌なんです…」
武装は、絶対覚えてほしから、無理矢理にでも覚えてもらわないと。
「さて、一応聞いておくけど、引き返すつもりはない?」
「引き返さなかったらどうするんだ?」
「お遊び無しで殺しに行くけど?」
武装を覚えた以上、こいつらから得られるものはない。
なら、さっさと殺してしまう方がいい。
邪魔だしね。
「わかった、残りたい奴は残れ。勝てない相手に立ち向かう勇者がいればだがな。」
すると、全員一歩引いた。
「賢明な判断ね。私からは手を出さない。そっちがなにかしてきた瞬間、連帯責任で皆殺しに行くから。」
「わかった、手を出さないよう言っておく。」
何事も、話し合いで解決するに限るね!
…今、脅しだって言ったやつ、後で私と“遊ぼうよ”。
な~に、打ち込み台になってもらうだけだよ。
「いいんですか?逃してしまって。」
「そのうち討伐隊が派遣されるよ。わざわざ私が殺る必要は無いよ。」
賊なんて、いくらでも湧いてくるんだし、ほっといても変わらないよ。
「それよりも、サフィーやリン姉にも武装を覚えてもらうからね?」
「ええ〜!?」
「もちろん、サフィーもやるよね?」
すると、サフィーは頬を膨らませて、黙ってしまった。
「…」
「沈黙は肯定だよ?」
それでも、サフィーは口を開かなかった。
うん、可愛い。




