商隊護衛
本日二話目
これで、昨日の休み分は帳消しにできたかな?
「え?もういいんですか?」
「リン姉から聞いたよ。自分の行いを見直す事ができたって。」
ガキにしては、ずいぶん飲み込みが早い。
「俺、十三なんだけど…」
「「「は?」」」
「子供扱いされてるけど、俺、十三なんだよね…」
十三?こいつが!?
せいぜい八歳くらいだと思ってた。
…背低くない?
「ずっと、六、七くらいのガキだと思ってた…」
「やけに賢いと思ったら、そういう事か…」
サフィー、六、七はもっと小さいよ?
というか、リン姉はそう思うなら聞けば良かったのに…
「でも、やってることが子供じみてるから、見た目以外でも子供っぽいわよ?」
「それは…腹いっぱい食いたかったから…」
「それは、自分だけ?」
「いや、孤児院のみんなの分も…」
ふ〜ん?
「リク、魔力操作はできる?」
「いや、出来ないです。」
「じゃあ、一緒にやりましょう。」
「え?」
「は?」
「もっと集中しなさい。」
「そう言われても…」
私は、リクに魔力操作を教えることにした。
けど、どうも集中出来ないらしい。
…理由は明白なんだけどね。
私が振り返ると、犯人は顔をそらした。
「サフィー、さっきも言ったよね?」
「私はなにもしてませんよ?」
「次、ちょっとでも殺気を感じたら、リン姉に連れて行ってもらうからね?」
「え!?私!?」
リン姉は、ものすごく嫌そうにしてる。
そうだよね、私がどうのこうのの時にサフィーの相手をするのは、サフィーの本性を知ってる人からすれば、ある種の拷問かも知れない。
狂気じみた発言を繰り返しながら、私の元へ向かおうと暴れるサフィーを抑えるのは、恐怖でしかない。
だって、何してくるか分かんないもん。
「もっと集中して、サフィーはリン姉がどうにかしてくれるから。」
「私やりたくな…「やってね?」はい…」
「今、リン姉さんが脅されてたような「気のせいよ」はい…」
私に強気で言われて断れるのは、サフィーくらいだろう。
サフィーは普通に反論してくる。
だって、サフィーに手を上げるなんてことは、滅多にない。
それどころか、きつく叱ることもほとんどしない。
だから、サフィーは私に反論してくる。
…そのせいで喧嘩になるんだけどね?
む?
「サフィー、約束は覚えてるね?」
「私はしてませんよ?」
「じゃあ、誰がやったの?」
「魔物とかじゃないですか?」
ふ〜ん?
あくまでしらを切るつもりなのね?
「サフィー、貴女がやったってことくらい分かってるの。けど、正直に貴女の口から言ってほしいの。」
「私はやってません。何回言ったら分かるんですか?姉様、ついにボケましたか?」
「そんな年じゃないわ。いい加減諦めてくれないと、本気で怒るわよ?」
「怒ったらいいじゃないですか。もしかして、口だけでっ!?」
私は、サフィーの言葉を遮るようにして、平手打ちをした。
サフィーは、頬に手を当てて呆然としてる。
「リン姉、サフィーを連れて行って。」
「え?」
「やってね?」
「あ、はい。」
サフィーは、まだ状況が理解できておらず、呆然としてる。
そんなサフィーを、リン姉が抱きかかえて運んでいった。
「じゃあ、再開するよ?」
「は、はい。」
それから、三十分ほど同じことを繰り返していると、光の槍が飛んできた。
私は、結界を張って防御する。
「い、今!」
「気にしないで、集中。」
私は、無理矢理練習を続けさせた。
更に、三十分経つと、リクは一人でも出来るようになった。
「よくやったわ。帰って孤児院の仕事を手伝ってあげなさい。」
「これを使って、冒険者にでもなればいいのか?」
「それは好きにして。まぁ、せっかく教えたんだし。有効活用してね?」
「わかった。」
そう言って、リクは走っていった。
さて、サフィーの様子を見に行くか。
「これは…どういう状況?」
私の目に飛び込んできたのは、傷だらけのサフィーとリン姉の姿だった。
「ビーノ姉様!!」
「あっ、ちょっと!その状態で近付かないで!!」
そんな血塗れの体で抱きつかれたら、私まで血塗れになる。
私は、サフィーを無理矢理止めて、サフィーの血を拭き取る。
「リン姉、何があったの?」
「暴走するサフィーを止めるために、実力行使をしたまでだよ。二度とこんなことしないから!!」
リン姉は、もうサフィーの相手はしたくないらしい。
まぁ、狂気に満ちたサフィーの相手をするのは、私でも精神力を削られる。
「はあ〜、ビーノ姉様の汗のニオイ…」
「サフィー、恥ずかしいからそういうこと言わないで。」
「絶対に離しませんから〜」
駄目だ、幼児退行して甘えてる。
この状態のサフィーは、満足するまで抱きつかれてるのが、一番いい。
そして、私も抱きしめて可愛がる。
「そうだリン姉。怪我はどうする?」
「自分で治せるから大丈夫。ビーノよりは精密な回復魔法が使えるから。」
「そうなんだ…知らなかった…」
取り敢えず、サフィーは抱きかかえてテントに連れて帰ろう。
リン姉は、自分で歩いてくるでしょ?
「えへへ〜、ビーノ姉様に抱っこしてもらってる~」
「よしよし、そのまま大人しくしててね〜」
「そんな、赤ちゃんみたいな対応のしかたしてていいの?」
「サフィーは今、幼児退行してるから、赤ちゃんみたいな対応でいいの。」
この、甘えん坊サフィーは、たまに指を近付けると吸い付いてくるんだよね〜
「うぅ、ううぅ…」
「どうしたのサフィー?お腹すいたの?」
「お腹すいた~」
「よしよし、それじゃあ帰ったらご飯にしましょうね。」
リン姉に白い目で見られてるけど、気にしない。
それよりも、サフィーへの対応が先だからね。
久しぶりに蜂蜜トーストでも作ってあげようかな?
「サフィーは何食べたい?」
「お肉ー!」
「お肉か〜。この前下味をつけてた肉なんてどう?」
「それがいいー!」
はあ〜、この状態のサフィーは純粋で子供みたいで、また別の可愛さがあるな〜
もちろん、いつものサフィーも可愛いよ?
でも、自分に甘えてくる子供って、愛しいものだと思わない?
私は、とても愛しい。
だからこそ、私はサフィーを守りたい。
愛しい者のために、なんだってする。
それが、例え姉達を皆殺しにすることになったとしても。
私と親しい人達が、全員死ぬことになったとしても。
「ビーノ姉様〜、大好き〜!!」
私は、サフィーを選ぶ。
翌日
「ここから、街を離れるまで気を抜けませんからね?」
「わかってるわ。私達が守ってみせるわ。」
「頼もしいですね。」
アルベイを購入したローケンの馬車を、別の街にある加工場へ連れて行く。
これが、今回の仕事。
その街までは、軽く5日はかかるらしい。
5日間、集中を切らしてはいけない。
ある種の苦行だね。
「街の中で襲われることはないと思いますが、一応警戒しておいてください。」
「わかったわ、怪しいやつがいたら警戒しておくわね。」
欲を言えば、一度も襲われてほしくないけど、それは無いだろう。
大きな金が動くときは、欲も動く。
欲に駆られた、愚かな人間共が、あまーい蜜を吸いに集まってくる。
それを弾き返すのが、私達の仕事。
「合法とはいえ、やっている事は、薬物売買の協力。気は進まないわね。」
「仕方ありませんよ。これも仕事なんですから。」
「そうね、仕事だもの、妥協は許されないわ。」
サフィーに諭されて、気合を入れ直す。
ちなみに、一晩明けたらサフィーは元に戻ってた。
もうちょっと可愛がりたかったな〜
そんなことを考えたせいで、集中が途切れてることを、リン姉に怒られてしまった。
「ん?」
あいつ…
私が、怪しいと思ったとき、馬車に迫ってくる気配を感じた。
「来たか!」
私は、いつでも動けるように待機する。
そして、連中がこの馬車狙いだと確定した瞬間、私は飛び出した。
「な、何だおま、ぐへっ!?」
「お、女がどうし、ぐあ!?」
「この女強いぞ、ぐはぁ!?」
「貧弱、雑魚、ノロマ。ゴミばっかりね。」
私は、商隊の後ろ側に群がるゴミ共を蹴散らすと、サフィーの方へ向った。
リン姉?
最速で蹴散らしてるよ?
まさに、電光石火。
破竹の勢いで、左側に群がるゴミ共を蹴散らしてる。
「ボウフラ、ガガンボ、カゲロウ、弱っちい奴しかいないね。」
どいつもこいつも、小突けば死ぬような雑魚ばっか。
よく、この程度の力で、専属護衛がついてる商隊を襲おうと思ったね。
それとも、確実に一つは奪えるくらいの数を揃えたとか?
悪いけど、私達には数を揃えたところで敵わないんだよね〜
…流石に、数百人で来られると守りきれないけど。
「サフィー、こっちの様子は?」
「殲滅しましたよ?ビーノ姉様も、持ち場に戻ってください。」
「わかったわ。」
サフィーは、なんだかんだ状況把握は出来る。
だから、やる時はしっかり気持ちを切り替えられる。
…ちょっと悲しかったのはナイショ。
これで、全滅かな?
さて、そこに意識があるやつがいるし、聞いてみるか。
「ねえ?どうしてこんなことをしたの?」
「金が、ねえからだよ。」
「金?それなら普通に働けばいいじゃん。」
どうして、それをしようとしないんだか…
「働いたって、カスみてえな金しか手に入らねえんだよ!!だから、こうやって稼ぐしかないんだよ!」
「ふーん?で?」
「はあ?」
「それが、こんなことをする理由にはならないよ?」
どうして、こんな当然のことが分からないのやら。
「どういう事だよ…」
「それは、お前が苦しい事から逃げてるだけだろ?」
「それは…」
「逃げることは、悪いことじゃない。人生逃げたい時だってある。じゃあ、なんで逃げることが悪いって言われるか分かるか?」
「…」
なるほどね、そこを考えられないのか…
「周りの人に迷惑がかかるからだよ。逃げれば、その分の事を誰かがやらないといけない。そうすると、その誰かに迷惑がかかる。」
「…」
「そいつは、自分の分だけでなく。逃げた奴の分も働かないといけないからな。」
それをしても、そいつに得なんて一つもない。
それは、サービス残業をしてるようなものだから。
損しかしていない。
「何かを得るためには、それなりの対価が必要なんだよ。なんの対価も無しに、何かを得られる度思ったら大間違いだ。勘違いもそこまで行くと、素晴らしく思えるね。」
物を買うためには、お金がいるように。
何かを得るためには、それにふさわしい対価が必要になる。
高すぎる願いを叶えるためには、大きすぎる対価を払わないと、それは手に入らない。
「自分のした行いわね。廻り廻って、自分に帰ってくるんだよ?」
「は?」
「もし、貴女が人を傷付けたら、周囲の人からの信用を失って、見捨てられて、そして、ろくでもない奴に殴られたり、蹴られたり。そうやって、自分に帰ってくるんだよ?」
だから、小さい頃に、親から人に優しくするんだよ?って言われるの。
人に与えた優しさは、そのうち自分に帰ってくるから。
そうすれば、自分も得するし、相手も得する。
それって、最高じゃない?
こんなに良いことは無いよ。
「子曰く、己の欲せざる所は人に施す勿れ。」
「?」
「自分がされて嫌なことは、他人にもするなって事だよ。これを機に、自分の行いを振り返ってみたら?」
正しく過去を理解できて時、ようやく明るい道を歩むことが出来るから。




